MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

過剰な負担を強いるな

2014-11-05 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

11/05 私の音楽仲間 (631) ~ 私の室内楽仲間たち (604)



           過剰な負担を強いるな



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 演奏例の音源]は前回と同じもの。

 Mozart の弦楽五重奏曲 変ホ長調 K614 
第Ⅳ楽章のロンドから、後半部分です。


 次の[譜例]は、楽章の冒頭の様子です。

 

 さて、楽譜には色々な情報が書き込まれていますね。 音程、
長さ、強弱、スラー、スタカート…。 演奏者はこれらを守りつつ、
各音符を弾き分け、音楽を組み立てていくことになります。

 ↓の箇所をご覧ください。 (1) ではスタカートの記号が書か
れていますが、同じような (2) の部分にはありません。

 「両方ともスタカートか? それとも区別すべきなのか? 

                (1)           (2)

                ↓           ↓ 


 作曲家も多忙なので、二回目以降は記号を省略する場合
があります。  これ、どちらなのか? よくある例で、演奏者
にとっては実に紛らわしい…。

 そこで他の版を調べてみました。

               ↓            ↓

 

 やはり一度目はあり、二度目は無い。 でもよく
見ると、スタカートの記号はクサビ形です!

 それに最初3小節間はすべてクサビ形です。
その上、丸い “・” のスタカートも混在しています。

 問題点は逆に増えてしまいました。


 こうなると、取捨選択や判断は自分でしなければ
なりません。 またこれはスコアですから、最終的に
はパート譜にすべて書き込む必要があります。

 一旦こういう作業が始まると、膨大な労力と時間
とられます。 時には楽器を鳴らす時間以上に。 


 

 ちなみに、最初にご覧いただいたスコアはペーター
版で、二番目はベーレンライターです。 今回は後者
を採用することにしました。

 パート譜も、当然ベーレンライターを用いればいい
のですが、この曲で私が以前から使い慣れているの
はペーター版でした。 指使いその他を細かく書き
込んであるほか、コピーを継ぎはぎまでして “めくり”
に対処した、“力作” なのです。

 印刷のままだと、間に合わない “不可能なめくり”
が多い。 その点では、どちらも大差ないのですが…。

 

 散々悩んだ末、使い慣れたペーター版に、ベーレン
ライターの内容を書き写すことにしました。

 して、結果は…。



 f を書き込み、丸いスタカートを消し、あるものはクサビ
形に直し、スラーを消し…。 これでは汚くて、瞬時に情報
を読み取るのは無理ですね

 仕方なしに、これまで真っ白だったベーレンライター版を
使うことに決めました。 作業内容は逆で、従来の “体験
情報” を書き込むわけです

 新しいボウイングや、今までの指使いなど、すべてを…。
でも、これでだいぶスッキリします。

                  ↓


 ちなみに一段目のスラーを書き込んだのも、×で消したのも
自身です。 これはペーター版に見られるスラーでした。

 身体がこれを覚えてしまっているので、確認のために敢えて
記したものです。 (スラーはあったほうが、多少は簡単なのですが。)

                       ↓      ↓      ↓


 なお三段目の最後では、f が落ちていました。 スコアには
あっても、パート譜に無い!

 冗談じゃないよ。 p のままでは “どうもおかしい” と思って
はいたが、気付くまで p で練習してしまったじゃないか…。


 楽譜の誤植を皆無にしろ…とは言わないが、売る以上は、もっと
責任を持ってほしい。 演奏者は比較文献学者ではないから。

 それに、コピーやツギハギをやらせるようでは問題外。 演奏
使えないような楽譜は出版するな。


 …などと、だいぶ意気が上がってしまいました。 なにも、
この曲に限った話ではありません。 演奏するかたなら、
誰でも同じことを感じておられるでしょう。

 こういう作業を通じて、【作曲家の筆致に親しめる】という
メリットは、確かにあるのですが…。



 ちなみに友人のチェロ弾き Su.さんは、この点で徹底しています!
必要あって、ご自分で全員の楽譜を用意してくれるとき、大変な労力
を払ってくれるのです。

 まず、もっとも適当と思われる版を入手し、“めくり” が可能なように
全体を再構成して割り付け、印刷、製本…。 そして各自に届ける…。


 しかも、発表を前提としていない、“一期一会の場” でも…ですよ。
いや、だからこそ、むしろその必要があるのかもしれない。

 私もやっと、最近そう感じるようになりました。

 


 

 さて、丸型とクサビ形では、スタカートはどう違うのでしょうか?

       丸
       ↓ 

  

 「クサビ形のほうが、個々の音符にスピード感があり、リズム
の歯切れがいい。」 …今回はそう書いておくに止めましょう。

      クサビ
      ↓

                ↑            ↑
                (1)           (2)

 また (1) にはスタカートがあり、(2) にはありませんでしたね。

 最初はリズムが主体で、歯切れよく! 次は、メロディーとして
ラインを意識するといいのかもしれません。


 作曲者の書き分けが、如何に自然なことか。

 改めて再認識することとなりました。


 

      [音源ページ ]  [音源ページ




               関連記事

            弦楽五重奏曲 ハ短調 K406
              Mozart の厳格さと歌心 など

            弦楽五重奏曲 ハ長調 K515
              全員が指揮者? など

            弦楽五重奏曲 ト短調 K516
              疾走する Mozart … など

            弦楽五重奏曲 ニ長調 K593
              呼び交わすニ長調 など

            弦楽五重奏曲 変ホ長調 K614
              最後に五重奏曲
              変ホ長調の輪
              興醒めは得意さ
              みんな酔っ払い
              どっちでもないさ
              過剰な負担を強いるな




最新の画像もっと見る

コメントを投稿