第十五話 内間木王の憂欝(一回戦 サイクロン霜畑 VS 内間木王)<o:p></o:p>
音楽が流れ出す。曲はアリスの『チャンピオン』だ。<o:p></o:p>
スクリーンには内間木王が映し出される。<o:p></o:p>
会場からは老若男女問わず歓声が起きる。<o:p></o:p>
上手から、マントをはおって腰に面綱をつけた『内間木王』が現れる。<o:p></o:p>
続いて、演歌の渋い音楽(『夢芝居』)が流れ出す。スクリーンにはサイクロン霜畑。渋い表情のサイクロンがスクリーンに映し出される。今回の声援は、『待ってました!千両役者!』等、掛け声が飛ぶ。<o:p></o:p>
満を持して『サイクロン霜畑』が登場する。<o:p></o:p>
両者に単サスが落ちて、モノローグ仕様の照明になる。<o:p></o:p>
サイクロン お前とやるのも、今日が最後かもしれねぇな。<o:p></o:p>
内間木王 俺は、貴方を負かしたくは無い。<o:p></o:p>
サイクロン 何、生意気なことを言ってるんだ。俺が、負けるっていうのか。<o:p></o:p>
内間木王 サイクロンさん…。<o:p></o:p>
サイクロン 俺は、お前に負ける気はしねぇぞ。若造!<o:p></o:p>
内間木王 俺に、若造と言えるのは、サイクロンさんだけですよ。<o:p></o:p>
サイクロン お前、俺と組めるか。<o:p></o:p>
内間木王 流石にひよっこではありませんから。サイクロンさんの眼光に恐れをなして逃げ去るようなことはしませんよ。<o:p></o:p>
サイクロン 良く言った。俺に敬意を払いたければ、手ぇ抜くな。全力で来い。<o:p></o:p>
内間木王 わかりました。全力で行かせていただきます!<o:p></o:p>
両者睨みをきかせながら、リングで間合いを保ちゆっくりと周っている。<o:p></o:p>
内間木王 サイクロンさんは何のために戦っているんですか。<o:p></o:p>
サイクロン そんなこと考えていれば戦えないぞ。<o:p></o:p>
内間木王 勝ってどうなるというんです。<o:p></o:p>
サイクロン 負けた相手が、ほふられるだけだ。<o:p></o:p>
内間木王 だったら、俺は勝ちたくねぇ。<o:p></o:p>
サイクロン なら、負ければ良い。<o:p></o:p>
サイクロンの痛烈な押しに内間木王後ずさりをする。<o:p></o:p>
内間木王 負けたらどうなるって言うんです。<o:p></o:p>
サイクロン お前さんなら、かろうじて肉になって、人様の役に立つだろうよ。もっとも、筋肉質の肉だから、せいぜいミンチになってひき肉としてユニバースで特売日に一〇〇g98円で売られるのが関の山だろうけどな。<o:p></o:p>
内間木王 それが、俺の一生か。<o:p></o:p>
サイクロン そうなのかもな。<o:p></o:p>
内間木王 俺は次も勝つべきだろうか。<o:p></o:p>
サイクロン 次があったらな。<o:p></o:p>
内間木王 勝ったらどうなる。<o:p></o:p>
サイクロン 勝ったら相手がほふられる。<o:p></o:p>
内間木王 だったら、俺は勝てない。<o:p></o:p>
サイクロン それじゃぁ、お前がほふられるだけだ。<o:p></o:p>
内間木王 俺はどうすればいいんだ。<o:p></o:p>
サイクロン 考えるな。<o:p></o:p>
内間木王 考えるな?<o:p></o:p>
サイクロン そんなんじゃ、今まで一所懸命にやって来た、大上さんが泣くな。<o:p></o:p>
内間木王 大上さん?。<o:p></o:p>
サイクロン 栗木の奥さんも泣くな。<o:p></o:p>
内間木王 ……。<o:p></o:p>
サイクロン もちろん、栗木さんも泣くな。<o:p></o:p>
内間木王 栗木さんは、泣かせるわけにはいかねぇ。<o:p></o:p>
内間木王、渾身の押し。徐々に、サイクロンが押される。<o:p></o:p>
サイクロン そうじゃなきゃ。<o:p></o:p>
内間木王 そうだ、そうなんだ。俺は、栗木さんのために闘っているんだ。俺が、どうなろうと関係はねぇ。栗木さんが、栗木さんが喜んでくれれば、それだけで、俺が生きている価値があるんだ!。<o:p></o:p>
