空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

戯曲『円生と志ん生』

2023年05月29日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

井上ひさし(1934-2010)による戯曲。
2005年2月5日、
鵜山仁演出、各野卓造、辻萬長の主演で、
新宿・紀伊国屋ホールにて初演。
2017年9月、再演。
                                     
満州の関東軍の慰問に行けば、
白いゴハンは食べ放題、おいしいお酒は呑み放題、
そんな話に乗せられて、
敗色濃い昭和20年に、満洲へ渡った二人の落語家、
五代目古今亭志ん生

と六代目三遊亭円生(正しくは圓生)


6月、7月は満洲各地の巡回慰問で絶好調だったが、
8月の敗戦で、ソ連が国境を越えて進軍して来、
さっさと逃げた軍に置き去りにされてしまう。
大連まで命からがら落ちのびてきたが、
ソ連軍が大連を占領、封鎖して、
中の日本人たちは、故郷日本に帰りたくても帰れなくなる。
円生と志ん生も“居残り”となった。
二人は、シベリア送りの恐怖に怯えながら、2年を過ごす。

という、史実に基づき、
井上ひさしが面白おかしい芝居に仕立て上げた。

戦時中は、避難命令が出た時のために、
高座に上がる時も国民服でいるよう通達があったという。
二人は「兄さん(あにさん=志ん生)」
「松ちゃん(=円生)」と呼びあう仲で、
芸風・性格は正反対だったが、
苦楽を共にし、ついに認め合う仲に。
のちに「名人」と呼ばれた二人が
戦後の混乱期の二年近くを
異国で生き抜いて、見たもの、経験した現実とは。
器用に身を立てる円生と、
だらしがなくも、芸の面では円生が敵わない志ん生。
露助、中共軍、貧困、耶蘇教が背景を彩る。

二人は、宿屋から花街の娼妓置屋にやっかいになりながら、
タバコ売りや富くじ売りをして日銭を稼ぐ。
劇中には、落語の演目に絡んだエピソードがちりばめられている。
たとえば生活に困窮して行きついたゴミ置き場の場面。
ゴミをあさり、出てきたガラクタから
「火焔太鼓」の道具屋が扱う品のイメージを膨らませる。
この場面で登場する避難民の亡霊たちの話が切ない。

二人は「言葉がわかる人たちの前で思いきり落語を語りたい」と、
切実に願う。
志ん生のセリフ。

「体中に日本語が貯まるだけ貯まっちまって、
そいつらがぐるぐる渦を巻いて出口を探してるんだ。
あたし、もう破裂するよ」

大きく分けて5 つの章で構成され、
5つの章それぞれに各1役、
女優4人で合計20人の女性を演じる。

井上ひさしの芝居は、
ある場面でとてつもなくおかしくなることがあるが、
この芝居では、後半の修道院の場面がそれ。
円生と志ん生の話を聞いた修道女たちが、
その言葉を聖書の言葉と勝手に重ね合わせ、
キリストの再臨と勘違いする場面だ。
この場面、初日の一週間前に台本が仕上がったのだという。

舞台端には、国民服を着たピアニストがいて、
要所でピアノを弾き、
役者が歌う、
歌入り芝居。(ミュージカルではない)

そして巻末に、
新聞の劇評の
戯曲の文体に対する無知を糾弾する、
珍しいあとがきが楽しめる。

後日談だが、
満州からは、別々に帰国
志ん生の方が先。
円生は、苦労して帰国した後は
寄席に出演すると「上手くなった」と言われ、
満州での苦労が芸に生きたと自己分析したという。

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