[映画紹介]
カフタンとは、
トルコ、アラブ、中央アジアなど、
近東諸国やイスラム文化圏で着用されている
ゆったりとした丈の長い民族衣装のこと。
結婚式や宗教行事などフォーマルな席に欠かせない伝統衣装で、
華やかに刺繍されたオーダーメイドの高級品。
日本で言えば、母から娘へと受け継がれる着物のようなもの。
モロッコの海沿いの街サレ↑の路地裏で、
カフタンドレスの仕立て屋を営む夫婦ハリムとミナ。
安価で手早く仕上がるミシン刺繍が普及した昨今、
手間暇かかる手刺繍の良さを守るハリムは、
顧客の無理を聞きながら、細々とした商売を続けていた。
丁寧な仕事だけに注文がさばききれず、
ユーセフと名乗る若い男を助手に雇う。
ユーセフは筋が良く、ハリムのもの作りの姿勢にも共感していた。
ミナは、死病にとりつかれ、余命わずかと宣告される。
伝統的な仕事の店の中での
主人夫婦と若い職人の話、となると、
普通、妻を巡る三角関係を予想するが、
この映画は、そうではない。
実は、ハリムは同性愛者で、
ハマム(公衆浴場)の個室で男性と交わっていたのだ。
ミナは薄々そのことを気づいており、
ユーセフとの関係もそうなるのではないかと疑っている。
しかし、ハリムはミナを心から愛しており、
それを裏切る自らの性癖に苦しんでいた。
25年連れ添っているが、二人の間には子どもはいない。
ある時、ミナがいない店で、
ハリムはユーセフの告白を受けるが、
ハリムは拒み、ユーセフは店を離れる。
ハリムは妻の看病のために店を休むが、
家をユーセフが訪ねて来て・・・
西欧と違い、回教圏は同性愛に対する理解は進んでいない。
ハリムはそれを秘密にしているのだが、
ハリムの中では、伝統を守る仕事を愛しながらも、
自分自身は伝統からはじかれた存在であることに苦悩している。
しかし、3人は、青いカフタン作りを通じて絆を深めていく。
禁断の愛を描く回教圏の映画。
カサブランカで、
女手ひとつでパン屋を営む女性と
臨月の未婚女性というモロッコのタブーを取り上げた
「モロッコ、彼女たちの朝」(2019)の
女性監督マリヤム・トゥザニの作品。
狭い仕立屋の中での人間関係が緊張感をもって描かれる。
となれば、俳優の演技力がものを言うが、
ハリムを演ずるサーレフ・バクリが圧倒的にいい。
心に秘密を抱えながら、妻を愛する男の哀愁がにじみ出る。
礼拝の時を告げるアザーンなど、
旧市街の音が沢山取り入れられている。
また、タジン料理など、民族料理の描写も豊富。
ただ、最後の下りは、
もう少し撮り方に工夫が出来なかったか。
2022年・第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され、
国際映画批評家連盟賞を受賞した。
5段階評価の「4」。
ヒューマントラストシネマ有楽町で上映中。
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