http://diamond.jp/articles/-/24792?page=5
出典:Diamond on line 西川敦子 [フリーライター]
:2035年、若者が東京から逃げ出す!?東京が「高齢者ホームレス」であふれる日
日本の人口は今、何人くらいか、君は知っているかな。2010年の国勢調査を見てみるとだいたい1億2806万人。でも、この人口はこれからどんどん減ってしまうんだって。
国立社会保障・人口問題研究所では、将来の人口について3つの見方で予測を立てている。このうち、「中位推計」――人口の増減が中程度と仮定した場合の予測――を見てみると、2030年には1億1522万人、さらに2060年には8674万人となっている。これは、第二次世界大戦後の人口とほぼ同じ規模だ。
どんどん人口が減り、縮んでいく日本の社会。いったい私たちの行く手には何が待ち受けているんだろう?
―この連載では、これからの時代を担うことになる子どもたちとともに、日本の未来をいろいろな角度から考察してゆきます。子どものいる読者の方もそうでない方も、ぜひ一緒に考えてみてください。
:東京の高齢者が爆発的に増える――?大都市と地方で分かれる命運
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政策研究大学院大学 名誉教授
松谷明彦先生の話
松谷 明彦(まつたに あきひこ)/経済学者。1969年東京大学経済学部経済学科卒、大蔵省入省、主計局調査課長、主計局主計官、大臣官房審議官等を歴任、97年大蔵省辞職、政策研究大学院大学教授、2011年同名誉教授。2010年国際都市研究学院理事長。著書に『人口減少時代の大都市経済 - 価値転換への選択』(東洋経済新報社)など多数
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みんなは「少子高齢化」って知っているかな。少子化というのは、生まれてくる子どもの数が減ってしまうことだよね。そして高齢化というのは、人口に占める65歳以上の人の割合が増えることだ。でもね、一口に「少子高齢化」といっても、大都市と地方とでは表れ方がまるで違うんだよ。
結論から言ってしまおうか。東京などの大都市では、今後、高齢化がものすごいスピードで進んでいく。ところが、島根県や秋田県といった、すでに高齢化が進んでいる県では、もうそれほど高齢化が進行することはないんだ。
島根県は今、全国で一番高齢化が進んでいる県だ。人口に占める65歳以上の人の数は、2005年時点で27.1%で、20万1000人。だいたい4人に1人以上がお年寄りっていうことだよね。2035年にはどうなるかというと20万7000人になる見込みだ。次に高齢化率の高い秋田県では、30万8000人から32万1000人に増える見通しだよ。
この数字、どう思う?たしかに増えはするけれど、びっくりするほどではないでしょう?ただし、人口自体は減少する。2005年における島根県の人口は74万2000人だけど、2035年には55万4000人と、25%近く減る。秋田県は114万6000人から78万3000人。およそ32%も減少する見込みだ。
今度は「東京圏」、つまり、東京、千葉、埼玉、神奈川の状況を見てみようか。人口に占める65歳以上の人は、2005年時点で603万7000人。これが2035年には、なんと1060万9000人。75.7%も増えるんだよ。すごいよね。バスの中にお年寄りが10人座っているのが今の状況だとしたら、2035年にはそれが18人になってしまう、というわけ。
一方、人口そのものはそれほど減らない。2005年、東京圏全体の人口は3447万9000人。2035年には3297万7000人になる見通しだ。つまり、5%くらいしか減らない。
わかったかい?とてつもない勢いでお年寄りが増えていく東京と、人口は減るけれどお年寄りの数はあまり変わらない地方。それぞれがたどる未来は、おそらくまったく違ったものになるはずなんだ。
:東京人たちが地方へ逃げ出す!