サイクロンの息があがってきた。両者、両手でもう一度押し合う。<o:p></o:p>
サイクロン そうだ。<o:p></o:p>
内間木王 今の、一瞬を精一杯生きる。どうせ、死ぬ時は死ぬんだ。どう死ぬか考えたって意味がない。今をどう生きるかだ。<o:p></o:p>
両者ぱっと離れる。<o:p></o:p>
サイクロン 十七年生きてきて、わしがたどり着いた結論と同じだな。<o:p></o:p>
内間木王 ………。<o:p></o:p>
サイクロン お前も、そこまで来たな。<o:p></o:p>
疲労したサイクロンの足が一瞬もたついた。そのすきを突いて、内間木王は、わき腹をつきあげる。<o:p></o:p>
サイクロン 次も。精一杯やれ。<o:p></o:p>
勝負はあった。両者、勢子に綱を引かれて、頭を離す。<o:p></o:p>
サイクロン 本気でやってくれてありがとよ。<o:p></o:p>
内間木王 ……。<o:p></o:p>
サイクロン ここまで来たんだ。最後の試合も、きっちり、自分なりのけじめをつけるんだな。<o:p></o:p>
内間木王 サイクロンさん。<o:p></o:p>
サイクロン 俺は、楽しかったよ。<o:p></o:p>
内間木王 ……。<o:p></o:p>
サイクロン 俺がここまでがんばれたのは、お前が居たからだ。<o:p></o:p>
内間木王 ……。<o:p></o:p>
サイクロン 充実した、一生だった。内間木、ありがとうよ。<o:p></o:p>
内間木王 そんなこと言わないでくださいよ。<o:p></o:p>
サイクロン 本当の気持ちだ。<o:p></o:p>
内間木王 勝った俺の方がカッコ悪いじゃないですか。<o:p></o:p>
サイクロン 今のお前は、カッコイイ。<o:p></o:p>
内間木王 また、そんなこと言ってずるいですよ。<o:p></o:p>
サイクロン お前は、カッコイイ…。<o:p></o:p>
サイクロン、その場にどうっと倒れ込む。<o:p></o:p>
歓声に包まれ、2頭のモノローグから、闘牛大会の世界に戻る。<o:p></o:p>
江根知 サイクロン倒れた。もう、精も魂も尽き果てたか!闘牛場で倒れた牛は初めて見た!まさに、死闘の一戦!勝者は、内間木王!<o:p></o:p>
歓声が消える。<o:p></o:p>
内間木王 サイクロンさん。最後までカッコ良すぎます。<o:p></o:p>
再び歓声に包まれながら暗転。<o:p></o:p>
第十六話 内間木王とグレートガタゴンの憂欝<o:p></o:p>
次の試合を控えた牛つなぎ場。そこには『グレートガタゴン』が居て、側に勢子が居る。<o:p></o:p>
勢子 ガタゴン、ついにここまで来たね。私も精一杯やるから。横綱になるよ。<o:p></o:p>
そこへ、車椅子の勢が現れる。<o:p></o:p>
勢子 兄さん。<o:p></o:p>
勢 勢子、良く、ここまでやってくれた。ありがとう。<o:p></o:p>
勢子 兄さん。<o:p></o:p>
勢 しかし、栗木さんも、大胆だな。俺たちのために、闘牛をここまで変えて。<o:p></o:p>
勢子 えっ。<o:p></o:p>
勢 俺たちのために、こうまでしてくれたんだ。それに酬いるためにも、最高の一戦をしなきゃな。<o:p></o:p>
勢子 …えぇ。<o:p></o:p>
勢、ガタゴンの側に車椅子を走らせる。<o:p></o:p>
勢 ガタゴン、今日は、途中では止めないから、精一杯勝つまで闘え!お前の望みが遂に果たせるんだ。<o:p></o:p>
勢、勢子の方を見る。<o:p></o:p>
勢 お前も、夢が果たせたんだ。ガタゴンのことを頼むぞ。<o:p></o:p>
勢子 ……うん。<o:p></o:p>
勢 行け!<o:p></o:p>
ガタゴンのモノローグ。<o:p></o:p>
ガタゴン 御嬢さん。いさおさん。二人のためにもきっと勝ちます。横綱の称号を、お二人のところへ届けます。きっと、きっと…。<o:p></o:p>
転 換<o:p></o:p>
場面は再び闘牛場に変わる。<o:p></o:p>
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます