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最近ちょっとお疲れ気味

竹中平蔵元大臣の言う「世界のものづくり100社」って何?

2008-12-27 09:55:24 | Weblog
 12月9日の朝日新聞に「1500兆円が日本の未来を明るくする」と題した金融に関する広告特集が出ていました。金融の有識者として、元経済政策担当大臣で慶応義塾大学教授の竹中平蔵氏、作家の村上龍氏のインタビュー記事が掲載されていたのですが、竹中氏の以下の言葉が気になりました。

(以下引用)
 私たちの所得には、労働所得と資産所得の2種類があります。みんな生活が大変だ、右肩上がりではなくなったと言いますけれど、これは経済のグローバル化の中で、労働所得が増えなくなったということです。労働所得が上がらない時代には、資産所得を上げていく普通の努力をしていくべきだと私は思います。
(中略)
 こういった話をすると、よく出てくるのは「日本はものづくりの国だ」という反論です。だからマネーゲームのような行動に走るべきではないというわけです。これは単純すぎる話だと私は思いますね。そもそも本当に日本は、ものづくりの国でしょうか。日本人がものづくりから得る所得は、GDPの26%に過ぎません。
 もうひとつ興味深いデータがあります。S&P(スタンダード&プアーズ)とシティグループが発表している企業価値から見た「世界のものづくり100社」という統計によると、その中で日本企業はわずか8社です。アメリカは44社、イギリスも12社入っています。このメッセージはすごく重要です。金融の強い国がものづくりも強い。考えてみれば当然ですよね。強い経営、健全な経営をやろうと思えば、資金調達もしなくてはいけないし、M&Aも必要かもしれない。ものづくりと金融はコインの表と裏なんです。
(引用終わり)


 それでも私は日本はものづくりの国だと思うんですがね。

 金融の強い国がものづくりも強い、という主張の根拠として竹中氏は「世界のものづくり100社」なる統計を引き合いに出していますが、これはどんな統計なのでしょうか。私としては気になり、S&P社のホームページを探してみたのですがそれらしい統計は見つかりません。しかし、S&P社が以下のような金融商品を開発、販売していることがわかりました。

(以下引用)
iシェアーズ S&P グローバル100 インデックス・ファンド(IOO)

ファンドについて
iシェアーズ S&P グローバル100 インデックス・ファンドは、スタンダード・アンド・プアーズ・グローバル100インデックス(以下、「当インデックス」)によって代表される世界の大型株の価格および利回り実績と同等水準の投資成果(報酬および経費控除前)を目指しています。当インデックスはスタンダード・アンド・プアーズ・グローバル1200インデックスのサブセット指数です。

インデックスについて
当インデックスは、全世界の市場において重要な位置を占めている、調整後時価総額50億ドル以上の多国籍企業100社のパフォーマンスを測定するように設計された指標です。多国籍企業とは、その生産施設あるいは固定資産を少なくとも1つの外国においている企業のことを指します。母国以外での売上の割合も、その企業の国際性の判定要因になります。米国以外の企業についてはすべて、浮動株調整がなされ、また絶えず入れ替えが行なわれています。
(引用終わり)

出所:http://www.ishares.co.jp/product/stocks/ioo.html

 この100社というものはS&P社が重要と判断した、株の利回りの高い大規模な多国籍企業100社であって、竹中氏が言う「世界のものづくり100社」とは違うようです。しかし、一応S&P社の Global 100 Indexなるものを調べてみると、100社の国別内訳の数が竹中氏のお話と似通っています(http://www2.standardandpoors.com/spf/pdf/index/SP_Global_100_Factsheet.pdf)。もしかしたら彼は、意識的か無意識的にかどうかはわかりませんが、このGlobal 100 Indexにて運用対象として選ばれている100社のことを述べているのではないかと想像してしまいます。

