MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

試金石のト長調

2009-07-10 00:30:56 | 私の室内楽仲間たち

07/10 私の音楽仲間 (74) ~ Mozart の ト長調 ④

                    試金石のト長調




          私の室内楽仲間たち (54)




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 ト長調の四重奏曲 K387、その第楽章の続きです。



 冒頭の16小節は何とか乗り切りましたが、またまた新たな
壁が現われました。 今度は少々手ごわそうです。

 「アンサンブルがずれやすい」と前回の最後に書きましたが、
実は止まってしまったのです。 演奏が…。




 それは、音源で言えば、① 1'02" ~ 1'20"、② 0'51" ~ 1'08"
に当る部分でした。

 これを譜例でご覧ください。 T1T3 と書かれた部分です。






 青で記した全音符の音形は、楽章の冒頭に現われる主要な
テーマです。

 また、緑色の小節を跨ぐ符点音符の音形は、この譜例の
直前に初めて登場した、もう一つの重要なテーマです。



 T1では、この二つが同時に現われ、中心的な役割を果たして
います。 これが音楽の骨組みなので、演奏する際には当然の
ことながら、この意図が伝わるようにしなければなりません。




 これだけなら話はまだ簡単ですが、問題は、"色の塗られて
いない音" が存在することなのです。 (当たり前ですね。)

 この副次的な音が、本来聞こえるべき重要な声部の邪魔
をしてしまう
のです。 これは大変頻繁に起こります。



 原因の一つは、この "重要でない声部" には音符の数が
多い
場合が珍しくなく、これが禍 (わざわい) してしまうのです。

 動きがただでさえ "目立つ" 上に、弦楽器では、弓使いの
関係で、特に音量が大きくなってしまいがちだからです。




 「いや、書かれたとおりに演奏していれば、そんなことはない
だろう。」 そうお考えの方も、きっとおられるでしょう。

 しかし実際には、聴衆にこの音楽の骨組みがそのとおり伝わる
ことは、むしろ大変稀 (まれ) なことなのです。 どんなに名人揃い
の演奏でも…。




 音楽の内容をすでに理解している方が聞けば、たとえ演奏が
不完全でも、聞き手の脳が補ってくれます。

 しかし演奏者が、聞き手側の事前の知識に頼っているよう
では不充分でしょう。 この曲を初めて耳にする方、スコアなど
見たことがない聴衆に対しても、"音で否応 (いやおう) なしに納得
させる" ような演奏が目標なのですから。



 こうして音楽全体の様子を把握してしまえば、ここに記した
内容など、「そんなのは言われなくても当たり前のことだ」と
お感じになるかもしれません。 しかし、いざパート譜だけを
睨みながら弾いてみると、全体が調和して聞こえるように
演奏するのは、かなり難しいことです。

 「ちゃんと喋ったつもりなのに伝わっていない…。」 日常
生活でそんな経験をするのと、まったく同じです。




 以上は、「聴衆に音楽を伝える」という観点から書かれて
います。 しかし、演奏中に "止まってしまう" ことまで起こる
とすれば、もっと大事な問題が潜んではいないでしょうか。




 リズムには、① "拍の表"② "拍の裏" があり、通常は
が主体になった方が、音楽には安定感があります。

 ところが、もしこの力関係が逆転してしまうと、リズム感も
テンポ感も、たちまち判らなくなってしまいます。 演奏者が
です!



 その上に、他の要素まで介入して耳障りになってしまうと、
音楽はさらに混沌としてしまい、演奏者までが幻惑され、
結果として "止まってしまう" ことにもなるのです。

 「一体、誰が、何をやってるんだろう…!?」



 もっとも重要な "全音符" を受け持つパートは、責任重大
です。 演奏の際には、音量だけでなく、ほどよく "リズム"
を感じさせるような弾き方をしなければなりません。




 何だか、"ねばならない" が多いですね。 読み直すと、自分
でも厭になります。



 でも演奏は、少なくとも "自分たちが納得する" ようなもの
でなければ、聴いている方はもっと "チンプンカンプン" です。

 何とかクリアー出来るといいですね。



 室内楽でも、オケでも、問題の根本はおそらく同じでしょう。




 それでは "プロの演奏" は、この基準を常に上回り、合格点
を付けられるものなのでしょうか?

 答は "No" です。




  (続く)