内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

言語宇宙への旅の案内人兼添乗員としての教師(下)

2021-09-28 16:07:34 | 講義の余白から

 辞書レベル・通時的レベルの次のステップとして、実際の使用例を比較する文脈レベルに移行する。最初は、同じ著者の同じ文脈における使い分けに注意する。同じ著者でも、文脈によって同一の語を微妙に異なった意味で使うこともあるからだ。
 もちろん、同一の一人の著者の使用例だけから意味の差異を確定することはできない。そこで複数の著者の使用例を比較してみる。これが使用者レベルの作業である。
 この比較を可能にする前提条件として、当然のこととして、用例採集作業がある。これは急にはできない。短時日では重大な遺漏を免れがたい。したがって、このコーパス作成作業は、普段から心がけて地道に進めておかないといけない。コンピューターおよびインターネットがこの作業に必要な時間を大幅に短縮し、かつ精度を上げてくれたことは言うまでもない。
 ここまで来ると、かなり精妙な区別が可能になる。だが、結局よくわからないという結論に至らざるを得ないときもある。言語に関わる事象については、すべてが明晰判明に説明できるとは限らない。
 さらに考察を深めるためには、異言語間の同意語あるいは対応語とされるもの(そもそもそれはありえないという議論はさしあたり措く)・類義語へと探索の範囲を広げる。前段階までの単一言語内の考察でもすでに相当時間がかかっているから、ここまで来ると、問題となる言葉にもよるが、探索活動は数週間から数ヶ月に及ぶこともある。対象となる語が基礎語になればなるほど、その語の歴史が長ければ長いほど、探索には時間がかかる。
 現実的には、授業の必要に応じて、その都度適当なところで手を打つ。しかし、探索そのものは果てしなく続く。それは、まさに、言語宇宙の中で、共時的には大陸間を駆け巡り、通時的には二、三千年を縦横に遊行し続ける終わりなき旅である。授業は、その旅行日誌の一部紹介であり、言語宇宙への旅への招待状であり、探索旅行の実習である。その実習での私の役割は、その旅行の案内人兼添乗員である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