森の空想ブログ

くまをつかまえにゆくのだ[森へ行く道<58>]



鉈鎌<なたがま>という。
昔、山岳に籠った僧兵が使った薙刀をその原型とし、山仕事の人たちが工夫を重ねて、「枝打ち」専用の鎌としたものだ。
刃は鍛鉄。
柄は太めの堅木で長さ2メートルほど。
少し高い位置の枝で、一握り(直径3~5センチ)程度の枝なら、すぱり、と切れ味良く伐り落とすことができる。草刈りには適さない。
私はこれを、先月8月15日、72歳の誕生日プレゼントに貰ったのだ。
それで嬉しくなり、研ぎあげて、車に積み込んで移動する。
――そんなアブナイものを持ち歩いてどうするのですか?
という質問がきた時には、
「うん、これを持って熊を捕まえに行くのだ」
と答える。
皆、あきれたような顔をする。
すなわち、先日、九州横断道路を横切る熊を見た、という私の情報は、あまり信用されていないのだ。
それで、私はこの鉈鎌を持ち、九州では絶滅したとされている「熊」が歩き去った原始林の入り口付近を探索し、足跡や糞、体毛などの動かぬ証拠を見つけるのだ。
先日は、夕暮れ時でもあったし、左足を痛めていることもあり、手ぶらの状態で草むらに踏み込むのは止めた。カメラ一台を首に下げた無防備の状態で、直前に熊が通って行った草藪を歩くことは、さすがに躊躇われたのだ。
今回は、この鉈鎌が武器の役目をする。
――熊と戦って死ぬのなら、悔いはない。
と、私は強がってみせるが、実際には熊がいきなり襲ってくるような動物ではないことを知っている。

こうして準備を整え、出発の日を待っていたら、台風が来た。
風が吹きつのり、時折つよい雨が降ってくる。
霧も出た。
今日の山越えは無理だな。
熊を捕まえる、というのは本心ではなくて、まあ、ちょっとした冗談のつもりである。
熊に会いに行くのは次の機会にしよう。

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