さあ、それじゃ、2035年の東京、日本がどうなっているか、一緒にのぞいてみることにしようか。ここから先を読むと、君はちょっぴり不安な気持になるかもしれない。でも、大切なことだから勇気を出して読んでね。2035年。君はいくつになっているのかな。今、12歳だとしたら35歳。君のお父さん、お母さんは60代くらいかな?ひょっとすると、高齢者の仲間入りをしているかもしれないね。
2035年の東京は、おそらく今とはまったく違う都市に変貌(へんぼう)しているだろう。お年寄りが75%も増えるということは、その分、お年寄りのための福祉にお金がかかる、ということ。つまり、若い人たちの税金の負担がどーんと増えてしまうわけだ。
それからもうひとつ心配なことがある。今の東京の経済を支えている、技術開発や製造の仕事をする若い人が減ってしまうことだ。東京圏の20~30代の人口は、2005年時点で1051万4000人。それが2035年には689万4000人になる。34.4%も減少してしまうってことだよね。
1950~70年代、君たちのおじいちゃん、おばあちゃんが若かった頃は、全国から若い人がどんどん東京に移り住んできた。こうした人たちの労働力が東京の産業を盛り立て、経済を発展させてきたんだよ。この時代は高度経済成長期って呼ばれている。でも、2035年の東京には、経済の主役となる若い人の姿があまり見あたらないみたいだ。
2035年、数少ない東京の若者たちは、どんな暮らしをしているんだろう。どうやら、あまり裕福じゃないみたいだね。頑張って働いても、税金をたくさん取られてしまうから。一方、地方ではどうかといえば、急激に高齢化が進んでいないので、税負担はさほど増えていない。かつて、お年寄りが支えていた農業、漁業は衰退しているようだけどね。
このままだと、「高負担・低福祉」の東京に嫌気がさして、地方へ移住する人がどっと増えるかもしれない。じつは1970年代の米国・ニューヨーク市でも同じようなことが起きているんだよ。この頃の米国経済は、かなり深刻な経済不振に陥っていたんだ。「市の財政が破たんすれば、大増税が始まるに違いない」と、裕福な人たちがどんどんニューヨークを離れていった。当時の流出人口は約100万人、人口の13%にのぼったと言われている――。
:「メイドインジャパン」は海外人材と作れ
さて、ここまで読んできてどうかな。今、東京や東京近郊に住んでいる人にとっては、なんだか心配になっちゃう話だよね。でも、安心してほしい。こんな最悪のシナリオを回避する方法がちゃんとあるんだ。
まず、方法その1。「東京の産業構造を変えること」。
最近、よくニュースで「日本の家電製品やクルマが、韓国製や中国製などに負けている」っていう話を聞くことがあるよね。ちょっと前まで、日本の製品は安くて性能もよく、世界中の人が喜んで買っていた。ところが、今ではアジアのほかの国の製品の方がよく売れていたりする。おかげで、日本の産業は今、あまり元気がないんだ。
(原文にはこの位置に図表データーあり。本ブログ側で省略)
「人口減少時代の大都市経済」(松谷明彦著、東洋経済新報社刊、2010年11月発行)
ちょっと、この図を見てほしい。これは、米国、ドイツ、イギリス、フランス、そして日本の「企業収益率」の変化を時間の経過とともに追ったものだ。ここで言う企業収益率とは、企業が本業でもうけたお金が、GDP(国内で1年間に新しく生みだされた生産物やサービスの金額を合計した額)に対してどのくらいか、という比率を指している。ちょっと難しいけど、要するに「企業元気度」ってことかな。
わかるかな?90年代以降、日本の企業収益率だけがガックリ減って、なかなか伸びていないよね。欧米先進国はちゃんと回復しているのに……。これってどういうことなんだろう?韓国や中国、インドの製品に負けているのは、日本製品だけっていうこと?
