[書籍紹介]
衝撃的な題名。
帯に
「これは現代の奴隷制度なのか?」
と更に衝撃的なキャッチコピーが続く。
著者が「コンビニ加盟店ユニオン」だから、
加盟店側の立場に立って書いているからだろう。
コンビニ経営の問題点は多いが、
一番重要なのは、その利益配分方法。
粗利(販売価格と仕入れ価格の差)の60パーセントほどが
ロイヤリティ(チャージ)として本部に徴収される。
(セブンイレブンの場合、56~76%で粗利額ごとに率が変わる)
消費期限の来た商品の廃棄分は、店舗の負担(営業費)。
ならば、食品ロスを出さないように調整して仕入れるはず。
なのに、本部推奨品として強制的に仕入れさせられる。
販売ロス(客が買おうとした時、商品がない)を防ぐためだという。
仕入れ品、つまり在庫(陳列品)が少ないと、本部から叱責される。
契約更改にも影響する。
仕方なく、配送を受け入れる。
消費期限が過ぎ、廃棄が出る。
一つのコンビニで、廃棄は年間500万円といわれる。
その分、売上原価が減り、粗利が増えるので、
その60%、300万円が
本部の収益増加になる。
おかしくないか。
通常スーパーがやっている見切り販売(値引き販売)も許されない。
仕入れた分だけロイヤリティーが生ずるから、
商品が残ろうが、廃棄されようが、本部は全く痛くも痒くもない。
むしろ廃棄が出た方が本部の実入りは増えるのだ。
中には廃棄を出すよう目標化されていることさえあるという。
(その後、裁判になり、
見切り販売は認められ、
廃棄の15パーセントは本部が持つことに改められた)
更に追い打ちをかけるのが、
24時間、365日営業という形態。
「セブンイレブン」は、朝7時から夜11時まで、という意味で、
初期はそのとおりの営業時間だったが、
今は24時間営業が強制されている。
確かに、深夜でも、売れれば、もうけは出るが、
その間の人件費は店舗持ちだ。
深夜営業はほとんどの加盟店にとっては赤字だが、
やめると契約違反を問われる。
本社の社長は「やめる気はない」と言う。
本部からすれば、売れて、
粗利益が発生する限り利益となるのだから、
その間の人件費がいかにかかろうと、知ったことではない。
コンビニはきついから、アルバイトが集まらない。
最近では、外国人に頼る有り様だ。
24時間営業で人が足りず、
あるいは人件費を節約するため、
家族に運営を手伝ってもらう場合がある。
オーナーで、店長も兼ねた場合はほとんどがそうだ。
しかし、無料あるいは格安の人件費で
家族に長時間働いてもらう状態が続くと、
家庭が崩壊してしまう
シフトが満たされず、
家族が交代で出なければならいと、
家族の団欒も休みも奪われる。
病気でもしなければ休めない。
いや、病気でも、お店は開けなければならない。
台風の時も開店していなければならず、
客など来ないのに、店を守る。
東日本大震災の津波の時も、
オーナーはコピー機の上で浸水に耐えたという。
閉めてはいけない契約だからだ。
人命より、商売優先。
まさに「現代の奴隷制度」だ。
コンビニオーナーは独立した経営者という扱いなので、
労働基準法の適用はない。
フランチャイズ制が法律逃れとも言われている。
という話を様々な実例を上げながら、
問題点を上げるのが、この本。
ならば、やめればいいじゃないか、
と言われそうだが、
フランチャンズ制の場合、
途中契約解除は違約金がかかる。
だから、契約期間の間だけでも続けなければならない。
契約満了でやめても、
開業資金が無駄になる恐怖がある。
開業資金はチェーンによって違うが、
最低150万円。
ストアスタッフ募集や許認可申請などで50万円ほどかかり、
店長研修受講時の交通費・宿泊費、2、3ヶ月程度の生活費も必要。
内装設備工事費用をオーナーが負担するプランの場合、
約1000円ほど必要。
そんな苦労をして、オーナーにいくら残るのか、
収入が多ければ、苦労するのは仕方ないのでは、
とも思うが、
この本では、オーナーの実入りについては書かれていない。
他の記事を読むと、
オーナーの年収は平均で600万~700万程度だという。
