歩きながら考える

最近ちょっとお疲れ気味

木彫りの里 井波

2009-12-08 07:42:44 | ものづくり・素形材
 城端での調査を終え、タクシーで井波にあるいなみ木彫りの里創遊館へ移動しました。井波は伝統工芸の木彫りで有名な町で、300人近い職人が集まる日本一の木彫りの産地です。井波の木彫り職人たちは全国各地の寺社・仏閣の彫刻を数多く手がけ、それと並行して一般住宅欄間・獅子頭など・置物でも腕を振るっています。詳しくはこちら
 創遊館は観光客向けの施設ですが、隣接する井波彫刻総合会館内にある井波彫刻協同組合を訪問して井波木彫りの現状と新たな取り組みについてお話を伺ってきました。


 会館内に展示されている作品を拝見させていただきましたが、220本以上の鑿を使い分けて彫るといわれる造形の細かさ、芸術性の高さに圧倒されました。まさに職人技です。この井波の木彫りに魅せられ職人になることを目指す若者が日本全国から弟子入りに来ており、協同組合の組合員120名のうち半分近くを県外出身者が占めるとのことでした。

 神社仏閣からの注文の減少、住宅の洋風化、そして中国産の流入によって井波の木彫りを取り巻く環境は厳しさを増しています。中国産は手彫りではなく歯医者が使うようなドリルによる機械彫りで、造形の細かさのみを過度に強調するものが目立ち、決して洗練されてはいません。しかし中国産の価格は売価で井波木彫りの1/10、原価は1/20とも言われ、価格競争ではとても太刀打ちできません。そんな中国産の木彫りが最近では日本の寺社建築にもかなり入り込んでいる、という話は意外でした。欄間などに日本産を使いたいという住職さんは多いのですが、寄付を出す檀家の方々からのコストダウンの要請を断りきれず、やむなく中国産を使わざるを得ない寺が最近では少なくないのだそうです。神社仏閣までも日本の伝統文化を守っていけなくなっていることは大変残念です。

 また井波木彫りの問題点として、分業が行われていないこと、問屋が存在しないことも指摘できます。
 同じ伝統工芸でも例えば鎌倉彫などは工程の分業化が進んでおり、職人が彫刻を行う傍ら営業や材料調達に従事することはあまりありませんが、井波木彫りの場合は職人自らが営業から材料の調達、生産、販売まで一貫して一人で行う例がほとんどです。ちなみに営業は展示会での出展販売もありますが、主流となっているのは既存顧客の口コミ頼みのようです。
 また廉価品については、問屋が職人に代わって営業、販売を行うだけでなく、ユーザーニーズをくみ上げ新商品の企画提案を職人に対して行うプロデューサーの機能を果たしている、という伝統工芸品もあるようですが、井波木彫りの場合はそのような問屋機能は一切存在しません。完全に受注生産の一品もので、材料と生産工程の関係上、品質と納期を安定させることが難しいことが、問屋機能が地元に生まれなかったことの背景であるとのことでした。さらに、プライドが高く昔ながらの職人気質で、現代風のデザインなどに対して拒否感を示す職人が多いことも井波木彫りの発展を難しくしている一因のようでした。
 
 しかしながら、最近ようやく井波木彫りにも変化の兆しが見られるようになりました。それが井波木彫りによるギター製作です。


 この斬新な取り組みは、商工会からの補助金とギターメーカーのESP社の協力、そしてバンド経験がありギターマニアである職人さんと事務局の方の情熱により実現したとのことです。既に寺内タケシが地元でのコンサートでの演奏に使い(こちら)、ギター専門誌の月刊"Player"の2010年1月号にも取り上げられ(こちら)、話題性は十分です。このジャパンテイスト満点のギターは、例えば親日家のマーティー・フリードマンのような海外の有名ロックミュージシャンに売り込んだほうがよいのでは、と申し上げたら、自らもギターマニアの事務局の方は我が意を得たりという感じで、全くその通り、海外の有名アーチストに是非売りたいと力強く語ってくれました。もしかしたら井波の木彫りはこれから面白い展開をしていくかもしれません。

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