じつはその通りなんだ。この原因は、戦後の日本が選んだ「直輸入型の生産方式」にある、と私は考えている。戦争が終わって、海外の情報がどっと入ってくると、日本人はあらためて自分たちの技術がずいぶん遅れていたことに気づいた。そこで技術の水準を引き上げるため、大急ぎで欧米先進諸国、中でも米国の生産システムをそのまんま「輸入」したんだ。技術や機械設備、マニュアルもみんなそっくり買い取ってね。
米国製品そっくりの「メイドインジャパン」製品が大都市で作られるようになると、喜んだのは日本人自身、とくに地方に住む人々だった。なにしろ戦後のことで、モノのない時代だったからね。1950年の日本の地方の人口は5500万人。先進国全体の人口8.1億人のじつに15分の1にあたる市場―商品の買い手―が国内にあった、というのは大都市の製造業者にとっては本当にラッキーだった。別に独自な製品を作り出さなくたって、国際競争なんかしなくたって、どんどんモノが売れていくんだから。しかも幸運なことに、安いメイドインジャパン製品は、国内だけではなく海外でも売れるようになる。
ところが、残念ながら、同じような製品を安く大量に作る国は、やがてほかにも出てきちゃったんだ。それが中国であり、韓国であり、ベトナムであり、インドだったんだよ。わかるかい?彼らに負けないように国際競争力を高めるためには、欧米先進国のマネじゃダメなんだ。だれにもマネできないものを作らなくちゃ。
「『メイドインジャパン』は未だに、欧米先進国の製品のモノマネにすぎない」と言うと、反論する人もいるかもしれない。でも、日本発の製品の多くは、ほとんどが基本は「欧米発」だ。少なくとも、海外諸国との競争に勝てるような、独自な製品はあまり生まれていないよね。
「そんなこと言ったって、将来は技術開発をする若い人が減ってしまうんだから、独自な製品なんか生まれようがないじゃないか」と君は思うかもしれない。大丈夫、方法はちゃんとある。海外から優秀な人材を東京に連れてくるんだ。
「なんだかズルい」って?そんなことないよ。実際、世界を見渡すと、自国民の力だけで技術開発を行っている国というのはあまりないんだ。たとえば韓国のサムスン電子という会社の研究所の職員は9割が外国人なんだよ。
もちろん、日本の企業によほど魅力がない限り、優秀な人材はなかなか来てくれないだろうね。それなら海外の企業ごと、どんどん東京に呼び込めばいいさ。そうして、日本人と外国人が一緒に働きながら切磋琢磨して、いいアイデア、いい技術をどんどん生み出していけば、東京はもう一度、活力を取り戻すはずだ。
もう1つ大切なことは、日本人がもっている高度なモノづくりの技術を「売り」にすることだと思う。知ってる?日本の職人さんたちの旋盤や溶接、メッキといった技術は世界的に見てもすごく高度なものなんだよ。江戸時代から積み重ねられた技能が生きているからね、外国人には、ましてやロボットには絶対にマネできっこない。この日本ならではの技術力を生かして、どこの国も作っていない「いいもの」を作れるようになれば、日本の「企業元気度」は大復活を遂げるかもしれないぞ。
しかも、考えてごらん。少ない人数で高く売れる製品を作ることができれば、もうかったお金の一人あたりの取り分は、それだけ多くなるはずだよね。そう、ひょっとすると2035年の君たちは、お給料もボーナスも、うんとたくさんもらっているかもしれない。
これまでのように、大勢の人が働いて安いものを大量に作るビジネスは、せいぜい企業を豊かにすることしかできなかった。でも、君たちが大人になる頃には、「1人1人の暮らしが豊かになる日本経済」が生まれているかもしれないんだ。
:「高齢者ホームレスがあふれる未来」の回避策とは
さて、それからもうひとつの大問題について考えなくちゃいけないね。激増する東京のお年寄りを支える方法だ。
2005年から30年間の間に、東京圏のお年寄りは457万人以上増える見込みだ。ところが現時点で、東京圏の高齢者の4割は貸家暮らしをしている。この人たちの年金の多くは家賃に消えているのが実情だ。
将来は、貸家暮らしのお年寄りがもっと増えるかもしれない。今、非正規雇用で働いている30代の若者は、家を買えないまま年をとる可能性が高いからね。そんな状態で、年金財政を支えてくれる若い人が減れば、家賃を払えず住むところのないお年寄りが街中にあふれてしまう。
いったいどうすればいいんだろう?
