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ミステリ感想-『元年春之祭』陸秋槎

2019年01月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
前漢時代の中国。かつて国の祭祀を担った観家は、春の祭儀を準備していた。
古礼を学ぶため賓客として滞在していた、博覧強記の少女・於陵葵の前で連続殺人事件の幕が開く。
度重なる事件は、四年前の前当主一家殺害と関わりがあるのか?

2018年このミス(海外)4位


~感想~
面白かったかどうかで言えば全く面白くなかったのだが、あとがきや2度に渡る読者への挑戦状からほとばしる本格ミステリ愛には好感しか持てない。

まずは良い点から。日本語で本格ミステリを読むほどのマニアである作者が、雰囲気を損なってでもフェアプレイを重視した読者への挑戦状を、それも2回も挟むという心意気を大いに買いたい。
翻訳も問題なく、漢文とその解釈や新説が山のように出てくるものの、日本語的におかしいところは全く無い。このあたり同じ漢字文化圏で、千年以上にわたり翻訳し続けて来た蓄積を感じさせる。
ミステリとしてはフェアプレイはもちろんのこと、目新しいものこそ無いがトリックと伏線は十分で、そこに前漢時代ならではの、しかし現代ミステリ的でもある動機を絡めたのはお見事。ただ動機の伏線は大半の人が読み飛ばすだろう漢文講釈パートに多く含まれており、明かされても驚けないのは残念。

その衒学要素の濃さがネックで、たとえば儒家の基礎的な説明も抜きに「論語」やら「礼記」から引用しまくり、地名か人名かもわからないような固有名詞が乱発される。
自分は三国志ファン歴30年近いので多少の知識はあるが、それでも漢文講釈パートはさわりを理解するのが限界で、まれに面白く読める部分もあったが、ほとんど死んだ目で読み飛ばした次第である。

だがそれは本作にとって個性に過ぎず、悪い点は全部が全部、傲慢でドSで人の心を持たず、偉そうに語る野心が400年前にインドで達成されてるこっ恥ずかしいクソ女の主人公・於陵葵に尽きる。
このクソ女にもう少しでも愛嬌があったり、それこそ作者が愛読している某作のクソ女のように最後の最後で正体を現すとかならまだしも、終始クソ女なので全く好意が抱けない。そして困ったことに相棒を務めるワトソンの観露申が勝るとも劣らないクソ女で、探偵の方のクソ女と比べて常識人を自負するが、その実は知識も向上心も無いのにやたら探偵の方のクソ女を罵る語彙だけは豊富で、まるで読者の代弁者のように振る舞うが、お前も作中の行動といい言動といい大概だぞと読者に憎まれること請け合いなのが厳しい。
ミステリとして楽しむより先に、この二人のクソ女が読書自体を阻んでいるのが最大のネックである。

ラノベかソシャゲばりに美少女ばかり登場し、多くの百合要素も網羅されるが、だいたいの女性間で物理的にも精神的にもバチバチとしばき合うので、百合というかSMに近く、百合好きにも楽しめるのかどうか。
どうしてこんな人物造型になってしまったのかは甚だ疑問だが、もう少しおとなしいキャラが登場するなら、ぜひまた別作品も読んでみたいと思えるほどに、本格ミステリ愛の溢れた作品ではある。


19.1.13
評価:★★☆ 5
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