[書籍紹介]
月村了衛による北朝鮮からの脱北モノ。
北朝鮮が陸海空軍による大規模軍事演習を実施しようとしている中、
桂東月(ケ・ドンウォル)大佐は
自らが艦長を務める潜水艦での日本への亡命を決行する。
東月は、核ミサイル開発に従事していた弟の不可解な死の真相が
核燃料のずさんな管理による放射能被曝だったことを知ったことから、
祖国に絶望し、
同じように、国と軍の腐敗を憎んでいる海軍の仲間と共に、
国を捨てることにしたのだ。
しかし、ただ潜水艦で日本に到達したとしても、
日本が受け入れるとは限らない。
その担保として、
招待所にいた
「107号」と呼ばれる女性を同行させることにする。
107号とは、45年前、中学1年生の時に
島根県で北朝鮮工作員に拉致された日本人女性、
広野珠代(たまよ) 。
(どう考えても横田めぐみさんがモデルだ)
日本の領海に入ったら、
珠代さんが同乗している旨を無線で広く伝える。
拉致被害者の象徴と位置付けられている珠代さんを救うためなら、
日本政府は動くだろう、という計画だった。
そのために、やはり国を捨てる決意をしていた
辛吉夏(シン・ギルハ)政治指導員が動く。
吉夏は、不正蓄財をしていた叔父を密告したが、
叔父が吉夏の分も蓄財してくれていたことを知り、
それが発覚すれば、反逆者とされることが確実なので、
亡命の道を選んだのだ。
金正恩の命令書を偽造し、
招待所に乗り込み、珠代を連れ出し、
トランクの中にいれて、潜水艦内に導き入れた。
大規模演習に従うふりをしながら、東月の潜水艦は離脱し、
日本を目指す。
出航して間もなく、
乗組員に計画を話し、
離脱する者は申し出るように言う。
そのまま日本に亡命すれば、残された家族に累が及ぶ。
離脱したところで、過酷な尋問と、収容所送りが待っている。
苦衷の選択で、24人が救命ボートで退艦し、
同行を申し出た者は13人、
元々の計画参加者16人と合わせて29人で日本を目指す。
しかし、それは上層部の知るところとなり、
後を追ってきた特殊部隊、爆撃機、魚雷艇、対潜ヘリ、コルベット艦などとの
熾烈な戦闘が発生する。
東月の潜水艦「11号」は老朽化が激しく、
日本まで到達できるかどうか不明。
その上、最後には、羅済剛(ラ・ジェガン)という
優秀な男が艦長の「9号」潜水艦との死闘が始まる。
東月と済剛は、昔からのライバル関係にあった・・・
この潜水艦の展開に、
日本側の話として、
珠代が拉致された時、巡査をつとめていた退職警官で、
45年前、小学生の「不審者がいる」という通報に
浜辺へ確認に行かなかった過去を悔やんでいる岡崎誠市や
やはり45年前に不審船を発見していながら、
ことなかれ主義で見逃し、
珠代の拉致を見過ごしたことを後悔している漁師の甚太郎
などが描かれる。
潜水艦内での戦闘シーンは、
緊迫感が並でない。
「潜水艦映画にハズレなし」
というが、まさにそれ。
潜水艦は日本に到着するのは当然の展開だが、
その後が示唆的だ。
日本の自衛隊は、
潜水艦を遠巻きにして見守るだけで、
接触さえ禁じる。
済剛は、その状況を見て、こう言う。
「それが日本という国の正体だ。中身などない」
その状況の中で動いたのは、岡崎の乗る巡視艇と、
甚太郎の乗る漁船と、
それ以外の民間船だった。
というのも、
無線が公開され、
珠代のメッセージが流れたからだ。
「私は広野珠代です。
やっと、帰ってきたんです。
日本の皆さん、聞いておられるんでしょう?
私は日本を信じています。
早く生まれた国に帰りたい。
なのに、どうして助けに来てくれないんですか」
しかし、自衛隊は、巡視船に何もするなと命令を出し、
漁船には海域からの退去を命令して、
邪魔しようとする。
まさに日本政府のことなかれ主義と
正義を貫こうとする人々との戦いになる。
その間に、潜水艦の損傷は進み、
沈没の危機が近づいていた。
そして、結末は・・・
どうか、自分の目で確かめて下さい。
北朝鮮の体制が上から下まで狂っていることへの批判、
日本の国柄への批判など、
納得できるものがある。
そして、拉致被害者が放置されていることへの怒り・・・
久しぶりに時を忘れる読書体験だった。
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