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ミステリ感想-『ネクスト・ギグ』鵜林伸也

2019年01月20日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ライブ中の衆人監視下でメンバーを殺害されたロックバンド「赤い青」は活動休止を余儀なくされる。
事件直前、カリスマ的ギタリストはなぜミスをしたのか? 殺されたメンバーが口にしていた「ロックとは何か?」という問いの意味は?

2018年このミス15位


~感想~
ライブハウスの日常と、ライブ中に起こった衆人環視下の密室殺人、終始問いかけられる「ロックとは何か」という命題。氷川透あたりに書かせたら難解すぎて爆死確実だが、これが長編デビュー作にも関わらず、作者はいたって正統派の端正な本格ミステリに仕上げて見せた。
大半の読者には見慣れないライブハウスの日常と「ロックとは何か」という重すぎる題材を扱いながら、物語は一貫して地味に地道に関係者への聴取を続け、要所要所で新事実が小出しにされ、中盤で新たな事件が勃発し、意外な探偵役と意外な真相が現れる、きわめて普通のミステリなのがまず面白い。
それに加えて、音楽知識に疎い読者にも全く問題なく理解させられるほど、極めて平易な言葉で「ロックとは何か」を問いかけ、本作ならではの答えを出し、そしてそれが物語と本格ミステリとしての真相に密接に絡んでいるのだから素晴らしい。
これほどまでわかりやすくロックを語った文章を自分は他に知らない。物語は悲惨な末路をたどりながら、希望を感じさせる結末も文句無し。これが実質デビュー作だというのだから空恐ろしくなる。
評判を信じて買って良かったと心の底から思える、噂通りの傑作だった。


19.1.19
評価:★★★★ 8
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