“寅御石”と呼ばれた石は、
埼玉県立小児医療センターの近くにある(2014.12.17現在)。
板碑(板石塔婆)である。
しかも、高さが5mもあってかなり大きい。
それもそのはず。
埼玉県内で2番目に大きな板碑となっている(県指定有形文化財)。
板碑は塔婆の前身と言われ、信仰的要素の強いものだが、
寅御石には悲恋の話が伝わっている。
ある長者の娘に見初めた3人の若者がいた。
娘の名は「お寅」。
それはそれは美しい娘だったという。
求婚した3人の若者はいずれも眉目秀麗で、
非の打ち所がない。
両親としてみれば、誰にやってもいい。
欠点がないだけに、お寅の両親は婿選びに悩んでしまう。
男たちの催促は日増しに強くなっていく。
同時に対立も深まっていった。
そうした事態にお寅の両親は動揺を隠しきれない。
かと言って、決断できるわけでもなかった。
お寅はその様子を見て嘆き悲しんだ。
そもそも、自分さえいなければ両親がこんな苦しみを抱くことはなかったはず。
心優しいお寅は自刃して果ててしまう。
息を引き取る間際、お寅は両親にこう言い残した。
「自分の体を料理して、男たちにご馳走して下さい」
数日後、若者たちは長者の家に呼ばれた。
今日こそ返事が聞けるのかと勇み立っていたのは言うまでもない。
長者の家で彼らは馳走を受け、宴もたけなわというときに、
お寅の父親がやってくる。
「次の料理はお寅が腕をふるったものでございます。どうかお召し上がり下さい」
そして運ばれてきたのは血の滴る生肉。
それこそが、変わり果てたお寅の姿だった。
何も知らない若者たちは喜んでそれを食す。
しかし、食べ終わったすぐそのあとで、
父親から真実が告げられた。
目を丸くし、お互い顔を見合わせる若者たち。
自分たちがそれほどお寅を苦しめていたのか……
若者たちは皆涙を流し、いずれも出家するとお寅の菩提を弔ったという。
そして、彼女の供養塔を建立する。
この供養塔こそが「寅御石」であり、
いまでもお寅の命日には団子が供えられている。
この悲話の真偽のほどは定かではない。
おそらく、巫女などの宗教的遊行者が語って聞かせたものが、
現在に伝わっている可能性が高い。
あまりにも大きな板碑である。
何かそれらしい逸話や意味付けをしたくなるのが人情というものだろう。
寅御石は墓地の一角に建っている。
周囲は田畑で、少し離れたところに病院や大学が見える。
のどかな景色が広がっていて、
知らなければすぐに通り過ぎてしまうかもしれない。
悲話の真偽は定かではないが、
地域の人たちが大切に語り継いできたことは確かである。
寅御石の前で静かに手を合わせたい。
また、墓地の一角にあるため、
見学の際は迷惑をかけないよう気を付けたい。
埼玉県立小児医療センターの近くにある(2014.12.17現在)。
板碑(板石塔婆)である。
しかも、高さが5mもあってかなり大きい。
それもそのはず。
埼玉県内で2番目に大きな板碑となっている(県指定有形文化財)。
板碑は塔婆の前身と言われ、信仰的要素の強いものだが、
寅御石には悲恋の話が伝わっている。
ある長者の娘に見初めた3人の若者がいた。
娘の名は「お寅」。
それはそれは美しい娘だったという。
求婚した3人の若者はいずれも眉目秀麗で、
非の打ち所がない。
両親としてみれば、誰にやってもいい。
欠点がないだけに、お寅の両親は婿選びに悩んでしまう。
男たちの催促は日増しに強くなっていく。
同時に対立も深まっていった。
そうした事態にお寅の両親は動揺を隠しきれない。
かと言って、決断できるわけでもなかった。
お寅はその様子を見て嘆き悲しんだ。
そもそも、自分さえいなければ両親がこんな苦しみを抱くことはなかったはず。
心優しいお寅は自刃して果ててしまう。
息を引き取る間際、お寅は両親にこう言い残した。
「自分の体を料理して、男たちにご馳走して下さい」
数日後、若者たちは長者の家に呼ばれた。
今日こそ返事が聞けるのかと勇み立っていたのは言うまでもない。
長者の家で彼らは馳走を受け、宴もたけなわというときに、
お寅の父親がやってくる。
「次の料理はお寅が腕をふるったものでございます。どうかお召し上がり下さい」
そして運ばれてきたのは血の滴る生肉。
それこそが、変わり果てたお寅の姿だった。
何も知らない若者たちは喜んでそれを食す。
しかし、食べ終わったすぐそのあとで、
父親から真実が告げられた。
目を丸くし、お互い顔を見合わせる若者たち。
自分たちがそれほどお寅を苦しめていたのか……
若者たちは皆涙を流し、いずれも出家するとお寅の菩提を弔ったという。
そして、彼女の供養塔を建立する。
この供養塔こそが「寅御石」であり、
いまでもお寅の命日には団子が供えられている。
この悲話の真偽のほどは定かではない。
おそらく、巫女などの宗教的遊行者が語って聞かせたものが、
現在に伝わっている可能性が高い。
あまりにも大きな板碑である。
何かそれらしい逸話や意味付けをしたくなるのが人情というものだろう。
寅御石は墓地の一角に建っている。
周囲は田畑で、少し離れたところに病院や大学が見える。
のどかな景色が広がっていて、
知らなければすぐに通り過ぎてしまうかもしれない。
悲話の真偽は定かではないが、
地域の人たちが大切に語り継いできたことは確かである。
寅御石の前で静かに手を合わせたい。
また、墓地の一角にあるため、
見学の際は迷惑をかけないよう気を付けたい。