abc

news

特派員レポート 今年前半の王冠ランキング発表(外交部門 ’立ち話’)

2013-07-09 | Weblog

本ブログ管理人が決定した今年前半の王冠ランキング・トップの特派員レポートです。一言添えると、日本の安倍外交がまったくの四面楚歌にあることを、「立ち話」外交に着目して、みごとに明かしてくれました。

 特派員リポート 

ASEAN地域フォーラムでの出来事(立ち話)

今月2日に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)を取材するため、ブルネイに行った。

ASEANで最も小さな王国に、日米中を含む30カ国近い国々の外相が集まった。各国のメディアが注目したテーマは、中国とフィリピン、ベトナムなどが領有権を争う南シナ海問題や、北朝鮮が対話路線を打ち出したことでにわかに動き出した朝鮮半島情勢、そして尖閣諸島を巡る対立で対話が途絶えている日中の外相の「立ち話」が実現するかだった。

それぞれの結果は新聞でも紹介しているので省略するが、取材していて最も印象的だったのは米中の代表団が泊まったホテルで見たある場面だった。

米中代表団が宿泊したのは、ブルネイの王子がたてたとされる海辺のリゾートホテル。朝食会場も一緒だった。

1日の朝、随行員たちを引き連れて入ってきた中国の王毅外相は、テーブルに腰も下ろさず、小柄な白人男性と「立ち話」を始めた。

相手は、米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のラッセル・アジア上級部長。ケリー国務長官の下で、アジア外交を取り仕切る国務次官補への就任が決まっている米外交のキーマンの一人だ。

王氏とラッセル氏は、時折、互いの肩をたたき合い、大きな身ぶり手ぶりを交えて語り合っていた。話はなかなか終わらない。中国側の随行員がとっくに朝食を食べ終え、米国の随行員が腕時計を見ながら「次の予定には間に合わないな」と気をもんでいるのにも頓着しない様子で、両氏はおよそ30分も話し続けた。

6月、習近平(シーチンピン)国家主席とオバマ大統領がノーネクタイで8時間にわたって話しただけでなく、両国は様々なレベルでのパイプを強めている。朝食会場の光景はその一幕ではあるが、実はもう一つ、興味深い意味があった。

2人の「立ち話」は、翌2日の朝も再現された。時間こそ10分程度だったが、前日と同様、通訳も介さず、ごく親しげに話し込んだ。

この日、2人は随行員たちからも離れたバイキング形式の生野菜コーナーの前で話していたので、私も近づき、手にした皿をレタスで山盛りにしながら聞き耳を立てた。

残念ながら会話の内容までは聞き取れなかったが、途切れ途切れに耳に入ってくるラッセル氏の言葉に驚かされた。

 「オバマ大統領はですね……」

両氏が交わしているのは、なめらかな日本語だったのだ。

王氏もラッセル氏も、日本での勤務経験を持つ米中両政権きっての日本通。ふたりにとっては、最も対等に自然に話せる言葉が日本語なのだろう。

両氏は、「奇跡」とも言われた高度経済成長を成し遂げた時代の日本に魅力を感じ、日本を学び始めた世代のはずだ。そういう人材が米中両大国の外交の中枢にいるという事実に、大げさかも知れないが、当時の日本の国力の反映を見る気がした。

それだけに残念なのは、尖閣諸島を巡る問題で冷え込む昨今の日中関係だ。結局、注目された日中の「立ち話」は実現せず、王氏と岸田文雄外相はほとんど目線を交わすことすらなかった。

岸田氏とケリー長官も正式会談はせず、会議の合間を縫っての短い接触に終わったようだ。日米はあえてブルネイで話さずとも、ふだんから意思疎通はできているということだろうが、首脳会談を終えたばかりの米中は、外相同士がしっかり1時間余り正式会談をした。

もちろん、国際会議での二国間協議の多い少ないが外交力のバロメーターではない。しかし、ARFに参加した各国指導者のコメントや、各国メディアの注目度などからみて、日本の存在感は薄かったというのが偽らざる感想だ。日本は、何か世界の大きな流れに乗り遅れつつあるのではないか。そんな気がして仕方がなかった。

主宰したブルネイ政府の都合かどうかは分からないが、日本代表団の宿泊先は、米中とは違うホテルだった。もし、王氏とラッセル氏と岸田氏が朝食で顔を合わせたら、3人はいったいどのように振る舞ったのだろう。

2日の朝食が終わった後、王氏に「何を話していたんですか」と尋ねると、「僕らは古い顔なじみ。南シナ海、北朝鮮、互いに関心のある話さ」と答えた。「日中関係は?」と質問を重ねたが、王氏は笑ってはぐらかすだけだった。

◇ 

1日、ホテルの朝食会場で「立ち話」する米ホワイトハウス国家安全保障会議のラッセル・アジア上級部長(中央左)と中国の王毅外相(同右)

 

王毅外相の周辺にはいつも各国メディアの人垣ができた

ARF開幕前の歓迎夕食会に向かう中国の王毅外相(左)

ARF開幕前の歓迎夕食会に向かう日本の岸田文雄外相(左)。主催者が用意した衣装は中国の王毅外相との「ペアルック」だったが、両氏が肩を並べる場面はなかった=1日、バンダルスリブガワン

(記事)林 望:信濃毎日新聞社などでの勤務の後、2001年朝日新聞社入社。豊橋支局、名古屋本社社会部、香港支局長、広州支局長などを歴任。


post a comment