私のアイデアはこうだ。うんと安い公共賃貸住宅を国や自治体が大量に用意するんだ。そうすれば、年金が少なくたって、食費や光熱費くらいどうにかなるだろう?
その公共賃貸住宅を建てるお金はどうやって用意するのか、って?大丈夫。借りればいい。今、国の借金がふくらんで問題になっているけれど、借金で道路を作るのと、賃貸住宅を建てるのとではわけが違う。なぜって、建設費は家賃でちゃんと返ってくるからね。将来にわたって借金が積み重なるわけではないんだ。それに民間の賃貸住宅と違って、国や自治体が借金する場合は100~200年間と長期間、借りることもできる。100~200年で元が取れるよう賃料を設定すれば、家賃もかなり安くなるよね。
家具や家電製品は、わざわざ買わなくてもみんなで使えばいい。たとえば、ドイツにはとても便利なシステムがあって、家具や台所用品を市役所が貸し出してくれるんだ。市民はそれを大切に使い、用がなくなれば市役所に返す。だから、ドイツの家具や台所用品はとっても丈夫に造ってあるんだよ。そんなふうに、「いいものをみんなで長く使う」という合理的な文化を持っていれば、年金が減ったって、どうにかなるかもしれない。
最後に大切なことをもうひとつ言っておくね。人口がどんどん減っていく日本社会は、モノの買い手が減るために、企業が元気を失ってしまうかもしれない。企業が新しいものやいいものをたくさん作って、そうならないことを祈っているけれど――。でも、そうだとしても、君たちまで元気をなくしてしまう必要なんて全然ないんだよ。1万円払って高級レストランに行くのもいいけど、1000円で肉や野菜を買って河原でBBQをするのだって、なかなか楽しいよね?肝心なのは、お金のあるなしにかかわらず、「楽しい」「幸せ」って思えることなんだ。
人口が増加し、どんどん社会が繁栄してきた今までの日本では、みんなが「もっと稼ごう」「もっとモノを買おう」と思っていた。でも、これからは違う幸せもあるっていうことに、僕たちは気づくべきなんじゃないかな。
出典:Diamond on line 西川敦子 [フリーライター]
:2035年、若者が東京から逃げ出す!?東京が「高齢者ホームレス」であふれる日
日本の人口は今、何人くらいか、君は知っているかな。2010年の国勢調査を見てみるとだいたい1億2806万人。でも、この人口はこれからどんどん減ってしまうんだって。
国立社会保障・人口問題研究所では、将来の人口について3つの見方で予測を立てている。このうち、「中位推計」――人口の増減が中程度と仮定した場合の予測――を見てみると、2030年には1億1522万人、さらに2060年には8674万人となっている。これは、第二次世界大戦後の人口とほぼ同じ規模だ。
どんどん人口が減り、縮んでいく日本の社会。いったい私たちの行く手には何が待ち受けているんだろう?
