空飛ぶ自由人・2

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小説『不屈の達磨』

2023年02月16日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

「生存者ゼロ」「ホワイトバグ」など、
バニックもの、アクション系の作家と思っていた
安生正の経済小説、企業小説。

従業員5300人を擁する一部上場企業ジャパンテックパワー。
再生可能エネルギーの発電施設を開発・運営する、
日本の将来に影響を与える重要な企業だが、
今、会社が大きく揺れていた。
株主総会を間近に控えたある日、社長が失踪。
間を置かずして、
会社内の権力争いと、ファンドの介入が週刊誌にスクープされる。
社内では実力のある副社長と常務の間での
後継者争いが激化していく。
となれば、企業の中に巣くう膿が現れる。
社内派閥、恫喝、誘惑、陰謀、権謀術数、手練手管。
保身と欲にかられた者たちが暗躍する権力闘争が始まる・・・

なにしろ、会社の要である社長が行方をくらます、
という言語道断の無責任
事後処理は、副社長に反逆したことで2年間の地方勤めを余儀された
冷や飯食いの秘書室長の弓波(ゆみなみ)博之の手に託される。
次期社長を狙うのは、事業統括本部長の名取副社長と
ファイナンシャル本部長の片山常務。
この二人が、会社のことよりも自分のことを優先する人物として描かれる。
挿入される二人のエピソードは、
小物ぶりを発揮するものばかり。
周囲を取り巻く重役たちも、日和見の姿勢。
取締役や部長たちは、
責任の押し付け合い。
こんな状態で、この会社大丈夫か
と読者は思うだろう。
副題である「社長の椅子は誰のもの」と、問いたい。

さながら、敵の大群に取り囲まれた城内で、
不毛な詮議を繰り返す家臣団を思わせる。
いかに敵に対峙するかではなく、
いかにすれば敵と向かい合わなくてすむかの
綱引きが行われていた。

弓波が左遷されたのは、
2年前の株主総会で、
議決権行使書の「集計外し」を指示した名取に
違法行為だと反対したためだ。
そういう硬骨漢を、妻は「達磨」にたとえる。

迫り来る株主総会は乗り切れるのか、
次期社長は誰になるのか、
等の波瀾を含んでの株主総会。
なんだか弓波の努力よりも
ウェットな要素で解決した印象。

登場人物が全員性格が悪く、共感できないのが難だ。
筋を通す弓波の姿は魅力的のはずだが、
どこか煮え切らない。

ただ、いくつか心に残る言葉はある。
弓波がファンドの社長に言うセリフ。
「あなた方は数字の話ばかりするが、会社を動かすのは社員の心だ」
妻の理恵子が夫を勇気づけ、
会社を辞めることも責めずに言うセリフ。
「贅沢にはお金が必要だけど、穏やかな日々に必要なのは心でしょ」
関係会社に勤めていた理恵子が弓波を見初める際の
部下思いの弓波の話も印象的だ。

 



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