内的自己対話-川の畔のささめごと

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レヴィ・ブリュール『原始的心性』を読む(17)― フッサールからの手紙

2015-06-22 13:41:14 | 読游摘録

 同時代の哲学における『原始的心性』のもう一つの受容は、ドイツからやってきた、現象学における受容である。レヴィ・ブリュールの人類学的研究は、知覚によって発生させられた原初的綜合の中に論理の諸形態を位置づけようとする「厳密科学」としての現象学の探究と交叉する。
 フッサールは、レヴィ・ブリュールに1935年3月11日付で、後に有名になる手紙を送っている。その手紙の中で、フッサールは、レヴィ・ブリュールが、一つの溌剌とした生成しつつある社会の中に、しかしそこに閉ざされたままで生きている人類(の一部)を、その「内側から感じること」(Einfühlen)」に成功していることを賞賛している。それはちょうど、後に未完の遺稿として1954年に出版される『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』の中で展開されている「生活世界」(Lebenswelt)についての分析をフッサールが準備している時期と重なる。
 かたやレヴィ・ブリュールは、当時自身が編集主幹であった Revue philosophique に、若きレヴィナスによるフランスにおける初期の現象学研究論文二本、« Martin Heidegger et l’ontologie » (1932) と « L’œuvre d’Edmund Husserl » (1940) を掲載している(このニ論文は、後に En découvrant l’existence avec Husserl et Heidegger に収録される)。
 そのレヴィナスは、1957年に、Revue philosophique がレヴィ・ブリュール没後二十年を記念する特集号に、« Lévi-Bruhl et la philosophie contemporaine » と題されたエッセイを寄せている。その中で、レヴィナスは、主体の形成に先立つ感情的綜合(« synthèses affectives antérieure à la formation d’un sujet »)の記述に成功している点において、レヴィ・ブリュールの思想は、「表象の崩壊」(« ruine de la représentation »)と呼ばれる同時代の運動に寄与していると評価している。
 フッサール以後、現象学において、レヴィ・ブリュールの原始的心性の分析は、厳密科学の観点からではなく、道徳の形成という観点から読まれるようになる。言い換えれば、その分析は、一つの心理学的アプローチとしてではなく、存在論的アプローチとして解釈されるようになる。
 サルトルは、「分有(融即)」というレヴィ・ブリュールの術語を取り上げ直しながら、未開民族の魔術的意識を自由の疎外形態の一つとして記述している。なぜなら、サルトルによれば、そのような意識は、本来主体に属する責任性を世界の諸事物に帰しているからである(Esquisse d’une théorie des émotions et Cahiers pour une morale)。
 原始的心性とハイデガーの「死への存在」との比較は、ミケル・デュフレンヌ(Mikel Dufrenne)の一つの論文の中心的なテーマになっているが、このアプローチは、人格の諸形態の記述に重きをおく現象学への可能性を開いている(« La mentalité primitive et Heidegger », Les Études philosophiques, 1954)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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