R45演劇海道

文化の力で岩手沿岸の復興を願う。
演劇で国道45号線沿いの各街をつないでいきたいという願いを込めたブログ。

脚本完成!

2009-10-06 08:16:36 | インポート
 今年の作品もやっと生れ落ちました。まぁまぁ、難産でしたが、初産の一昨年よりは楽でした。ここからは、作品が、キャスト・スタッフの手に渡り、どんどん一人歩きを始めます。心配な面もありますが、親としてはどんな子に育てたいかの信念だけはしっかりと持って、それぞれ育んでくれる、おらホールの皆さんに作品を委ねたいと思います。
 素敵な子に育つよう、皆さんよろしくお願いいたします。

煉獄のSAKURA(その14)

2009-10-06 08:07:54 | インポート

第十六章 外伝

 飛行機の音が静かに聞こえてくる。その音は、米軍偵察機の音である。その音は次第に大きくなり。上空で旋回しているように聞こえる。

 会場中央後方に、飛行機のコクピット風の場所が照らし出される。そこには、米軍兵が一人乗り込んでいる。米軍兵は英語で話し出す。

 舞台前面のスクリーンには、日本語で字幕が映し出される。

オリバー いったいどうしたということだ。この街は、製鉄工場もあり、日本軍への武器の供給源となっているはずなのに…。我らよりも先に連合軍のどこかの国が、攻撃を仕掛けたのか…。跡形も無いように、これだけ街が焼けていれば、攻撃を仕掛ける必要は無さそうだな。撤退するか。

 飛行機の音がひときわ高くなった後、東の空に向かって、飛行音が消え去っていく。

 小暗転

最終章  末・來

 薄く焼けこげた煙が立ち昇っている。

 三々五々、街の人たちが巽山に集まってくる。

 山瀬が澪を抱えて、現れる。

澪 店が店が…。

山瀬 仕方ないだろう。

澪 でも、おばあちゃんがあそこまで大きくした店が…。

 バチ子が、現れる。

バチ子 がんばっても、がんばっても、また元に戻るんだね。あたしたち、何やってるんだろう。

 嵯峨が、長内家のおばあちゃんを抱えて現れる。そこへ、下舘も現れる。

下舘 嵯峨さん。無事でしたか。

嵯峨 えぇ。ゆりちゃんも無事でよかった。

下舘 支店長さんが…。

嵯峨 ゆりちゃん。支店長さん見かけた。

下舘 いえ。私が銀行を出た後すぐ、銀行も火に包まれちゃって…。

嵯峨 みんな燃えたんだ。

下舘 火が消えた後、行ってみたんですけど、防火金庫だけは残ってました。外からも見えました。

嵯峨 支店長さんが、大切なものは全部しまってくれたに違いないね。

下舘 そうね。

 節子を背負った敏朗が現れる。そこへ、母、登場。二人の前にへたり込む。

敏朗 何やってたんだ。

ハルエ すみません。おばさん家の火を消そうとしていたんです。

敏朗 自分の家が燃えているのにか…。

ハルエ すみません。

節子 おとうちゃん。母ちゃんを責めないで…。

ハルエ 節子…。

敏朗 …そうだな。俺も節子の傍にいてあげられなかったのだから、母ちゃんも責められない。

ハルエ 節子、ごめんよ、ごめんよ。

節子 私ね。家は無くなっちゃったけど、なんだか雲が晴れた気分。

ハルエ えっ。

節子 お父ちゃんが、『家で一番大事なものっていったら、節子だけだ。』って、言ってくれたの。もう、それで十分。何にもいらない。

ハルエ 節子…。

 沢里親子の様子を見ていた山瀬がポツリとつぶやく。

山瀬 大事なものか…。

澪 みんな焼けちゃったね。

山瀬 あぁ。

澪 私も、みんな焼けて、本当に大事なものは何かがわかった気がする。

山瀬 俺もだ。

澪 …生きて帰ってきて。

山瀬 あぁ。生きて、生きて生き抜いてやる。まだまだやらなきゃならないことがたくさんある。

バチ子 そうだよ。落ち込んでいる場合じゃないよ。街をもう一度みんなで元気にするんだ。街を建て直して、秋には祭りも始めるよ。

澪 そんときゃぁ、姉さん威勢よく、太鼓たたいて頂戴ね。

バチ子 まかしときな!

 敏朗、焼け焦げた桜の木を見やる。

節子 桜の花も木も、火事でみんな焼け焦げちゃったね。

敏朗 この桜、綺麗に咲くようになるかな。

ハルエ  来年は無理でしょうね。

バチ子 でも、この桜は死んじゃぁいない。きっと、いつの日か綺麗な花をまた咲かせてくれるよ。

山瀬  それまで、俺も生きていなきゃ。

澪  生きているわ。

ハルエ 生きましょうよ。巽山が、満開の桜で覆われるその日まで…。

敏朗 死んでいった人たちの分までもな。

全員 あぁ。

 巽山が夕焼けの紅色に染まってくる。辛い過去を乗り越えて、新しい未来に希望を持ちながら、街の人々が立ち尽く姿がシルエットになりながら、場面は溶けてゆく。

 終   幕