疫幽儚(えきゆらはかな)の真実2
一瞬のうちに。
闇の中で目覚めた。
疫幽家の人間――私の家族が見える闇。
――疫幽儚(えきゆらはかな)。
私はもうすべてわかっていた。記憶と自我を取り戻したのだ。
闇の中に霊(たま)の姿はない。
もう……
「まーだだよ!」
霊の声!
「まだきみは蘇っていない。ただ自我と記憶を取り戻しただけなんだ」
『いまのは魂の融合。欠けていたものを取り戻したんだ。そしてこれからが本番だよ』
すでに深夜。私が死んで11日目に入っていた。
私の体は、ぐっすりと眠っている。
『はい。リハビリ終了。これから肉体をまず空(から)っぽにする。おいで』
私の体が家から抜け出し、石動鉋のもとへ移動した。
それを追って私も移動する。
『あぁきみ、もうちゃんと見えるんだから、闇の中から出なさい』
パチン、と。石動鉋が指を鳴らすと、視界が一気に開(ひら)けた。
石動家の庭。
鉋の目前に私の体が横たわっている。隣りには健介が立っている。
その横で、霊が見守ってくれていた。
「今日も満月だし、ちょうど中秋の名月だから、成功しますよね」
『晴れているし、お日がらがいいのは確かだね。魂は完全になったし、肉体もだいぶいい具合だ。いける……いけるよこれなら……!』
思わず興奮する石動鉋。
そぉっと。
肉体から光る魂を掬(すく)い出す。
『これが健介の記憶の魂。よいしょ。ん。これで健介も元通りだ』
簡単に。
そばにいた健介の魂も元に戻す。
『すぐ戻せるようにきれいに切っておいたからね。くっつくのも早い』
その場で眠り始める健介。
『これで完全な肉体と完全な魂が二個揃(そろ)った。
準備万端。さて始めよう』
「力を貸しましょうか?」
『借りるのはしゃくだからいいよ。一人のほうがいい』
「では」
『結界(けっかい)か。もう張ってあったのに。まぁ、多いに越したことはない、か』
「儚(はかな)」
霊に名前を呼ばれるのは初めてで、なにか変な感じがした。
「ここでお別れだよ」
『色んな意味でね』
「あなたは黙っていて下さい。
儚。僕はきみのことは忘れないよ。だから無かったことになるわけじゃない。ただ、きみとこうして話せるのは最期になるんだ」
霊……。
「楽しかったよ。きみの魂が上から降ってくるとは思ってなかったけど、僕は無事だったし、何も知らずにさ迷うきみは面白かった」
なんかぴくりとくる言葉。
「あはは。でも楽しかったよありがとう」
『そろそろ……』
「はい。
儚。きみとこうして話ができてよかった。また会おう」
こちらこそ。
『闇(あん)!
音(いん)!
運(うん)!
圓(えん)!
怨(おん)!!』
宙に五芒星を描きながら、石動鉋はそう唱えた。
視界が白銀に染まる。
しばらく、真っ白な世界を漂った。
つづく
一瞬のうちに。
闇の中で目覚めた。
疫幽家の人間――私の家族が見える闇。
――疫幽儚(えきゆらはかな)。
私はもうすべてわかっていた。記憶と自我を取り戻したのだ。
闇の中に霊(たま)の姿はない。
もう……
「まーだだよ!」
霊の声!
「まだきみは蘇っていない。ただ自我と記憶を取り戻しただけなんだ」
『いまのは魂の融合。欠けていたものを取り戻したんだ。そしてこれからが本番だよ』
すでに深夜。私が死んで11日目に入っていた。
私の体は、ぐっすりと眠っている。
『はい。リハビリ終了。これから肉体をまず空(から)っぽにする。おいで』
私の体が家から抜け出し、石動鉋のもとへ移動した。
それを追って私も移動する。
『あぁきみ、もうちゃんと見えるんだから、闇の中から出なさい』
パチン、と。石動鉋が指を鳴らすと、視界が一気に開(ひら)けた。
石動家の庭。
鉋の目前に私の体が横たわっている。隣りには健介が立っている。
その横で、霊が見守ってくれていた。
「今日も満月だし、ちょうど中秋の名月だから、成功しますよね」
『晴れているし、お日がらがいいのは確かだね。魂は完全になったし、肉体もだいぶいい具合だ。いける……いけるよこれなら……!』
思わず興奮する石動鉋。
そぉっと。
肉体から光る魂を掬(すく)い出す。
『これが健介の記憶の魂。よいしょ。ん。これで健介も元通りだ』
簡単に。
そばにいた健介の魂も元に戻す。
『すぐ戻せるようにきれいに切っておいたからね。くっつくのも早い』
その場で眠り始める健介。
『これで完全な肉体と完全な魂が二個揃(そろ)った。
準備万端。さて始めよう』
「力を貸しましょうか?」
『借りるのはしゃくだからいいよ。一人のほうがいい』
「では」
『結界(けっかい)か。もう張ってあったのに。まぁ、多いに越したことはない、か』
「儚(はかな)」
霊に名前を呼ばれるのは初めてで、なにか変な感じがした。
「ここでお別れだよ」
『色んな意味でね』
「あなたは黙っていて下さい。
儚。僕はきみのことは忘れないよ。だから無かったことになるわけじゃない。ただ、きみとこうして話せるのは最期になるんだ」
霊……。
「楽しかったよ。きみの魂が上から降ってくるとは思ってなかったけど、僕は無事だったし、何も知らずにさ迷うきみは面白かった」
なんかぴくりとくる言葉。
「あはは。でも楽しかったよありがとう」
『そろそろ……』
「はい。
儚。きみとこうして話ができてよかった。また会おう」
こちらこそ。
『闇(あん)!
音(いん)!
運(うん)!
圓(えん)!
怨(おん)!!』
宙に五芒星を描きながら、石動鉋はそう唱えた。
視界が白銀に染まる。
しばらく、真っ白な世界を漂った。
つづく
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