MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

八方美人になりたい

2013-04-04 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

04/04 私の音楽仲間 (475) ~ 私の室内楽仲間たち (448)



            八方美人になりたい




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




                関連記事

                最後の四重奏曲 (3)
                最後の四重奏曲 (4)
                最後の四重奏曲 (5)
                最後の四重奏曲 (6)
               キャッチボールの基本?
                共通項の無い世界
                八方美人になりたい
             それでいいのだハムレット君!




 [譜例]は、Beethoven の弦楽四重奏曲 ヘ長調 作品135
から、第Ⅲ楽章の冒頭。 その ViolinⅠのパート譜です。

 「充分に遅く、歌って、そして静まって」と記されていますね。
さらに3小節目には、「低い声で」…とあります。



 演奏例の音源]は前回までと同じメンバー、Violin 私、
A.さん、Viola K.さん、チェロ Su.さんが挑戦したときの
ものです。







 まず、出だしの2小節。 ハーモニー作りが難しい。

 クセモノは “第三音”、ファの音です。

 この場でも何度か記しましたが、「長三和音の
第三音は低く。」 ハーモニーを重視する場合
の、基本的な取り方です。



 ピアノで “ドミソ” を鳴らす。 これ、綺麗な
響きではないことを、きっとご存じでしょう。

 本当は、ミをかなり低く取らないといけない。
和声的には…ですが。




 しかしそのミ (純正調) は、他の役割には向きません。
概して低すぎるから…。

 また、鍵盤上の “ソ” も、実はかすかに低い。 “ド”
を基準にして、純正調で取ると…です。



 ところがピアノでは、各音の高さを変えられない。 そんな
矛盾を少しでも改善しようとしたのが、平均律です。

 平均律にも色々ありますが、いわば “妥協の産物” です。
表現は悪いけど、“八方美人” ですね。




 長三和音の取り方については、実は当日も触れました。
この演奏の直前に。

 しかし大事なのは、「習慣として根付くかどうか」ですね。
長期間に亘って。



 「その習慣の手始めになってくれればいい。」 いつも
そんなつもりでお願いしています。




 先ほど (1) “ハーモニーを重視する場合” と書きました。

 では、“そうでない場合” とは?

 その一つに、(2) “音階的に自然であればいい場合” があり
ます。 いわば、自分の “横の流れ” だけを考えればいい。



 テンポが速ければ、「短い一音一音が、和声的に正しいか」
どうかは、それほど問題ではない。 周囲に気を遣わなくても
済むからですね。



 この (1) と (2)、両立しないことが多い。

 たとえば、ド、レ、ミ…と、音階で上がるとしましょう。 “ミ” は
明るい方が、気分的にも自然ですね。 音程は、本能的に高め
になります。

 ところがこの音に、もしフェルマータが付いたとしたら?
周囲には、ドやソの音がありますよ。



 和声的には、本来は低くなければいけない “ミ”。 でも
それが高いのですから、自分だけ浮き上がってしまう。
どうしようもありません。

 「“正しい” 音程は一種類しか無い。」 もしそう信じて
しまったら、アンサンブルは出来ません。




 テンポが遅くなれば、ハーモニーが大事になります。

 ちょっとした音の高低でも、目立ってしまうから。 周囲の音
を聴き、うまく溶け込むように集中しなければなりません。



 “知識3割、耳7割”。 “第三音” のお願いをする
ときに、私がよく付け加える言葉です。

 「まず事前の知識が必要。 そして実際に聴いて
判断することは、さらに重要です。」



 ちなみに “属七” の第七音は、極端なほど
低く取らないと、調和しません。




 では Beethoven の、この楽章は?

 (1) ハーモニー、(2) 音階。 そのどちらを重視すれば
いいのでしょうか?



 長い音 (付点四分音符) だけなら問題無い。 ハーモニー
的な調和を優先すればいいからです。

 では、八分音符で動く Vn.Ⅰの場合は、やはりそれで
いいのでしょうか?







 実はこれ、中途半端で、一番やりにくいテンポなんです。
Vn.Ⅰにとっては。

 両方とも気にしなければいけない。 しかし、「両方とも
同時に満足させる」のは不可能だ…。



 いわばジレンマですね。

 どんな八方美人でも、これでは無理でしょう。




 ところが音作りの現場では、さらに難しい問題があります。

 たとえば、自分がこれから出す音が、すでに鳴っているとき。
特に、(1) “ハーモニーを重視” する場合です。

 それが “正しい音” であれば、問題ありません。 同じ音で
溶け込めばいいのですから。



 でも、もしそうでないときは…。 貴方なら、同じ音を出して、
“ハーモニーの改善” の方を諦めますか?

 それとも、あくまで “正しい” と信じる音を出すか? その
場合、先に鳴っている音と喧嘩することになります。




 「じゃぁ、お前はどうするんだ?」

 …おや。 鋭い追及ですね。 そう
訊かれると、困ってしまうんです。



 『あちら立てればこちら立たず…。』 どちらかに、
不義理を働くことになるから…。 たとえ八方美人
でも、進退窮まってしまうでしょう。

 八方美人さん、実は自分に自信が無い?




 ところで[譜例]には、で塗った部分がありますね。

 これ、何だと思われますか?



 実はこれ、“手を抜きたい” 箇所なんです。

 「けしからん!」…なんて言わないでくださいね。 むしろ
“本気になってはまずい” 部分なんです。

 その理由は、もっと重要な動きをしているパートがある
から。 アンサンブルでは、他に頼るのも大事なことです。



 「でも、cresc. と書かれている部分があるぞ!? 2箇所も!」

 …ええ、これも。 なんとなく、他のパートに頼りたくなる
箇所なんです。

 理由は、自分でも説明できないんですが…。 ハーモニー
の厚みの問題でしょうか。



 自信が無く、ましてや八方美人でもない私でした。




       [音源ページ ]  [音源ページ