十日目
がら、がら、がら……と。
霊(たま)に意識を落としていた私は、玄関の戸が開くのを目の当たりにした。
そこにいたのは……
――疫幽儚(えきゆらはかな)!!
どう見ても、疫幽儚だった。
質素な白い服に、長い黒髪。透けるような青白い肌に、細長い手足。
白い靴を脱いで家に上がり、ゆったりとした足どりで歩いてゆく。
ゆらゆらと、どこか危なっかしい動きだった。
死体が見つかり失踪してから十日目。
彼女は蘇って、帰って来た。
陽はまだ昇っていない。暗い中で、床を「ぎぃし……ぎぃし」言わせながら儚は歩いていた。
信じられない光景。本当に彼女は儚(はかな)なのか……。
それを確かめるために、私は霊の意識から、暗闇の世界に出た。
よいしょ……と。
この状態の時、私には疫幽の人間しか見えない。
闇の中で、疫幽家の人だけが光って見えるのである。
…………。
たしかに、いま、疫幽儚の姿が見える。
少し意識を集中してやれば、彼女のステータスも見てとれた。
疫幽儚、女子。疫幽貞子と好男(すきお)の一人娘。血液型O型。
間違いなく彼女は疫幽儚だ。
しかしなぜ、彼女は死んだはずなのに、いま動いているのだろうか。
夜中でも玄関に鍵を掛けない疫幽家も信じがたいが、このド田舎には泥棒なんていないのだろう。
疫幽儚。彼女はどうしていまここに生きているのか……。今までどこで何をしていたのか……。
それらを知るために、私は彼女の意識に入り込むことにした。
……?
世界が眩(くら)む。
昏(くら)い視界。暗い世界。闇。
ここはそう、いつもの場所。
疫幽家の人間を全員同時に視認できる場所。
なぜ。
私は疫幽儚の意識に入り込むつもりだったのに……。
できなかった。
疫幽儚の意識に入り込めない。
何度試みても、駄目だった。
自分の能力が落ちたのかと思い、再び霊の中に入ってみる。
難無く成功し、儚の、細く虚(うつ)ろな後ろ姿が見えた。
ゆらり、ゆらり……す。立ち止まる。
そこは儚の部屋だった。
十日前からそのままにしてあるその部屋に、疫幽儚は入って行く。
襖(ふすま)は閉められてしまい、中の様子は音でしかわからなかった。
電気を付ける音、布団を下ろす音、そして電気を消す音がし、しばらくして寝息が聞こえて来た。
間もなく、霊も自分の部屋に戻り、眠りについた。
霊から抜け出て、見る。
疫幽家は全員、床についていた。
つづく
がら、がら、がら……と。
霊(たま)に意識を落としていた私は、玄関の戸が開くのを目の当たりにした。
そこにいたのは……
――疫幽儚(えきゆらはかな)!!
どう見ても、疫幽儚だった。
質素な白い服に、長い黒髪。透けるような青白い肌に、細長い手足。
白い靴を脱いで家に上がり、ゆったりとした足どりで歩いてゆく。
ゆらゆらと、どこか危なっかしい動きだった。
死体が見つかり失踪してから十日目。
彼女は蘇って、帰って来た。
陽はまだ昇っていない。暗い中で、床を「ぎぃし……ぎぃし」言わせながら儚は歩いていた。
信じられない光景。本当に彼女は儚(はかな)なのか……。
それを確かめるために、私は霊の意識から、暗闇の世界に出た。
よいしょ……と。
この状態の時、私には疫幽の人間しか見えない。
闇の中で、疫幽家の人だけが光って見えるのである。
…………。
たしかに、いま、疫幽儚の姿が見える。
少し意識を集中してやれば、彼女のステータスも見てとれた。
疫幽儚、女子。疫幽貞子と好男(すきお)の一人娘。血液型O型。
間違いなく彼女は疫幽儚だ。
しかしなぜ、彼女は死んだはずなのに、いま動いているのだろうか。
夜中でも玄関に鍵を掛けない疫幽家も信じがたいが、このド田舎には泥棒なんていないのだろう。
疫幽儚。彼女はどうしていまここに生きているのか……。今までどこで何をしていたのか……。
それらを知るために、私は彼女の意識に入り込むことにした。
……?
世界が眩(くら)む。
昏(くら)い視界。暗い世界。闇。
ここはそう、いつもの場所。
疫幽家の人間を全員同時に視認できる場所。
なぜ。
私は疫幽儚の意識に入り込むつもりだったのに……。
できなかった。
疫幽儚の意識に入り込めない。
何度試みても、駄目だった。
自分の能力が落ちたのかと思い、再び霊の中に入ってみる。
難無く成功し、儚の、細く虚(うつ)ろな後ろ姿が見えた。
ゆらり、ゆらり……す。立ち止まる。
そこは儚の部屋だった。
十日前からそのままにしてあるその部屋に、疫幽儚は入って行く。
襖(ふすま)は閉められてしまい、中の様子は音でしかわからなかった。
電気を付ける音、布団を下ろす音、そして電気を消す音がし、しばらくして寝息が聞こえて来た。
間もなく、霊も自分の部屋に戻り、眠りについた。
霊から抜け出て、見る。
疫幽家は全員、床についていた。
つづく
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