暇人に見て欲しいBLOG

別称(蔑称)、「暇人地獄」。たぶん駄文。フリマ始めました。遊戯王投資額はフルタイム給料の4年分(苦笑)。

【目眩く儚い日々はこんな】第伍夜

2009年09月27日 20時23分23秒 | 小説系
     好男(すきお)の場合

 今度は儚の父、好男の意識に入り込み、あの時のことを思い出してみた。
 私の力では過去を十日までの範囲で遡(さかのぼ)って見ることができるのだ。

 いつもの時間になっても、貞子の「夕飯の支度ができましたよ、ご飯にしましょう」の声がなかった。
 不思議に思い台所に行くと、料理はちゃんとできていた。あとは盛り付けるだけ、といったところだ。
 そういえばさっき、呼び鈴が鳴った。来客を迎えているのか、玄関で立ち話でもしているのだろうか。
 先に食べると怒られそうだったので、とりあえず貞子を探しに玄関へと向かった。
 すると。
「貞子!」
 妻が倒れていた。
 触れてみると温かい。息もしている。脈もある。
 どうやら気絶しているだけらしかった。
 はぁ……と、安堵のため息をつく。
 しかし何が起きたのだろう、こんなところで気絶するなんて。
 試しに揺すってみると、
「んん……」と、貞子は目を開けた。
「おい、お前。どうした、ここでなにがあったんだ?」
「あ、あなた……」
「おう、俺だ。大丈夫か?」
 目を見開く貞子。
「あなた! 儚が! 儚が……?」あたりを見回す。「儚は……?」
「ハナの奴、出掛けたままじゃないのか?」
「ううん」柱時計を見る。「さっき、6時に呼び鈴が鳴って、玄関に来たら儚が倒れてて……」
「ハナが倒れてた……? どこにもいないじゃないか」
「いたの! いたのよ。でも……」視線が落ちる。
「でも、消えたってのか?」
「そうだけど……それだけじゃなくて」息を飲む。
「あの子……死んでいた……」
「は? おいおい、冗談はやめてくれよ! あいつが死んだなんて……」
「冗談でそんなこと言うわけないじゃない! 呼吸も脈も止まってたのよ!?」
「そ、そうか。でも死体なんてどこにもないじゃないか」
「…………」
「あぁ……消えたってんだったな。しかしよう、どうしてちゃんと見てなかったんだ?」
「……ごめんなさい。ショックで気絶してしまったみたい……」
「そうか……」
 死体を実際には見ていないぶん、好男には余計に娘が死んだ、という実感がなかった。
 と。
 思い当たる。
「おい貞子。死体がどうやって家に入って来るってんだい?」
 そう、死体がひとりでに動くわけはないのだ。
「あぁ……そういえば!」思い出す。「健介くんが来ていたわ!」
 なるほど。死体を運んで来たのはあの坊主か。
 だったら彼に聞くしかない。
 もしも彼がまた娘を連れ出したのなら、まだそう遠くへは行っていないはずだ。
 そう思い、家の近くの道を探した。
 しかし見つけることはできなかった。
 道すがら見つかるかも知れないので、好男は直接家まで訪ねて行くことにした。
「探してくる。お前は家で待ってろ」
 そう言い置いて、車を出す。
 時刻は夜の6時半をとうに過ぎている。
 早くも日が暮れようとしていた。
 道と言っても土の道だった。
 この地域はまだまだ未開の土地で、道路が舗装されていないのである。
 つちけむりをあげながら、車は健介の家へと向かった。

 途中に人影はなかった。
 と言っても、健介の家はかなり近い。わざわざ車で来なくてもよかったのに、自分は一体何をやっているのだろう。
「ごめんくださーい!」
 健介の家のインターホンは壊れているようでなかなか応答がなかった。だから、戸を叩いて叫ぶしかなかった。
 辺りはもうすっかり闇に包まれている。
 森も静かで、ただコオロギが鳴いていた。
「はーい」
 何度目かの呼び掛けに、ようやく応答があった。健介の母が玄関を開けた。
「夜分にすみません。健介くん、いらっしゃいますか」
「あら、疫幽さんとこの旦那さん。健介なら今、お風呂に入っていますが、なにか?」
 食後に入浴。ちょうどそんな時間帯だった。
「そうですか。あの、健介くんに直接聞きたいことがあるんですが」
「もう夜ですよ? 明日になさって下さいません? それとも何か急ぎの用でもあるんですか?」
「はぁ……。あの、うちの儚のこと、ご存知ないですか?」
「はい? 儚ちゃんがどうかされたんですか?」
「……あぁ、いえ。帰りが遅いもので……」
「それは心配ですね、もう暗いのに。あとで健介にも聞いてみます。またお電話差し上げますわ」
「はい……よろしくお願いします」
 段々と、自信がなくなる。
 あの坊主は何事もなく帰宅しているらしい。
 ではさっき家に来たというのは何かの間違いなのだろうか。
 ハナが死んだというのも間違いなのだろうか。
 すべて、貞子が見た白昼夢だったのか。
 だとすれば、筋が通る。
 なにより、娘が死んでいるということが、好男には信じられなかった。

 その後、健介くん本人から電話があったが、儚とは夕方まで遊んで森で別れたということだった。
 翌日には家に訪ねて来てくれて、
「ハナちゃん、早く戻って来るといいですね。大丈夫、そのうちひょっこり帰って来ますよ」
 と、愛想よく言っていた。




     つづく

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