暇人に見て欲しいBLOG

別称(蔑称)、「暇人地獄」。たぶん駄文。フリマ始めました。遊戯王投資額はフルタイム給料の4年分(苦笑)。

ショートショート「ツラい咳」

2006年12月14日 19時39分58秒 | 小説系
 テスト後第一日目の一時限目はクラスの三分の一が行方不明だった。
 学級閉鎖にならなかっただけまだマシなのかもと思う。
 きっと風邪で鼻水やら咳やらがつらいのに登校しているボクが普通ではないのだ。
 咳といえば今日のAは「ゲホゲホ」と言っていた。ちゃんと「ゲ・ホ・ゲ・ホ」と発音していたので驚いた。授業中にさえ発声するので、ある意味で尊敬した。
 休み時間。「ひどい咳だね」と言うとAは、「うん、ツラいよ、ゲホゲホ」と言った。どうも、わざとではないらしかった。
 午後。クラスメイトとAの会話を聞いた。彼らはお互いに3メートル離れたままで会話を成立させていた。
 Aの声に違和感があった。普段の妙に高い声が、なぜかひどくゆがんでいた。というか、揺れている。しゃべりづらそうだったが、会話相手はまったく気にした様子もなく3メートルの会話をつづけた。
 Aの声があまりにも頼りなく揺れるので泣いているのかと一瞬思ったがそうではないようだった。
 会話は長かった。相手がわざと長く会話をつづけようとしているのが明らかだった。しゃべりづらそうにしているAは、それでも会話を頑張った。頑張り屋さんなのだ。
 長い会話が終わって「大丈夫かよ」と聞くと、「のど飴なめてるだ、ゲホゲホ」と言った。
 次の瞬間。
 ゲホッ。
 普通の咳をしたAの口から、のど飴が飛び出して教室の床に転がった。
 Aはあわててそれを拾い、また口に入れた。
「3秒ルール」と彼女は笑顔で言った。ぎこちない笑みだった。
 ……それは頑張りすぎだろ。


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