[書籍紹介]
9月に公開される
プラット・ピット主演の映画「ブレット・トレイン」は、
日本の新幹線の走る車両の中でのサスペンス映画で、
伊坂幸太郎著「マリアビートル」が原作だ。
英訳された小説は
「今までで最も熱中して止められない本」
「ダークなユーモアやひねりが効いていてたまらない」
など英語圏読者の評価も好評だったという。
その「マリアビートル」の前作にあたるのが、
「グラスホッパー」。
2004年の刊行で、
読んでいるはずなのだが、
「マリアビートル」を読む前に確認しようと思って再読した。
3人の殺し屋が登場する。
一人は「鯨」。
人を自殺に追い込む、特殊能力を持っている。
たとえば、汚職の鍵を握る国会議員秘書を
ホテルの部屋で首吊り自殺させる。
相手は鯨に魅入られたようになり、
不平不満を口にしながら、
淡々と遺書を書き、自分で命を断つ。
鯨は、時々、自分が自殺させた人物が目の前に現れ、
語りかける幻想を見ている。
一人は「蝉」。
冷酷な殺人者。
窓口となっている岩西から仕事が入ると、
一家惨殺であろうと何だろうと、
一点の躊躇もなく、事に及ぶ。
自分が岩西の操り人形ではないかと、
岩西から離れようとしているが、果たせない。
一人は「槿」。
「むくげ」ではなく「あさがお」と読む。
「押し屋」と呼ばれ、
車の通行する道路に標的の背中を押して飛び出させて、殺す。
実際に手を使って押すのか、
念力で押すのか、不明。
そして、殺し屋ではないが、
もう一つの登場人物は「鈴木」。
妻を交通事故で亡くしたが、
車を運転していた寺原長男が遊び半分に妻を殺したのを知り、
その復讐をするために、教師をやめ、
寺原の父が経営する会社フロイライン(令嬢という意味)に入社し、
違法な商品を売りつけている。
物語は、鈴木が「令嬢」の社員の比与子から
復讐の意図を疑われ、
疑惑を晴らすために、二人の男女を殺すように迫られるところから始まる。
その現場で、寺原長男が交通事故にあう。
勝手に道路に飛び出して轢かれたのだ。
現場から立ち去る男を鈴木は尾行し、
ある家を突き止める。
後日、その家に行き、家庭教師志望を装って入り込み、
「押し屋」である確証を得ようとする。
比与子からは、その家の住所を教えろと迫られるが、
まだ確証がないので教えられない。
比与子の話では、闇世界に君臨する宮原の社長が
息子を殺した「押し屋」を
探し出せと怒り狂っているというのだ。
一方、「鯨」は議員秘書を自殺させたホテルから、
宮原長男の事故を目撃する。
秘書を自殺させるよう依頼した国会議員の梶は、鯨の密告を疑い、
鯨を殺そうとして、岩西に依頼し、
「蝉」が指定された場所に向かう。
こうした具合で、
3人の殺人者と「鈴木」の話が別々に進みつつ、
次第に絡み合い、最後に一点に収束する。
実に面白い。
そんな面白い小説を読んでいながら、
憶えていないのはなぜなのか。
超能力で人を自殺に追い込む「鯨」の話は
印象深く、記憶にあるから、
読んでいないはずがない。
いくら20年近く前のこととはいいながら、
こんなにも記憶はあいまいなものかと愕然とした。
で、二度目の再読。
なのに、引き込まれて、一日で読み終えた。
これから「マリアビースト」取りかかる。
楽しみだ。
「グラスホッパー」とは、
バッタ・イナゴ・キリギリスなどの
直翅類(ちょくしるい) の昆虫のこと。
次のような大学の言葉のように、
登場人物をはじめ、人間を昆虫にたとえているものと思われる。
「これだけ個体と個体が接近して、生活する動物は珍しいね。
人間というのは哺乳類じゃなくて、
むしろ虫に近いんだよ」
映画化したら、さそぞ面白いだろうと思ったら、
2015年に映画化されていた。
配信で観たら、
どうやったらこんなにつまらない作品になるのか
不思議に思うほどの出來だった。
どうやったら、というのは、実は分かっていて、
脚本、演出共に
原作の魅力的なところを汲むことが出来ずに、
勝手で無駄な脚色と演出を加えていること。
「日本の監督は小説を読めない」
というのは、私の持論だが、
また一つ証明された。
脚本は青島武、
監督は瀧本智行。
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