内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

従うべきモデルなき困難な時代に生きる学生たちへの老いぼれ教員からの拙きメッセージ

2017-04-06 20:25:07 | 講義の余白から

 今日は修士課程の今年度の最後の演習だった。
 来週は個別口頭試問である。日本語でのプレゼンが課題。採点基準はめちゃくちゃ厳しいぜって、学生たちをさんざん脅しておいた。プレゼンの際、テキストは目の前に置いてもいいけれど、それを読んだら10点満点でせいぜい3点どまり。ときどき見ながらなら5点まではいけるかも。メモだけで発表すれば、6点はあげるよ。メモだけで上手にできれば7点までは期待してもいい。それ以上は、プレゼン後の私の質問にどれだけ答えられるかにかかっているね。10点満点というのはありえないけど、9.5まではありかなぁって言ったら、それが取れそうな優秀な女子学生二人が嬉しそうに笑ってた。
 復活祭の休暇明けの今月末には筆記試験を残すのみ。試験課題はその趣旨説明とともに今日もう与えておいた。その課題とは、「現代世界における創造と模倣の関係、あるいは美の複製技術とメディアの機能について」。この課題に答えるために必ず参照すべきテキストとして中井正一のエッセイ「うつす」も配布した。このテキストを読んだ上で、課題について三週間じっくり考えて答案を準備してほしいからである。
 演習の終わりに、あと半月余り後迫っているフランス大統領選挙のことをちょっと話題にした。
 フランスの大統領選は国民の直接投票で決まる。私はフランス国家公務員だが、日本国籍であり、投票権はない。だから、成行きを見守ることしかできない。それに、国立大学の授業の枠内で現実政治について党派的に論じることは厳に慎むべきことでもある(それを守らない教員たちもフランスにはいるようだが)。そもそも私にはどのような党派にも与する理由がない。「それは、あなたたちの問題でしょ」というのが私の「営業方針」であるから。
 学生たちには、だた単純に(じゃないかもしれないけど、ほんとうは)、およそ次のようなことを、フランス語と日本語をわざとチャンポンにして、まくし立てた(正直に言うと、実際は言わなかったことも含めて、かなり脚色されています、願いを込めて)。
 「君たち、23日日曜日にはちゃんと考えて投票してくれますよね。フランスの未来、ヨーロッパの未来は若き君たちの判断にかかっていることはもちろんわかっているよね。頭が硬直化して自分たちの既得利権しか眼中にない精神的年寄り連中たちに君たちの未来を託すことはできない。彼らにはもう何を言っても無駄だよ。彼らにはさっさとお引き取り願うことしかできないが、そういう連中にかぎって長生きなんだよね。デカルト(心身二元論の元凶だとか、そのテキストをろくに読みもしないで批判されることが多いけれど、そのような太鼓持ち的「進歩派」が幅をきかせていることも現代フランス国家の精神病理の深刻さの指標でしかない)がすべての人に最も公平に配分されていると言った良識に基づいて君たちが行動することを心から期待しています。選挙の結果によっては、私は直ちに日本に帰るかもしれないよ。それくらい、今のフラランス、そしてヨーロッパの事態は深刻なことを自覚してくれると嬉しい。」
 このような話をした後で、日本もきわめて危うい橋を渡りつつあることはもちろん説明した。今の世界には、それに従えばいいようなモデルはもうどこにもない。それだけ困難な時代に学生たちは生きている(学生たちだけじゃなくて、私たちもだけれど、残り時間が少ない分、こっちのほうがちょっと楽かも、なんてね)。諸国「幸福度ランキング」などというくだらない本がやたらに売れたりするのもそのような困難の裏返しに過ぎない。他者の苦しみに目をつぶって、ケ・セ・ラ・セラ、そりゃぁ、「幸せ」になれるでしょうよ。
 多大な困難を抱えた時代に生きているにもかかわらず、敢然と未来に投企していく君たちのプレゼンを来週聴くことを心から楽しみにしています。