紅旗征戎

政治、経済、社会、文化、教育について思うこと、考えたこと

『追憶』と民主党

2005-08-12 08:28:35 | 映画・ドラマ
最近好んで聞くようになったジャズのCDに1973年の映画『追憶』のテーマが入っていた。この曲は映画音楽のスタンダードとなっていて、以前にも何度も聞いていたし、バーバラ・ストライサンドロバート・レッドフォード主演のノンポリだがスマートで裕福な男性と政治活動家の生真面目な女性の悲恋を描いたという話も知っていたので、映画を見るまでもなく見た気になっていたが、メロディーラインに誘われるままにビデオを借りて今回、見てみた。

バーバラ・ストライザンドは熱心な民主党支持者として知られていて、昨年の大統領選挙でもケリー候補の資金集めパーティに出演しており、毎回大統領選挙のたびに民主党のための選挙活動をして話題になっている。映画の中でもストライサンド演ずるユダヤ系の苦学生ケイティはフランクリン・D・ルーズベルト大統領の熱心な支持者であり、同時に演説巧みな親ソ的な学生運動家として登場する。ケイティは大学の同じ小説創作クラスにいた甘いマスクで才能もあるが、政治に無関心で遊び人のハベル(ロバート・レッドフォード)に恋して、再会を契機に積極的にアタックする。あらゆる場面でケイティの方がリードしていて「押しかけ女房」的で、ハベルは終始受身なのが印象的なのだが、「政治」を社交のためのジョークのネタ程度にしか考えていないハベルの周りの金持ちの友人たちと、共産主義や社会改革に熱心な政治信念を持つケイティのそりは合わず、いつも摩擦を起こしてしまう。

この映画を見ていると「ニューディール連合」と呼ばれたユダヤ系、黒人、カトリック、都市労働者などの当時の民主党支持者が、傾向として社会主義にシンパシーを感じていて、共和党支持者との間にある種の「階級対立」があった様子がよく描かれている。やがて二人は結婚し、ハベルが映画脚本家として活躍するようになり、ケイティがアドバイスし続けるのだが、マッカーシズムの波がハリウッドをも襲うようになると、ケイティは反マッカーシズム運動に精力を注ぎはじめることで、夫ハベルの仕事を危うくし、二人の間の溝を深めてしまう。言論の自由のためにマッカーシズムと戦ったケイティだが、彼女が幻想を抱いていたスターリン体制下のソ連でもまさに言論の自由がなかったというのが歴史の皮肉であり、ハベルと同時にソ連に対しても「片思い」だったのかもしれない。

子供ができるが二人は離婚し、ハベルは金持ちの元恋人と再婚し、ケイティが原爆反対の街頭運動をしている場面で再会するというのがラストシーンである。冷静に見ていると性格や考え方、背景の点で合うはずがない二人で、それでもケイティがハベルに夢中になったのはやはりハンサムだからなのかと思ってしまったが(特に二人が再会した時の白い海軍服姿のハベル演ずるレッドフォードは輝かしいのだが)、一方のハベルがケイティに惹かれる様子があまり上手く描かれてなかったような気がした。ハベルの小説の一応、よき理解者だったからなのだろうか?しかしいずれにしてもよく指摘されていることだがラストシーンのレッドフォードの表情は、愛し合っていながら別れなければならなかった人と再会した時の哀切さをうまく表現していると思った。

ケイティの姿にヒラリー・クリントンがダブって見えたが、今年の7月のギャラップ調査では2008年の大統領選挙に関して、共和党のマケイン上院議員か、民主党のヒラリー・クリントン上院議員か、両者が立候補した場合にどちらに投票するかという問いに前者が50%、後者が45%となっており、共和党のジュリアーニ前ニューヨーク市長 対 ヒラリーでもやはり50対45と共和党がリードしており、ケリー前候補が再び立候補した場合についての問いでも共和党候補がリードしている。民主党が本格的に選挙対策に取り組まない限り、民主党そのものが『追憶』の政党になりかねない。ちなみに映画の原題は"The Way We Were"だが、『追憶』というシンプルな日本語は名訳だと思うが、直訳すれば「昔の私たち」あるいは「私たちの過去」くらいの意味だろう。女性の方が共感しやすい映画かもしれない。