暇人に見て欲しいBLOG

別称(蔑称)、「暇人地獄」。たぶん駄文。フリマ始めました。遊戯王投資額はフルタイム給料の4年分(苦笑)。

【目眩く儚い日々はこんな】第拾漆夜

2009年10月09日 19時00分06秒 | 小説系
     疫幽儚(えきゆらはかな)の真実2

 一瞬のうちに。
 闇の中で目覚めた。
 疫幽家の人間――私の家族が見える闇。
 ――疫幽儚(えきゆらはかな)。
 私はもうすべてわかっていた。記憶と自我を取り戻したのだ。
 闇の中に霊(たま)の姿はない。
 もう……
「まーだだよ!」
 霊の声!
「まだきみは蘇っていない。ただ自我と記憶を取り戻しただけなんだ」
『いまのは魂の融合。欠けていたものを取り戻したんだ。そしてこれからが本番だよ』
 すでに深夜。私が死んで11日目に入っていた。
 私の体は、ぐっすりと眠っている。
『はい。リハビリ終了。これから肉体をまず空(から)っぽにする。おいで』
 私の体が家から抜け出し、石動鉋のもとへ移動した。
 それを追って私も移動する。
『あぁきみ、もうちゃんと見えるんだから、闇の中から出なさい』
 パチン、と。石動鉋が指を鳴らすと、視界が一気に開(ひら)けた。
 石動家の庭。
 鉋の目前に私の体が横たわっている。隣りには健介が立っている。
 その横で、霊が見守ってくれていた。
「今日も満月だし、ちょうど中秋の名月だから、成功しますよね」
『晴れているし、お日がらがいいのは確かだね。魂は完全になったし、肉体もだいぶいい具合だ。いける……いけるよこれなら……!』
 思わず興奮する石動鉋。
 そぉっと。
 肉体から光る魂を掬(すく)い出す。
『これが健介の記憶の魂。よいしょ。ん。これで健介も元通りだ』
 簡単に。
 そばにいた健介の魂も元に戻す。
『すぐ戻せるようにきれいに切っておいたからね。くっつくのも早い』
 その場で眠り始める健介。
『これで完全な肉体と完全な魂が二個揃(そろ)った。
 準備万端。さて始めよう』
「力を貸しましょうか?」
『借りるのはしゃくだからいいよ。一人のほうがいい』
「では」
『結界(けっかい)か。もう張ってあったのに。まぁ、多いに越したことはない、か』
「儚(はかな)」
 霊に名前を呼ばれるのは初めてで、なにか変な感じがした。
「ここでお別れだよ」
『色んな意味でね』
「あなたは黙っていて下さい。
 儚。僕はきみのことは忘れないよ。だから無かったことになるわけじゃない。ただ、きみとこうして話せるのは最期になるんだ」
 霊……。
「楽しかったよ。きみの魂が上から降ってくるとは思ってなかったけど、僕は無事だったし、何も知らずにさ迷うきみは面白かった」
 なんかぴくりとくる言葉。
「あはは。でも楽しかったよありがとう」
『そろそろ……』
「はい。
 儚。きみとこうして話ができてよかった。また会おう」
 こちらこそ。

『闇(あん)!
 音(いん)!
 運(うん)!
 圓(えん)!
 怨(おん)!!』

 宙に五芒星を描きながら、石動鉋はそう唱えた。
 視界が白銀に染まる。
 しばらく、真っ白な世界を漂った。




     つづく

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