―この連載では、これからの時代を担うことになる子どもたちとともに、日本の未来をいろいろな角度から考察してゆきます。子どものいる読者の方もそうでない方も、ぜひ一緒に考えてみてください。
:東京の高齢者が爆発的に増える――?大都市と地方で分かれる命運
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政策研究大学院大学 名誉教授
松谷明彦先生の話
松谷 明彦(まつたに あきひこ)/経済学者。1969年東京大学経済学部経済学科卒、大蔵省入省、主計局調査課長、主計局主計官、大臣官房審議官等を歴任、97年大蔵省辞職、政策研究大学院大学教授、2011年同名誉教授。2010年国際都市研究学院理事長。著書に『人口減少時代の大都市経済 - 価値転換への選択』(東洋経済新報社)など多数
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みんなは「少子高齢化」って知っているかな。少子化というのは、生まれてくる子どもの数が減ってしまうことだよね。そして高齢化というのは、人口に占める65歳以上の人の割合が増えることだ。でもね、一口に「少子高齢化」といっても、大都市と地方とでは表れ方がまるで違うんだよ。
結論から言ってしまおうか。東京などの大都市では、今後、高齢化がものすごいスピードで進んでいく。ところが、島根県や秋田県といった、すでに高齢化が進んでいる県では、もうそれほど高齢化が進行することはないんだ。
島根県は今、全国で一番高齢化が進んでいる県だ。人口に占める65歳以上の人の数は、2005年時点で27.1%で、20万1000人。だいたい4人に1人以上がお年寄りっていうことだよね。2035年にはどうなるかというと20万7000人になる見込みだ。次に高齢化率の高い秋田県では、30万8000人から32万1000人に増える見通しだよ。
この数字、どう思う?たしかに増えはするけれど、びっくりするほどではないでしょう?ただし、人口自体は減少する。2005年における島根県の人口は74万2000人だけど、2035年には55万4000人と、25%近く減る。秋田県は114万6000人から78万3000人。およそ32%も減少する見込みだ。
今度は「東京圏」、つまり、東京、千葉、埼玉、神奈川の状況を見てみようか。人口に占める65歳以上の人は、2005年時点で603万7000人。これが2035年には、なんと1060万9000人。75.7%も増えるんだよ。すごいよね。バスの中にお年寄りが10人座っているのが今の状況だとしたら、2035年にはそれが18人になってしまう、というわけ。
一方、人口そのものはそれほど減らない。2005年、東京圏全体の人口は3447万9000人。2035年には3297万7000人になる見通しだ。つまり、5%くらいしか減らない。
わかったかい?とてつもない勢いでお年寄りが増えていく東京と、人口は減るけれどお年寄りの数はあまり変わらない地方。それぞれがたどる未来は、おそらくまったく違ったものになるはずなんだ。
:東京人たちが地方へ逃げ出す!
さあ、それじゃ、2035年の東京、日本がどうなっているか、一緒にのぞいてみることにしようか。ここから先を読むと、君はちょっぴり不安な気持になるかもしれない。でも、大切なことだから勇気を出して読んでね。2035年。君はいくつになっているのかな。今、12歳だとしたら35歳。君のお父さん、お母さんは60代くらいかな?ひょっとすると、高齢者の仲間入りをしているかもしれないね。
2035年の東京は、おそらく今とはまったく違う都市に変貌(へんぼう)しているだろう。お年寄りが75%も増えるということは、その分、お年寄りのための福祉にお金がかかる、ということ。つまり、若い人たちの税金の負担がどーんと増えてしまうわけだ。
それからもうひとつ心配なことがある。今の東京の経済を支えている、技術開発や製造の仕事をする若い人が減ってしまうことだ。東京圏の20~30代の人口は、2005年時点で1051万4000人。それが2035年には689万4000人になる。34.4%も減少してしまうってことだよね。
1950~70年代、君たちのおじいちゃん、おばあちゃんが若かった頃は、全国から若い人がどんどん東京に移り住んできた。こうした人たちの労働力が東京の産業を盛り立て、経済を発展させてきたんだよ。この時代は高度経済成長期って呼ばれている。でも、2035年の東京には、経済の主役となる若い人の姿があまり見あたらないみたいだ。
