内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

北墓地 ― 死者たちは争わず、そこにいつまでも眠っているだけだ

2024-05-27 16:21:55 | 雑感

 自宅から北に直線距離にして三百メートル足らずのところに Cimetière Nord という南北に縦長の18ヘクタールほどの墓地がある。日中は一般に開放されており、その中心部のフランス式庭園を自由に散策することができる。自転車での乗り入れもペットの持ち込みも禁止されている。職員たちによってよく手入れされている園内は穏やかな静けさがいつも領している。
 ストラスブール市最大の墓地だが、万聖節などの特別な日以外には、墓参で訪れる人をまばらに見かける程度である。園内のチャペルで葬儀が行われる日には多数の参会者を見かけることもある。墓参目的ではなく園内を散策している人やベンチに座って瞑想しているかのような人も時々見かける。
 ほぼ毎日、ジョギングの行きか帰りに、あるいは行き帰りともに、園内を通過する。ときには庭園を周回することもあるが、庭園周囲の歩道は舗装されていない部分が多くて走るのに快適とは言えない。園内でジョギングしている人に出会ったことがないから、もしかすると私だけかもしれない。でも、ジョギング禁止とはどこにも書いてない。個々の墓の敷地内に入り込むわけではないから不謹慎ではないと思う。
 縁故者や友人や知人がこの霊園内に眠っているわけではない。私はまったくの余所者だ。だから何も感じないというのではない。むしろ不思議な安心感をおぼえる。死者たちは争わず、そこにいつまでも眠っているだけだからだろう。