空飛ぶ自由人・2

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映画『アプローズ、アプローズ』

2022年08月10日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

エチエンヌは売れない役者。
暇を持て余して、ある特殊な仕事を引き受ける。
それは、刑務所の文化事業として、
囚人たちの演技のワークショップをすること。
ワケありクセありの犯罪者たちに演技を教えて更生させるという
刑務所長の企画だという。
演技の経験のない、演劇が何たるかも理解しない囚人たちを相手に、
仕事は始まる。
やがて、エチエンヌは、ある作品をこの囚人たちに演じさせることを目論む。
それは、サミュエル・ベケットの不条理劇「ゴドー待ちながら」
木が一本立っている道で、
二人の男がゴドーという男を延々と待つ話。
囚人というのは、出所する日を待ち、
面会人が来るを待っている。
その日常がこの劇の含むものとぴったりだというのだ。

やがて、囚人たちも役にのめり込むようになり、
たまたま友人の俳優が持っている劇場に空きのあることを知ったエチエンヌは、
難関だった刑務所の外での公演を計画する。
刑務所長と判事の心を動かし、その計画は実現すると、
意外にも評判となり、
他の各都市での公演のオファーが舞い込む
囚人たちは、バスを仕立てて、ツァーに出かける。
そして、最後には、
パリのオデオン座での上演の話が舞い込む・・・

スウェーデンであった実話だという。

なにしろ一癖も二癖もある囚人たちだから、
予期せぬアドリブが飛び出したり、
開演直前に出演拒否を受け、エチエンヌ自身が舞台に立つ決意をしたり・・・
とうやら、エチエンヌは、この芝居をしたことがあるらしい。
公演の日、客席に来ていた家族と交わることができた囚人も
すぐ引き離され、もらったプレゼントも没収される。
そして、ツァーの最終日には、バスの中でどんちゃん騒ぎをして、
ついには思わぬ行動に・・・
というてんやわんやが面白おかしく描かれる。

衝撃のラストなどと宣伝文句で歌うが、
むしろ意外なラストというべきか。
感動で席を立てない、ほどではないが、
胸を撃たれたことは確か。                                        

エチエンヌを演じるのは、
コメディアン出身のフランスの国民的スター、
セザール賞助演男優賞を受賞者のカド・メラッド


風貌、雰囲気がこの役にぴったりで、哀愁がただよう。
役では、3年間舞台の仕事がなく、
あこがれのオデオン座は、雲の上の存在。
しかし、あんな形でその舞台に立つことが出来るとは。

囚人役で印象的なのは、人を押し退けて途中参加してくるカメル役の
ソフィアン・カメス


この役でアングレーム・フランコフォン映画祭の最優秀俳優賞を受賞。
他にブリキナファソ出身のワビレ・ナビレ
ロシア出身のアレクサンドル・メドベージェフなど、
多彩なキャリアの俳優たちを起用し、
移民や難民、家族、人種、持病、トラウマなど
そのまま現代フランス社会の一つの断面を切り取っている。
所長アリアンヌを演じたのは、マリナ・ハンズ

監督はエマニュエル・クールコルの監督第二作。
フランスではボックスオフィス初登場第二位のヒット。
フランス国中を感動と熱狂の渦に巻き込んだ。
撮影はフランスに実在するモーショコナン刑務所の協力の元に行われたという。                                        

「ゴドーを待ちながら」は不条理劇のスタンダードとされ、
初演は1953年1月5日にパリのテアトル・オブ・バビロンで行われた。
英語版は1955年にロンドンで初演。
ある時期、日本でも盛んに上演された。
装置が木1本で
出演者が5人と手頃、
なにしろ不条理劇だから、
観客をケムに巻いて、評価はどうでも、というのが受けた、
というのは、うがちすぎか。
私も小劇団のものを観たが、
何のことかさっぱり分からなかった。

あの頃、アングラ劇団では、自称不条理劇が花盛りで、
とにかくわけの分からん作品が多かった。
中で、新宿の映画館がはねた後に上演された
清水邦夫作・蜷川幸雄演出の
「泣かないのか? 泣かないのか1973年のために? 」は出色で、
鑑賞後1週間は、その余韻に包まれた。
私の演劇鑑賞史のベストテンに入る作品。

 



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