2035年、数少ない東京の若者たちは、どんな暮らしをしているんだろう。どうやら、あまり裕福じゃないみたいだね。頑張って働いても、税金をたくさん取られてしまうから。一方、地方ではどうかといえば、急激に高齢化が進んでいないので、税負担はさほど増えていない。かつて、お年寄りが支えていた農業、漁業は衰退しているようだけどね。
このままだと、「高負担・低福祉」の東京に嫌気がさして、地方へ移住する人がどっと増えるかもしれない。じつは1970年代の米国・ニューヨーク市でも同じようなことが起きているんだよ。この頃の米国経済は、かなり深刻な経済不振に陥っていたんだ。「市の財政が破たんすれば、大増税が始まるに違いない」と、裕福な人たちがどんどんニューヨークを離れていった。当時の流出人口は約100万人、人口の13%にのぼったと言われている――。
:「メイドインジャパン」は海外人材と作れ
さて、ここまで読んできてどうかな。今、東京や東京近郊に住んでいる人にとっては、なんだか心配になっちゃう話だよね。でも、安心してほしい。こんな最悪のシナリオを回避する方法がちゃんとあるんだ。
まず、方法その1。「東京の産業構造を変えること」。
最近、よくニュースで「日本の家電製品やクルマが、韓国製や中国製などに負けている」っていう話を聞くことがあるよね。ちょっと前まで、日本の製品は安くて性能もよく、世界中の人が喜んで買っていた。ところが、今ではアジアのほかの国の製品の方がよく売れていたりする。おかげで、日本の産業は今、あまり元気がないんだ。
(原文にはこの位置に図表データーあり。本ブログ側で省略)
「人口減少時代の大都市経済」(松谷明彦著、東洋経済新報社刊、2010年11月発行)
ちょっと、この図を見てほしい。これは、米国、ドイツ、イギリス、フランス、そして日本の「企業収益率」の変化を時間の経過とともに追ったものだ。ここで言う企業収益率とは、企業が本業でもうけたお金が、GDP(国内で1年間に新しく生みだされた生産物やサービスの金額を合計した額)に対してどのくらいか、という比率を指している。ちょっと難しいけど、要するに「企業元気度」ってことかな。
わかるかな?90年代以降、日本の企業収益率だけがガックリ減って、なかなか伸びていないよね。欧米先進国はちゃんと回復しているのに……。これってどういうことなんだろう?韓国や中国、インドの製品に負けているのは、日本製品だけっていうこと?
じつはその通りなんだ。この原因は、戦後の日本が選んだ「直輸入型の生産方式」にある、と私は考えている。戦争が終わって、海外の情報がどっと入ってくると、日本人はあらためて自分たちの技術がずいぶん遅れていたことに気づいた。そこで技術の水準を引き上げるため、大急ぎで欧米先進諸国、中でも米国の生産システムをそのまんま「輸入」したんだ。技術や機械設備、マニュアルもみんなそっくり買い取ってね。
米国製品そっくりの「メイドインジャパン」製品が大都市で作られるようになると、喜んだのは日本人自身、とくに地方に住む人々だった。なにしろ戦後のことで、モノのない時代だったからね。1950年の日本の地方の人口は5500万人。先進国全体の人口8.1億人のじつに15分の1にあたる市場―商品の買い手―が国内にあった、というのは大都市の製造業者にとっては本当にラッキーだった。別に独自な製品を作り出さなくたって、国際競争なんかしなくたって、どんどんモノが売れていくんだから。しかも幸運なことに、安いメイドインジャパン製品は、国内だけではなく海外でも売れるようになる。
ところが、残念ながら、同じような製品を安く大量に作る国は、やがてほかにも出てきちゃったんだ。それが中国であり、韓国であり、ベトナムであり、インドだったんだよ。わかるかい?彼らに負けないように国際競争力を高めるためには、欧米先進国のマネじゃダメなんだ。だれにもマネできないものを作らなくちゃ。
「『メイドインジャパン』は未だに、欧米先進国の製品のモノマネにすぎない」と言うと、反論する人もいるかもしれない。でも、日本発の製品の多くは、ほとんどが基本は「欧米発」だ。少なくとも、海外諸国との競争に勝てるような、独自な製品はあまり生まれていないよね。
「そんなこと言ったって、将来は技術開発をする若い人が減ってしまうんだから、独自な製品なんか生まれようがないじゃないか」と君は思うかもしれない。大丈夫、方法はちゃんとある。海外から優秀な人材を東京に連れてくるんだ。
