暇人に見て欲しいBLOG

別称(蔑称)、「暇人地獄」。たぶん駄文。フリマ始めました。遊戯王投資額はフルタイム給料の4年分(苦笑)。

【目眩く儚い日々はこんな】第捌夜

2009年09月30日 21時16分36秒 | 小説系
     私の場合

 伸子の考えはもうわかったので、彼女の意識から出ることにした。
 よいしょ……と。
 もう慣れた闇の中。疫幽家の人間達だけがぽつぽつと見える。
 伸子は、貞子が夢を見ていただけなのだと結論づけた。
 それも無理もない話だった。
 さて。
 貞子が混乱しているのは明らかだし、好男(すきお)はまだ寝ているし、霊(たま)もさっき眠ったばかりだ。
 眠っている状態の意識に入っても何も見えないのは知っている。
 だからとりあえず、情報の整理が必要だろうと、私は考えた。

 十日前、疫幽儚(えきゆらはかな)は死んでいた。
 幼なじみの健介が、死体となった彼女を運んで来たのである。。
 その時、私は霊の意識の中にいた。
 最初の記憶が霊だった。
 最初に見たのが死体だった。
 これを客観的に結び付けるならば。
 私……この私こそが、疫幽儚なのではないか……?
 生前の記憶は受け継がれず、未練があって成仏できず、疫幽家に宿っている。特に子猫の霊に愛着があったので、霊の中に入ってしまった。
 そう考えるのがもっともらしいのではないか。
 だが、疫幽儚は生き返った。
 いつ、どこで、どのようにして……?
 わからないが、たしかに今。
 疫幽儚は生きている。
 だが、それにしてもなぜ、私は儚の意識に入り込めないのだろうか。
 彼女は疫幽の人間なのに……。
 それとも、例外がある、ということなのか。
 そして、それにしても怪しいのは、健介である。
 健介は死体となった儚を連れて来た。そして死体とともに消えた。
 彼は、死体を連れて来て何がしたかったのか。そしてどうして嘘をついているのか。
 この空白の十日間に、一体何が起きたのか。
 結局的に私は何なのか……。
 謎が謎を呼ぶ。
 そうして。
 なにもわからないまま、ただいたずらに、たんたんと時間だけが過ぎてゆく。
 秋の夜長。それがようやく、終わろうとしていた。

 ……と。
 なんだろう。何か、違和を感じた。
「………………」
 何かの音。
 そういえば、この闇にいる間に、音が聞こえたことなど一度もなかった。
 疫幽の人間が見えるだけで、他は何もない空間だった。
「…………」
 いま初めて音を聞いた。
 なんだろう。
 なにか、さーっというような音。すなあらし?
 いや、音というよりも、声……だろうか。
 微(かす)かなその声は、段々とはっきりしていく。
 断続的なその異音に、私は耳を傾けようと、意識を集中させた。




     つづく

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