内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

学生諸君、おみそれいたしました(平身低頭の巻)

2022-09-21 23:59:59 | 講義の余白から

 今日は修士一年の演習の第二回目だった。先週出した課題は、中井正一の『美学入門』を読んでの第一印象をフランス語と日本語で自由に発表する準備をして来ることだった。それは彼らが本書に対してまずどんな反応を示すのか知るためであったが、感想の中味に関しては、正直言うと、あまり期待していなかった。
 というのも、一般に日本学科で哲学的な関心を示す学生は少ないからだ。今年の修士一年の十名の学生のうち八名は去年学部三年生で授業を受け持っていたから、彼らの関心の所在と日本語のレベルは把握している。大森荘蔵について学部卒業小論文を書き、修士でも引き続き私の指導で大森について修士論文を書くつもりの学年最優秀の女子学生を例外として、みな哲学的な関心は薄いことわかっていた。夏休み中に『美学入門』を読んでおくように七月半ばにメールで伝えてはおいたが、ほんとうに読むとは思っていなかった。
 ところが、今日の彼らの発表を聴いて、私のこの悲観的な予想は完全に間違っていたことがわかった(学生諸君、ゴメンナサイ)。なんとほぼ全員が夏休み中に全部読み終えていたのである。しかも、仏訳に頼らずに日本語原文で読み上げた学生が半数以上、中には読了後に仏訳と比較し、日本語原文の方が読みやすいと言う学生までいた。もっと驚いたのは、全員それぞれに異なった論点を指摘してくれて、そのいずれもが今後演習でさらに展開するに値する問題提起になっており、日仏合同チームでの最終発表テーマをこれかから日本人学生たちと一緒に考え、絞り込んでいくのにすでに十分な準備ができていることだった。
 彼らの感想を聴いていてわかったことは、ここまで彼ら(男子二名、女子八名)を読み込む気にさせたのは、まさに中井の文章そのものの力だということだった。それはただわかりやすい文章だということではない。取り上げられている問題は多岐にわたり、なかには難しい問題もあるのに、読み手の理解を助ける具体例に富み、それを手がかりとして自分の経験に照らし合わせて読み手に考えさせるように書かれており、結果、中井の所説に啓発されるところや共感するところもあれば、逆に納得できないところ、反発するところもあるが、そうなるのは、それだけ読み手が中井の議論の中に入り込んで読んでいる証にほかならない。学生たちの発表はまさにそれを証していた。
 いやぁ~、学生諸君、おみそれいたしました。脱帽です。当方は不明を恥じるほかありません。
 来週火曜日は日本の学生たちとの第一回目の合同遠隔ゼミである。こちらの学生が三グループに分かれて日本語で発表することから始まる。その準備も彼らに任せておいて心配ないだろう。ゼミは午前六時十分から七時五十分までの百分間。守ってほしいことは、寝坊しないこと、そして、服装はちゃんとすること(パジャマ姿はダメ)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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