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クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

「愛の流刑地」の高岡早紀と岸谷五郎の関係は“恋”か“愛”か?

2007年03月22日 | 恋部屋
“恋”と“愛”の違いは何か?
恋は「心」が下についているから“下心”、
愛は真ん中にあるから“真心”と、
何かで読んだことがあります。
ああ、なるほどとそのとき妙に納得しましたが、
これは恋と愛の違いをうまく言い得ているでしょうか。

ドラマ「愛の流刑地」はそのタイトルのとおり“愛”がついています。
この内容は冬香(高岡早紀)と村尾(岸谷五郎)の、
禁じられた「愛」を描いた物語。
テーマは「男と女とは何か?」と言えば格好はつきますが、
簡略化してしまうと中年男女の不倫物語です。
原作者は渡辺淳一。
「愛の流刑地」と似た内容で記憶に新しいのは「失楽園」があり、
これも大きな話題を呼んでいました。

ただ、両作品を比較して異なるのは、
「愛の流刑地」は村尾が冬香を殺してしまうことです。
しかし単なる殺人ではありません。
愛の絶頂の果てに、女が男に殺されることを望んだのです。
当然男は罪に問われます。
前半が2人の「愛」の物語だとすれば、
後半は“冬香の願いを叶えた村尾は罪か?”という問いの検証です。
色々な人物からそれぞれの視点でこの事件を見つめ、
男と女とは何かというテーマを考えていく構造になっていました。

ところで、このドラマを見ていてふと思い浮かんだのは、
森鴎外の「高瀬舟」です。
大正5年に発表されたこの短篇小説は、
いわゆる安楽死の問題を提起しています。
「愛の流刑地」のように不倫が描かれているわけではありませんが、
死を望む者に愛する者がその手助けをするという意味で、
モチーフが重なります。

愛する弟が死にも絶え絶えで苦しんでいる最中、
そのトドメを刺した兄“喜助”。
喜助もまた罪を問われ、高瀬舟で島へ流されてしまうのでした。
しかし、彼の表情は晴れやかで、
高瀬舟を漕ぐ“庄兵衛”が訝しがるほどであり……。
森鴎外は小説の中で次のように書き記しています。

 苦から救って遣らうと思って命を絶った。それが罪であらうか。
 殺したのは罪に相違ない。
 しかしそれが苦から救ふためであったと思ふと、
 そこに疑が生じて、どうしても解けぬのである。

「愛の流刑地」の村尾においても、冬香を「苦」から救うために、
首に手を掛けたとしていました。
おそらく2人の想いがそれぞれ「恋」であったならば、
殺すことも殺されることもなかったのでしょう。
しかし「愛」だったゆえに、
望み望まれるままに冬香の死が訪れたと言えます。
愛と罪は同義でしょうか。
ドラマの登場人物たちもこの事件を通して、
それまでと違う出口と入口に立たされていました。

底本
『日本文学全集4 森鴎外』筑摩書房

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