今日の記事のタイトルに掲げた曲は、今週のヘビーローテ―ションです。
ドメニコ・スカルラッティは、J.S.バッハ、ヘンデルと同年の1685年、イタリアのナポリに生まれ、1757年にスペインのマドリードで没します。父親はナポリ楽派の創始者として重要視される作曲家であるアレッサンドロ・スカルラッティ(1660-1725)。500余曲を数える「ソナタ」は後半生、ポルトガル王女マリア=バルバラ(後にスペイン王妃)の教育目的で作曲された練習曲。急速な同音連打や大きな跳躍進行など、当時としては極めて斬新な鍵盤音楽の演奏技巧を開発したと評価されています(でも、私自身はそいういう躍動感の溢れる斬新な曲はどちらかというと苦手です)。スカルラッティの「ソナタ」は、主にチェンバロで弾かれることを想定して作られたものですが、現代ではピアノで演奏されることのほうが圧倒的に多いようですね。ほとんどが単一楽章で、文学作品に喩えれば、掌小説のような短い曲がほとんど。
普段はあまり好んで聴く作曲家というわけではないのですけれど、今日、明日明後日の授業の準備をしているときに、仕事に集中するのに好適な曲ばかりを集めたというコンピレーション・アルバムをアップル・ミュージックの音源からのストリーミングでBGMにしていたら、今日の記事のタイトルに掲げた曲が流れてきたのです。演奏は、フランス人ピアニスト、アレクサンドル・タロー。演奏時間は四分ちょっと。
出だしが聞こえてきたとき、「ああ、この曲だったのか」と思わず独りごちてしまいました。というのは、大好きなドラマシリーズ『深夜食堂』の第四部(NETFLIXオリジナル配信)の第一話「タンメン」のエンディングにこの曲が流れてきて、話の内容と実によく調和していて、とてもしみじみとした印象が残り、誰の曲なのだろうかと少し探してみたことがあるのですが、そのときは特定できなかったのです。
さっそくアップル・ミュージックの音源で同曲を検索したら、ピアノとチェンバロの演奏がたくさんヒットしました。チェンバロのほうはフランス人演奏家のピエール・アンタイを聴いてみました。もちろん良い演奏なのですが、ちょっと自分が聴きたいと思っていた演奏とは違いました。いきなり聴いたタローの演奏も悪くはなかったのですが、どうもなぜだか私はこのピアニストの演奏が苦手で、他の演奏(特にショパン)はとても繰り返し聴く気になれないのです。
手当たり次第に聴いた中では、Yevgeny Subin、Anastasya Terenkova、Racha Arodaky の三人の演奏が気に入りました。いずれも未知のピアニストたちです。アンドラーシュ・シフの演奏はちょっと期待はずれ。大のお気に入りのピアニスト、アンヌ・ケフェレックの演奏は見つかりませんでした。チェンバロ演奏では、Nicolau De Figueiredo のそれが気に入りました。ストリングスをバックにジャズ風にアレンジした Nicola Andrioli のピアノ演奏もおシャレで悪くありませんね。ギターによる演奏もあります。例えば、Pascal Boëls や Gabriel Bianco とか。
というわけで、さっきからあれこれの演奏で同曲を二十回ほど繰り返し聴いていますが、聴けば聴くほど心に染みてきます。かくして、「私の好きな曲」のリストに数ヶ月振りに「新しい」曲が加わりました。