第十二章 想い
場面は変わって節子の家。節子が、そわそわしながらも、座って母の帰りを待っている。
節子 おかあちゃん、帰ってこないなぁ。大丈夫かなぁ。
節子、ふと奥の座敷が明るいことに気がついて、ずるずる体を引きずって、奥の座敷を見に行く。
パチパチと、火のはぜる音が聞こえる。
節子 あれっ、家も燃えてる。おかあちゃん!。おかあちゃん!。
みるみる、周りが赤々と燃え出す。
節子 おかあちゃん!
節子 …もしかして、足の悪い、役立たずの子だから、ここに置いてきぼりにされたのかな。
私、歩けないけど、まだしたいことがいっぱいあるよ。おかあちゃん!おかあちゃん!
節子、取り乱してわめき散らしている。
そこへ、父が現れる。
父 節子!
節子 お父ちゃん!
父 大丈夫だ心配するな。
節子 家も、裏が燃えてるよ!
父 何!
父、裏の様子をチラッと見る。
父 母ちゃんは!
節子 おばちゃんちに行った。
父 何やってんだ!節子を置いて!
節子 私、役立たずだから、ここで焼かれて死んじゃうんだと思ってた。
父 何、馬鹿なこと言ってるんだ!ほら、来い!
父は、背中を節子の方に向ける。
節子、父の背中にしがみつく。
節子 大事なもの持たなくていいの?
父 家で一番大事なものっていったら、節子だけだ。節子が生きていれば、もう、何が焼けてしまっても、構いやしない。
節子 お父ちゃん…。
父 走るぞ。しっかりつかまってろ。
節子 うん。
シルエットになった節子を背負った父が、走り出す。
暗 転