内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

新渡戸稲造『武士道』を現代グローバル社会の中で読み直す

2021-02-23 13:44:40 | 雑感

 先週土曜日、ストラスブールと日本をZOOMで繋いで、『現代思想』一月号に寄稿した拙論の合評会を三人の方に開いていただきました。さまざまに貴重なご意見をいただくことができ幸いでした。皆様、ありがとうございました。と同時に、黄昏ゆく老生の身、これでもう何度目でしょうか、「日暮れて途遠し」とひしひしと感じざるを得なかったことも事実でした。
 合評会といっても、それ以外の話題の雑談の方が長かったのですが、それはそれでとても楽しい会でした。こちらの時間で午後一 時(日本時間で午後九時)開始、お開きになったのは午後六時半(同午前二時半)。皆様、お疲れ様でした。
 その席で、別件としてお三方にお願いしたことが一つありました。それは、来年度の日仏合同ゼミの課題図書についての助言です。というのも、来年度で本ゼミ担当八年目になるのですが、正直、課題図書が種切れになってきていたからです。おかげさまで、私ひとりでは気づけないことをさまざまに示唆していただいてとても参考になりました。図書の選択のみならず、合同ゼミのやり方についてもヒントをいただけたことも幸いでした。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。
 その後、おおげさでなく丸一日あれこれ選択に迷った挙句、ようやく決定いたしました。まだ相方のA先生のご承認を得なければ最終決定とはなりませんが、新渡戸稲造の『武士道』を選びました。次点は岡倉天心『茶の本』、第三候補は九鬼周造『「いき」の構造』です。
 『武士道』を選んだ理由は複数あります。それらをここで完全に網羅的に紹介することはできませんが、思いつくままに列挙すれば、以下の通りです。
 まず、故山本博文氏が『現代語訳 武士道』(ちくま新書 2010年)の解説で述べているように、「日本文化論の嚆矢」、「日本的思考の枠組みを外国人に示した優れた日本文化論」「日本人が初めて自分で日本文化の特質を意識化した記念碑的作品」という歴史的価値があること。次に、「欧米流のグローバル・スタンダードへの根源的な批判が含まれていること」(同解説より)。さらに、本書の随所に見られる欧米思想家たちから引用は、比較論的アプローチを可能にし、新渡戸が武士道に託した倫理観をグローバルな観点から検討できること。特に、古代ストア派及び中世騎士道との比較は、倫理に関する問題の普遍化の一つの手がかりになること。本書第十四章「女性の教育と地位」に見られる女性観を批判的に検討することを通じて、現代の女性論を見直す一つの観点が得られること。そして、『武士道』出版以後の新渡戸の三十数年の生涯を視野に入れて『武士道』を読み直すことで、国際平和と女性の社会的地位の向上などのより現代的課題との関連で本書を再評価することも可能になることも選択理由の一つとして書き留めておきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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