内的自己対話-川の畔のささめごと

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新渡戸稲造『武士道』読解演習の余得

2021-09-22 23:59:59 | 講義の余白から

 今日の演習から新渡戸稲造『武士道』についての学生たちの発表が始まった。先週までの二回で、新渡戸の生涯と思想、『武士道』についての評価の変遷についての解説を私が担当し、『武士道』の初版への序文と第一章 Bushido as an ethical System と第二章 Source of Bushido を学生たちと一緒に読んだ。今日からは、学生たちが自分で選んだ章について順に内容を紹介し、それに対する質疑応答という形で演習を進めていく。一回に三章読む。今日は第三章から第五章まで読んだ。学生たちには必ずスライドを用意し、わかりやすく内容を説明することを求めた。今日発表した三人のうち、最初の二人はよく準備してあり、要点を押さえたよい発表だった。最後の一人はやや冗長で、要点もよく捉えられていなかった。分量的に他の二章より多かったこともあり、よく消化できていなかった。
 各発表と質疑応答の後、私が補足説明を加える。学生たちは英語原文と仏訳を主に読んでいるので、テーマとされている概念の日本語訳や漢語の語義の説明、新渡戸が出典を示さずに引用している西洋の著作家たちの作品の書誌的情報や発展学習のための参考文献の紹介などがその主な役割である。
 新渡戸は、古今東西の文献を縦横無尽に引用しているが、ほとんど出典を示していない。最新の仏訳はかなり丁寧に出典調査を行っており、脚注にそれが示されていて便利だ。とはいえ、新渡戸は自分の立論のために著作家たちの文言を援用しているだけであり、中には牽強付会の誹りを免れがたい例もあり、それらの出典に当たって調べたからといって『武士道』の内容がよりよく理解できるわけでは必ずしももない。
 ただ、例えば、第四章でのプラトンの『プロタゴラス』からの真の勇気の定義やニーチェ『ツァラトゥストラはかく語りき』からの「お前の敵を誇りとせよ」の引用などは、『武士道』の論脈を離れて、それ自体としてとても興味深い。この演習の枠内でそれらの作品に深入りはできないが、それらを読み直すきっかけを与えられるのもの『武士道』読解演習の余得のひとつだと私は思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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