
晴、25度、92%
30数年前香港に渡ったその夏のことです。夏休みほぼ毎日海に泳ぎに行きました。香港の日本人学校に編入して4ヶ月目の息子と一緒です。息子の友人たちはホームリーブや旅行で香港を離れていました。香港島の東のはずれにある海水浴場までトラムと2階立てバスを乗り継いで通いました。夏だけ人が集まる小さな村でした。海岸の監視員はアルバイトの大学生のようでした。あの夏は一度もお昼ご飯を家で取らなかったと記憶しています。海辺の村の夏だけお店を開ける小さな食べ物屋さんが数件、その中の1軒に通い詰めていました。主に麺を食べさせてくれるお店です。地元の人に混じって覚えたばかりの広東語で毎日違った麺を頼みました。
香港に行かれた方はご存知だと思いますが、香港人の食事のマナーはあっと驚くものがあります。声高に話をしながら、肘をついて、骨などはテーブルクロスのそのまま吐き出す様子を初めて見た時は唖然としました。男性ばかりではありません。若い女性だって同じです。つまりこれが香港の食事のマナーなのです。そんなことにも少し慣れて来たばかりでした。
夏も終わりに近づくと海水浴客の数も減って来ます。雨の降り出しそうな肌寒い日でした。いつもの麺屋さんはお客がほとんどいませんでした。お店の人とも顔馴染みになりました。向こうのテーブルで麺を食べてたのは20代の女性でした。泳ぎに来た様子ではありません。村の人だってのかもしれません。一人で静かに食べています。香港のこうした食べ物屋さんのテーブルには辛い「ラージャン」や酢などが置かれています。彼女はラージャンを「蓮華」にちょっとすくっては一口、また一口ゆっくりした食べぶりです。その「蓮華」にラージャンを取り分ける仕草がとても綺麗に見えました。
中華圏では食事の時必ずお箸と「蓮華」が出て来ます。「蓮華」はスプーン代わりにスープを飲む、チャーハンを口に運ぶ、時にはナイフがわりに肉を骨から外したりととても便利です。日本ではおうどんを食べる時にもお丼に直接口をつけますが、香港での習慣からかつい「蓮華を貸してください。」と頼みます。中華のレンゲは大きさが豊富です。家で食事の時、辛子や甘味噌などをちょっと使いたい時、私は「手塩皿」の代わりに小さい「蓮華」を使います。 そうです、あの海辺の麺屋さんで見かけた女性の真似をこの数十年続けているのです。「蓮華」の綺麗な使い方を見せてくれた名前も知らない人です。
帰国前の年の夏、久しぶりにその海岸に行ってみました。全く様変わり、賑やかな海水浴場になっていました。広い駐車場、立ち並ぶお店、救護所まで完備されていました。香港初めての夏通い詰めてから30年が経っていました。変わるのも当たり前です。変わらないのは海辺から見える水平線だけでした。
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