 さてGlobal 100 Indexの対象となっている具体的な100社の社名リストはS&P社の資料には記載がないのですが、Wikipedia(http://en.wikipedia.org/wiki/S&P_Global_100)によると日本企業で選ばれているのはBridgestone Corp.、Canon Inc.、Fuji Photo Film Co.、Hitachi、Honda Motor Corp.、Matsushita Electric Industrial、Nissan Motor Co.、Sony Corp.、Toshiba Corp.、Toyota Motor Corporationの10社です。すべてメーカーです。
 ではアメリカのメーカーはどうでしょう。3M Company、Alcan Inc.、Coca Cola Co.、Dell Inc.、Dow Chemical、Du Pont (E.I.)、Ford Motor、General Electric、General Motors、Hewlett-Packard、Intel Corp.、International Business Machines(IBM、今はものづくりしてましたっけ?)、Johnson & Johnson、Lucent Technologies、Nike, Inc.、PepsiCo Inc.、Pfizer, Inc.、Procter & Gamble、といったところです。半数以上のアメリカ企業は、エネルギーのChevron Corp.、Exxon Mobil Corp、金融のCitigroup Inc.、JPMorgan Chase & Co.、Morgan Stanley、ソフトの Microsoft Corp、サービスの McDonald's Corp、Wal-Mart Storesなどで占められています。

 確かにS&P社のGlobal 100 Indexで選ばれているアメリカのメーカーの数は日本よりも多いのですが、日本がアメリカに大きく差を付けられているほどではありません。そもそも竹中氏が主張する「世界のものづくり100社」とはどのような統計なのか、できればその現物を示していただきたいところです。

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3 コメント

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そう思う人にはそう見える (デハボ1000)
2008-12-27 16:35:56
>そもそも本当に日本は、ものづくりの国でしょうか。日本人がものづくりから得る所得は、GDPの26%に過ぎません。
物つくりによる直接的価値という問題があります。たとえばA社の半製品をB社が付加価値をつけて、そこにC社が付加価値を・・・Z社がというサイクルを考えると製造業における表だったGDPはかなり増えるように見えます。また付加価値は表向きサービス業になりますが、技術系シンクタンクにも回ります。専門的志向がどうしても多いアメリカではこれがどうしても水増しに見えやすい傾向になります。
日本は技術を一社で抱え込む傾向にありますから数値的には出にくいところかもしれません。だとすると、ドイツ・フランスのこの統計の中身を見てもいいでしょう。
なお、
>母国以外での売上の割合も、その企業の国際性の判定要因になります。
から実感とずれうるかもしれません。
>金融の強い国がものづくりも強い。考えてみれば当然ですよね。・・・・・・ものづくりと金融はコインの表と裏なんです。
ある意味これは間違いでないところもあります。ただしこれはものづくりがいままでの頭脳集積による利得以上に、腕力とイメージ戦略を絡めた「ものうり」にシフトしてしまったということと思っています。そうなると札を切って奪い取る(販売も製造能力も特許も)には銭でしょうなあ。逆に言うとこれらの会社には「1号国民ソケット」や「CVCC」の発想はでてこないのかもしれません。
ただし、この考え方は投資対象として日本を見るファンド(すなわち株主主義の見解)への説明にはきわめてわかりやすいのも事実ですし、そのような資本蓄積が本邦では財閥解体以降きわめて薄くなってしまった。辛辣ですが竹中氏の存在意義は海外から「見識と見られてやすい志向を持っていること」だと考えています。
>International Business Machines(IBM、今はものづくりしてましたっけ?)
ソフトインテグレータというと、ある意味プログラムそのものを作るというものつくりの側面がありますし、投資として物つくりの側面はあるでしょうね。(日本の会社にも分けにくいものもあります)けど東証の分類と同じに少し古いのかもね。
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Unknown (maxx)
2008-12-28 10:32:32
株価などでは見ることのできない日本のものづくり企業にもっと目を向けて欲しいですね。
現在の金融危機に対して、なんとかものづくりの足元を支えている企業さんが乗り越えられることを願っています。
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コメントありがとうございます (kunihiko_ouchi)
2008-12-28 21:21:27
>金融の強い国がものづくりも強い。考えてみれば当然ですよね。
かつての大英帝国、少し前のアメリカ合衆国の製造業は圧倒的な強さを誇っていたからこそ、両国の金融が発展した、と表現する方が適切だでしょう。ではなぜものづくりで一流になった日本で金融が発展しなかったのか?、と問われると私はうまく説明できないのですが。。。
>株価などでは見ることのできない日本のものづくり企業にもっと目を向けて欲しいですね。
おっしゃるとおりだと思います。企業の価値は株価だけではないでしょうから。
金型業界をはじめ、機械工業の基盤技術を担う業界はどこも非常に厳しい状況にありますが、なんとかこの難局を乗り越えてもらいたいです。
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