内的自己対話-川の畔のささめごと

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唐木順三『無常』再読 ― 学生たちとの「会読」を通じて

2019-02-16 15:14:17 | 講義の余白から

 修士一年後期の演習「近現代思想」でどのテキストを講読するか、散々に迷った挙げ句、三年前にも一度取り上げたことがある唐木順三の『無常』に決めた。この選択には、私が指導教官である学生のうちの一人が『蜻蛉日記』を、もう一人が時枝誠記の言語過程説を修論のテーマにしているから、その学生たちに特に講読のリーダーシップを取らせるという目論見も働いている。しかし、なによりも、この名著の読解を通じて、日本の古典文学の世界に分け入りつつ、日本思想史を古代から現代まで通観するための一つの観点を学生たちに捉えてほしいというのが主たる選択理由である。
 一昨日木曜日に、修士一年十三名全員に、ちくま学芸文庫の電子書籍版の『無常』を各自購入しておくように指示した。9ユーロ程度だから、皆了承してくれた、と思う。少なくとも拒否した学生はいなかった。紙の書籍版が安く入手できればそれにこしたことはないのだが、現在入手可能な新本は、中公選書の『唐木順三ライブラリーIII 中世の文学 無常』だけであり、これは三千円以上する。さすがにこれを買えとは学生に言えない。
 過去には、文庫版や新書版で入手可能なテキストを使ってきた。なぜコピーを使わないかというと、著作権の問題というよりも、学生に一冊の本を読むという経験をさせたいからだ。それによって得られる達成感はコピーでは得られない。電子書籍をテキストとするのは今回がはじめてだが、これはこれで利点がある。マーカー・コメント・検索機能を活用できることである。
 残念ながら演習の枠だけで一冊全部読み上げる時間はないが、学生たち自身にその気があれば、いつでも読解は継続できる。これから八回の「会読」を通じて、学生たちがその先を自力で読んでみたいと思うようになるような演習にしたい。












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