MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

厳しさと重圧

2009-07-29 00:00:12 | 私の室内楽仲間たち

07/29 私の音楽仲間 (84) ~ 厳しさと重圧

                   出逢いの妙 ④




          私の室内楽仲間たち (64)



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』



             『ラズモーフスキィ』第

                   素通りする音
                  音楽すきィ伯爵
                   誰が縁結び?
                   厳しさと重圧
                    涙する長調
                 無骨さなら任せて…
                   61歳の試練
                    半拍の差
                    読者も踊る
                 忠ならんと欲すれば
                   ここにもロシア
                 悲しみよ こんにちは
             ロシアと張り合う Beethoven
                音の濃淡とアンサンブル
                   謎の美女 出現
                規律違反の癒し?
                  美女の素姓?
                  喪服の美女





 私、M.さんT.M.さんSi.さんで挑戦した、この大曲。
やはり手強い曲でした。



 始めたのが午後の一時過ぎ。 しかし四つの楽章が一通り
終わってみると、もう二時半近くなのです! そう、スムーズ
に行ったとしても、軽く40分以上はかかる曲なのに、何度か
止まりながら、辛うじて辿り着いたのですから…。



 四人で顔を見合わせ、思わず苦笑しましたが、残された時間
は三時までです。 別室のグループと合流し、楽しいおやつが
始まるまでに、何とか終えなければならないからです。




 「どうしましょう、どなたか、ご希望の楽章はありませんか?」

 積み残したことは一杯あるので、本当はどの楽章も、すべて
もう一度やりたいのです。 でも時間が足りません。




 そして始まったのが第Ⅰ楽章、ヘ長調、4/4拍子の "Allegro"
です。 四つの中では、まだ手がつけやすい楽章でしょう。

 しかし、ざっと通しても10分かかるこの楽章、「内容の重さを
充分味わいながら…」とまでは、とても行きません。



 この楽章には様々な創意工夫が見られます。 そして曲
の進行とともに移り変わる、風景の色合い。 それが単純
な4/4拍子の流れの中に配置されています。

 各部分のコントラストを強調するために、テンポを変える
やり方は、少なくともこの楽章には似合いません。 自分
なりに気を付けたのは、テンポの一貫性を保つことでした。

 四分音符の音階から成るテーマに充分時間をかけること。
スラーの中の短い音 (16分音符など) や、スタカート系の音
が短くならないこと。 また、途中から登場する八分音符の
三連符は大変重要ですが、これが決して速すぎないよう、
大切に弾くこと。



 スピード感より、落ち着いた流れを保つように心掛けたの
ですが、果たしてどうだったでしょうか。




 次は "Allegretto vivace e sempre scherzando" の
第Ⅱ楽章、変ロ長調 3/8拍子です。

 「先ほどは合わせにくいところがあったな…」と、一回目の様子
を私は思い出していましたが、改めてその部分に差し掛かると、
さっそく声がありました。

 「ここは難所の一つです。」 そう言うのはチェロのSi.さん
です。 四人の中では、この曲の体験がもっとも豊富です。



 しっかりした外声、特にチェロの方がおられると、他の人間
が大変楽に弾けること、よくお解りいただけるでしょう。




 もう一人の外声、つまり私は、何だかんだ言っても経験不足。
この曲は "一日" 弾いたことがあるだけです。

 またしても "一日" だけ、それも別の場で。 はるか20年ほど
前のことなので、正確には思い出せません。




 でも弾きにくかった箇所だけは、やはり何となく覚えている
ものですね。 とにかく Beethoven の曲は、音の動きが
"ピアノ的"
ですから。

 1オクターブの範囲で五本の指が動きまわりながら、それを
腕全体が運んで行く、あの動きです。 オクターブなどの跳躍
が多い音形は、決して弦楽器向きとは言えません。

 これは私のパートに限らず、おそらく誰にとっても弾きにくい
だろうと思います。



 それに加えて、どのパートにもほぼ同等の重要性が与え
られているのが、特にこの頃の Beethoven の作品です。

 主要モティーフは均等に散りばめられ、全体のリズム
を構成する要素も、思わぬ所にはめ込まれています。




 そして、意志の力を絶えず試されているかのような、
演奏者にとっての、あの圧迫感。

 それは音を取るだけの苦労では、もちろんありません。
整然としたリズムテンポのキープはもちろんのこと、各
ダイナミックス (強弱) 記号の遵守が要求されます。

 この "" の配置は、特に BEETHOVEN の場合、全体の
構成と密接に結びついています。 音量と同時に、遠近感の
問題でしょう。



 その指定を厳密に実現するには、まるで「作曲者の克苦勉励
ぶりを追体験しろ」と言わんばかりの、精神的な厳しさが要求
されます。




 …などと言っている間に、もうすぐ三時になります。



 そして始まったのが第Ⅲ楽章、 "Adagio molto e mesto"
ヘ短調、2/4拍子でした。 二回目となると、さすがに今度は
曲がよく流れます。

 しかし楽章の最後にある、私のカデンツァ (協奏曲の即興的
独奏部分)
風の部分まで差し掛かると、ちょうど別室のグループ
の皆さんが部屋に入ってきました。

 そう、おやつの時間なのです! 弾いているのは、ほとんど
私一人なので、何だかみんなに見られながら、至近距離で
オーディションされているみたい…。



 この圧迫感、精神的な厳しさ。 まるで 200年後の
この場を、Beethoven が見越していたかのようです。




 とにかく "おやつ"、"おやつ" です!



 お茶とお菓子を囲んでの歓談。 初めて同士の仲間の
自己紹介。 次々に明らかになる、知人同士の知り合い
関係…。




 休憩後は、また別の四重奏曲が待っています。



 しかし、Beethoven の与えた重圧と感動は、まだ
私の心の中で尾を引いていました。




 以下の音源は前回までと同じものです。




 第Ⅰ楽章




   [Covington String Quartet

Greg Pinney, violin  Luke Wedge, violin
Will Hurd, viola  Frank McKinster, cello

        I. Allegro




Nikola Nikolov, first violin  Sophie Sultan, second violin
Barbara Giepner, viola    Hermine Horiot, cello

        First movement




  [at string quartet camp in the summer of 2007

        Part 1  Part 2




    [Caprice String Quartet

        pt 1  pt 2




  [Beethoven's Best Music! (Part 9)




 第Ⅰ、Ⅱ楽章



    [The Highbury String Quartet

        mvt1  mvt 2




 全楽章




David Felberg & Roberta Arruda, violins;
Paul Reynolds, viola; Dana Wiinograd, cello

I Allegro

II Allegretto Vivace E Sempre Scherzando

III Adagio Molto e Mesto

III Adagio Molto e Mesto Part Two

IV Theme Russe: Allegro




    [演奏者不明

1.Allegro

2.Allegretto vivace

3.Adagio molto (1/2)  3.Adagio molto (2/2)

4.Allegro




ブダペスト弦楽四重奏団:1952年5月5~9日録音




  [バリリ四重奏団 1955年録音




  (続く)