大きな店舗ならもっと増え、1000万円を越える場合もあるし、
小さな店舗なら、その逆に、収入は少ない。
年収600万なら、平均以上というが、
実は、オーナーとその家族の分も含めてである。
その結果、さっきも書いたが、家族の団欒は奪われ、
夫婦がすれ違い生活になる。
無理をして体を壊してしまうと経営を続けられなくなる。
店長を雇えるような場合、
現場管理は店長に任せられるため、
ある程度の余裕が生まれる。
しかし、なかなか信頼できる店長の獲得は難しい。
店長の給料は店舗持ちだ。
お金がからむので、
監視は欠かせない。
あるコンビニ店員経験者の話では、
ほぼ毎日、1万円ほどの不足が出るという。
それでも売上高はある(レジで明瞭)から、
その分を本部に送金せざるをえない。
セブンイレブンの場合、
毎日の売上を本部に送金するのだという。
加盟店の会計は加盟店が行うのではなく本部が代行する。
オーナーはこの制度以外では決済できない。
加盟店が給料等、月々のやりとりに充てるのは「月次引出金」として
所定の算式で本部に稟議を上げ、承認を受けた後、
口座に振り込みされる。
オーナーなのに、自店のお金が自由に出来ないのだ。
コンビニといえども、生身の人間が運営している。
10年以上1日も休まず店舗運営している人、
パックヤードにダンボールを敷いて
細切れの仮眠をとりながら、
何日も続けて店に立っている加盟店オーナーもいる。
厚生労働省の調査では、コンビニオーナーの死亡率は、
他に比べ2~3倍高いという。
ブラック企業職種ベスト3というのがあり、
一つ目が「小売り」で、コンビニやアパレル。
二つ目が「飲食」で、ファミレス、カフェ、居酒屋。
三つ目が「塾」だという。
セブンイレブンは、2015年にブラック企業大賞を受賞している。
しかし、巨額のCMを出している関係か、
マスコミはなかなか報じない。
以上で分かるように、
加盟店の苦労で、
本部が儲かる仕組みだ。
その結果、
たとえばセブンイレブンの会社としての収益は、
2018年の場合、
本部の運営費、人件費等全部差し引いた、
純利益で1667億円もある。
そのほとんどは加盟店が本部に支払するロイヤリティ=チャージ。
通常の商品の仕入原価は発生せず、
粗利率が90%を超えている。
昔の藩に対する年貢、
戦前の小作人からの収奪を想起する。
これだけ儲けているのなら、
年に一度、売上高に応じて、
店舗に還元したらどうかと思うが、
そういう話は聞かない。
2万店に100万ずつ還元しても、
200億円。
純利益の1割ちょっとだ。
本部が莫大な利益を上げているのは、
加盟店の苦労の上なのに。
それでも全国にコンビニは増え、
酒屋や雑貨店を廃業して、
オーナーになる人たちは多いのだから、
それなりの実入りはあるのだろう。
物事には何でも光があれば、影もある。
ただ、影に入ってしまった人を救うのは、
企業の責任だろう。
その点で、コンビニを指導する本部員の言動は、ちょっと悲しい。
たとえば、
「シフトが組めなくなるので、
子どもはつくらないように」と言われるという。
人権問題ではないか。
「夫婦で12時間ごとに担当すれば、
人件費が減り、収入が増えるよ」と言われたこともある。
家庭崩壊の推奨だ。
従業員が殴られたりした時、指導員はこう言ったという。
「オーナーや従業員が怪我しようと、死のうと、
セブンイレブンには関係がないの」
末端の指導員の所業は、その企業の性格を意味する。
指導員は、まるで悪代官のように見える。
本部はその実態を知っているはずだから、
改善したらどうか。
鈴木敏文さんのような立派な経営者が始めたビジネスモデルなのだ。
改めるべきは改められないのか。
アメリカで始まったコンビニエンスストア。
ヨーロッパでは全く根付かず、
アジアで花開いた。
その中でも、質において日本のコンビニは群を抜いている。
何事も工夫し、改善し、より良いものを目指す日本人気質に合っていたのか。
オリンピックなどで取材に来日した記者たちが驚愕している。
便利なコンビニだが、
実態を知ると、
気軽に利用しては悪い気がして来る。
そんな思いにさせる本書だった。