京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

 阿弥陀仏のおやすみなさる…

2011年07月14日 | こんなところ訪ねて
昨日は久しく忘れていた月の美しさを堪能していた。十三夜だった。今夜も何度も見上げる夜空だが、街灯や家々の明かりが邪魔をする。湖岸の灯りが目に入るとは言え、やはり大きな闇に包まれる琵琶湖。季節は違うが、芭蕉にこんな句がある。
    
        鎖(じょう)あけて  月さし入れよ  浮御堂

元禄4年の中秋の名月の翌日、十六夜に月見の宴をして詠んだ句だとある。


琵琶湖西岸を北上した堅田の地で、湖中に突き出すようにして立っている浮御堂。山号は海門山満月寺、京都の大徳寺に属する禅寺で、古くから湖上を往来する船の安全を祈ってきている。


お堂の扉は開かれ、源信僧都が自ら刻まれたと言う「阿弥陀仏一千体」が安置されている。


琵琶湖大橋が架かり、ここは琵琶湖が一番くびれたところとなっている。お堂脇の湖中に白い杭が見えるが虚子の句が記されている。「湖も この辺にして 鳥渡る」

美しい山容の近江富士が目に付くが、首をぐるりと巡らせば近江八景にまつわる風景を一望できるそうな…。「比良の暮雪・堅田の落雁・唐崎の夜雨・三井の晩鐘・粟津の晴嵐、瀬田の夕照・石山の秋月・矢橋の帰帆」と。


お堂の周囲を青黒い藻が囲み、立ち泳ぎしているように揺らめいている。ひさしが日差しを避けて心地よいこと、涼しい極楽の風が吹く。母を案内し四歳だった息子を連れて初めてここへ来たのが、26年前の5月だったと記憶する。あの時、扉は閉ざされていた。そんな話を受付の女性と交わしていたら、「誰もいないからゆっくりしていってください」と。
Jessieが帰る前に泳いだ琵琶湖はここからまだ北になる。あの日は素通りしてしまった。

        しろがねに月輝(て)る湖辺(うみべ)を北に向き
                               彼の花電車いづくに行きにし

昨年なくなった河野裕子さんが歌われている。千体の阿弥陀仏がお休みなさるお堂に、月明かりは優しいことだろう。今夜も月がきれいだ。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする