
曇り、20度、83%
「花糸」と呼ばれる刺繍糸があります。DMCやアンカーの刺繍糸のようにツヤツヤではありません。1本の糸の太さもDMCやアンカーのように細くなく、太めの刺繍糸です。この「花糸」はデンマーク製。フレメと呼ばれるデンマークの手工芸のギルドから出されている刺繍糸です。この「花糸」を初めて手に取ったのは36年ほど前のことでした。DMCの刺繍糸を見慣れた目には、その艶消しの色合いが優しく映ります。木綿の糸の捻が所々に見られる風合いが手に馴染みます。以来この「花糸」と細かい目の麻布で刺繍をしてきました。デンマークのクロスステッチと呼ばれるものです。「花糸」と呼ばれる由来は、デンマークのクロスステッチの第一人者のゲルダベングトソンが花の刺繍で広めたことからだそうです。数たくさんの図案創作者の中でも、ゲルダベングトソンの刺繍は優しさがあります。私が指し続けている花たちはゲルダの花です。
麻布の持つ風合いと「花糸」の素朴さが決してきらびやかではない刺繍の世界を作ります。一体幾つ刺してきたのか、手元に残したもの、帰国の記念に刺してあげたもの、お誕生日に刺して贈ったもの、数しれません。この「花糸」に恋してしまったから続けてこれた刺繍です。
「花糸」をしまってある缶の蓋を取ると、色の海が広がっています。しかもまだ枷を切っていない「花糸」の束がたくさんあります。身近にこの刺繍をする人があれば糸を差し上げたいと思っていました。もう私の残された時間で使い切ることのできないほどの「花糸」たちです。キルトを続けている古い友人がいます。彼女が先日、刺繍を刺したいと言っていました。もちろんクロスステッチなど彼女にとってはお手の物です。そこで、よかったら花糸を使って欲しいと申し出ました。気持ちよく即答、「いただきます。」長年の付き合いです。
この「花糸」、日本で30年以上前は代理店でしか求めることができませんでした。お値段がDMCの5倍近くもしたと記憶しています。今ではネットでデンマークから送ってもらえます。手頃なお値段になりました。ただ、10年ほど前からこの「花糸」を作る会社が変わったのを機に、色が微妙に変わりました。昔のものの方が数段いい色でした。
数日前、香港で刺す最後の刺繍が完成しました。 糸を整えて缶になおす時、友人に送る「花糸」を選びました。年の瀬も近づいてきました。私の香港生活も終わりが近づいてきています。一つ一つ悔いのないように後片付けをします。
この刺繍を刺し終えるたび思います。「花糸」も麻布も高価なものです。それを黙って続けさせてくれたのは主人です。若い頃はお金がなかった我が家です。
「花糸」来週には届きますよ。
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