「なんだかズルい」って?そんなことないよ。実際、世界を見渡すと、自国民の力だけで技術開発を行っている国というのはあまりないんだ。たとえば韓国のサムスン電子という会社の研究所の職員は9割が外国人なんだよ。
もちろん、日本の企業によほど魅力がない限り、優秀な人材はなかなか来てくれないだろうね。それなら海外の企業ごと、どんどん東京に呼び込めばいいさ。そうして、日本人と外国人が一緒に働きながら切磋琢磨して、いいアイデア、いい技術をどんどん生み出していけば、東京はもう一度、活力を取り戻すはずだ。
もう1つ大切なことは、日本人がもっている高度なモノづくりの技術を「売り」にすることだと思う。知ってる?日本の職人さんたちの旋盤や溶接、メッキといった技術は世界的に見てもすごく高度なものなんだよ。江戸時代から積み重ねられた技能が生きているからね、外国人には、ましてやロボットには絶対にマネできっこない。この日本ならではの技術力を生かして、どこの国も作っていない「いいもの」を作れるようになれば、日本の「企業元気度」は大復活を遂げるかもしれないぞ。
しかも、考えてごらん。少ない人数で高く売れる製品を作ることができれば、もうかったお金の一人あたりの取り分は、それだけ多くなるはずだよね。そう、ひょっとすると2035年の君たちは、お給料もボーナスも、うんとたくさんもらっているかもしれない。
これまでのように、大勢の人が働いて安いものを大量に作るビジネスは、せいぜい企業を豊かにすることしかできなかった。でも、君たちが大人になる頃には、「1人1人の暮らしが豊かになる日本経済」が生まれているかもしれないんだ。
:「高齢者ホームレスがあふれる未来」の回避策とは
さて、それからもうひとつの大問題について考えなくちゃいけないね。激増する東京のお年寄りを支える方法だ。
2005年から30年間の間に、東京圏のお年寄りは457万人以上増える見込みだ。ところが現時点で、東京圏の高齢者の4割は貸家暮らしをしている。この人たちの年金の多くは家賃に消えているのが実情だ。
将来は、貸家暮らしのお年寄りがもっと増えるかもしれない。今、非正規雇用で働いている30代の若者は、家を買えないまま年をとる可能性が高いからね。そんな状態で、年金財政を支えてくれる若い人が減れば、家賃を払えず住むところのないお年寄りが街中にあふれてしまう。
いったいどうすればいいんだろう?
私のアイデアはこうだ。うんと安い公共賃貸住宅を国や自治体が大量に用意するんだ。そうすれば、年金が少なくたって、食費や光熱費くらいどうにかなるだろう?
その公共賃貸住宅を建てるお金はどうやって用意するのか、って?大丈夫。借りればいい。今、国の借金がふくらんで問題になっているけれど、借金で道路を作るのと、賃貸住宅を建てるのとではわけが違う。なぜって、建設費は家賃でちゃんと返ってくるからね。将来にわたって借金が積み重なるわけではないんだ。それに民間の賃貸住宅と違って、国や自治体が借金する場合は100~200年間と長期間、借りることもできる。100~200年で元が取れるよう賃料を設定すれば、家賃もかなり安くなるよね。
家具や家電製品は、わざわざ買わなくてもみんなで使えばいい。たとえば、ドイツにはとても便利なシステムがあって、家具や台所用品を市役所が貸し出してくれるんだ。市民はそれを大切に使い、用がなくなれば市役所に返す。だから、ドイツの家具や台所用品はとっても丈夫に造ってあるんだよ。そんなふうに、「いいものをみんなで長く使う」という合理的な文化を持っていれば、年金が減ったって、どうにかなるかもしれない。
最後に大切なことをもうひとつ言っておくね。人口がどんどん減っていく日本社会は、モノの買い手が減るために、企業が元気を失ってしまうかもしれない。企業が新しいものやいいものをたくさん作って、そうならないことを祈っているけれど――。でも、そうだとしても、君たちまで元気をなくしてしまう必要なんて全然ないんだよ。1万円払って高級レストランに行くのもいいけど、1000円で肉や野菜を買って河原でBBQをするのだって、なかなか楽しいよね?肝心なのは、お金のあるなしにかかわらず、「楽しい」「幸せ」って思えることなんだ。
人口が増加し、どんどん社会が繁栄してきた今までの日本では、みんなが「もっと稼ごう」「もっとモノを買おう」と思っていた。でも、これからは違う幸せもあるっていうことに、僕たちは気づくべきなんじゃないかな。
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