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小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『五声のリチェルカーレ』深水黎一郎

2010年02月03日 | ミステリ感想
~あらすじ~
昆虫好きのおとなしい少年による殺人。その少年はなぜか動機だけは黙して語らない。
家裁調査官の森本が接見から得たのは「生きていたから殺した」という謎の言葉だった。無差別殺人の告白なのか、それとも……。
短編「シンリガクの実験」を併録。


~感想~
衒学を煙幕に、一筋縄では行かないド本格をものす曲者の作者にしては、明快な結末を迎える。もっともこれまでの作品も難解に見えて、終わってみれば端正なミステリばかりだったのだが、今回は特に物語の筋のわかりやすさを重視したようで、すいすいと読み進められる。
とはいえただでは済まさないのがこの作者、タイトル通りに事件を構成するいくつもの要素が重低音として絡まりあい、しかし「五声」として響くのは読者の耳にだけという趣向が実に面白い。
と、賞賛ばかりしてみたが腑に落ちない点もいくつかあり、たとえば結果としていろいろ仕掛けて騙してはみたけれど、これってどっちでもいいんじゃないの? と思えてしまう犯人。
「聞き手のレベルを素早く察知して、そのレベルにぴったり合った話し方を瞬時に選択できる」ほどの頭脳明晰なはずの少年の、神の視点を持つ読者にしか意味の通じない供述。
どちらもトリックのためのトリックという感じで、明快な物語に釈然としない翳を落としてしまっているのが惜しい気がしてならない。

なお併録された短編は筋といい、つかみのネタが表題作の使いまわしというやっつけ具合といい、特にどうということもない話なのであえて触れないこととする。


10.2.2
評価:★★★ 6
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