第参景 大島高任
伊之助と善太が、精製された鉄を取り出すために窯を壊し始める。
タタラの最終段階になっている。
窯を壊したところから、精製された鉄を取り出す作業をする。
二人の男が現れて、遠くからその作業の様子を見てる。
ツバキ、コブシとたたら場にやってくると、明りが広がる。
コブシ この釜壊しが本当にいっつももったいねぇって思ってるんだよね。
ツバキ そうだね。これが何回も使えれば、仕事だってもっともっとはかどるし、エコだべ。
コブシ は?ネコ」?
ツバキ エコ!
コブシ ベコ?
ツバキ エコ!
コブシ 何だ、そのエコって。どういう意味だ。
ツバキ まぁ、つまり、とってもいい子だなぁっていういみなのす。
コブシ なんと、今はやりだごと。
作右ェ門が、何やら見慣れない服を着た男を連れて現れる。
善太 来た来た。あの人に違いねぇ。
ツバキ どんなだ。
善太 見たこともねえような着物着て、頭の上になんだかのっけでる。
伊之助 西洋の着ものだべ。異人と話をするときに、笑われねぇ様に、そんな服着てんだ。
善太 へぇぇ。
伊之助 頭の上にあるのは、『しゃっぽぉ』っうものだ。かぶり笠みてぇなもんだ。
コブシ おらだもこんなこきたねぇ着物きてで、笑われねぇべぇが。
伊之助 大島先生は、そんな人でねぇ。
そこへ、作右ェ門が案内して、大島高任が目の前に現れる。
たたらの4人、床にひれ伏す。
善太 は、はぁぁぁ。
高任 みなさん、やめてください。私は、殿さまじゃないですから。
作右ェ門 そんなにかしこまったら、話もできねぇ。まずは、皆さん、座って、話、するべぇ。
高任 私もここに座らせていただきますので、皆さんも顔をあげて、あぐらでお願いします。
コブシ 本当だ、良い人だ。
ツバキ ほんじゃ、お言葉に甘えて。
善太 おめぇはあぐらかかなくていいの。
ツバキ だりゃ、大島先生が良いって語ったんでねぇの。
善太 良いって言ったって、おめェは女子(おなご)だべ。
ツバキ 男だ女だって、面倒くせぇな。
善太 恥ずかしいな。
ツバキ おら、恥ずかしいことぁねぇ。
善太 おらが恥ずかしいんだ。
ツバキ あんだには関係ねぇべ。
善太 おら、お前の旦那だもの、恥ずかしいべ。
ツバキ 恥ずかしい嫁ごで申し訳なかったぁね。
伊之助 こりゃ、大島先生の前で、喧嘩して、何だ。
大島、笑いながら…。