エミリー・ディキンソンの詩の仏訳者として知られた Claire Malroux の Chambre avec vue sur l’éternité. Emily Dickinson, Gallimard, 2005 はとても野心的かつ魅力的な作品だ。
ディキンソンの生涯と詩作品について著者として第一人称で語っているという点では伝記的あるいは評伝的要素をもった作品だと言えるが、ディキンソンに成り代わって彼女の〈声〉で、つまりエミリーが一人称で心情を語っている短い章節が伝記的短章と交互に出て来るから、いくら史実と第一次資料に基づいているとはいえ、それらの箇所については著者の想像力が生み出したフィクションだと言わざるをえない。
しかも、生涯のある出来事についてその当時のエミリーの立場に身を置きながらも、その時点では知る由もなかったそれ以降の成り行きもすでに知っている者としてエミリーが語っている箇所もある。つまり、エミリー自身が二重化され、未来の自分が過去の自分を突き離して捉え直すという構えの章節もある。
読者はこれら質を異にしたテキスト間を経巡ることでエミリー・ディキンソンという詩的世界の内奥へと招かれる。