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チャートは語る
眠る飛行機8600機 リースや製造へ危機連鎖警戒
新型コロナウイルスの感染拡大で渡航制限が続くなか、
世界の飛行機の3分の1、8600機は休暇シーズンの8月に入っても地上に留め置かれている。
需要拡大を前提に投資してきたリース産業や金融商品もリスクにさらされ、
新造機はキャンセルが相次ぐ。関連産業に及び始めた危機は連鎖するのか。
米南西部ニューメキシコ州の砂漠の中、ロズウェル国際航空センター。
空軍基地だったこの空港は、世界に数カ所ある「ボーンヤード(墓場)」の一つ。
乾燥して機体やがさびにくく、駐機代も1日10~14ドル(約1050~1470円)と格安。
飛行機の保管に最適で解体や部品取りを待つ退役機のほか、当面運航の予定が無く、長期保管される機体が並ぶ。
新型コロナウイルスの影響で飛べない飛行機が駐機する「ボーンヤード(墓場)」(6月、アリゾナ州のピナル空港)=AP
英航空分析会社シリウムによるとその数は18日時点で382機と、年初の103機から大幅に増えた。
米航空会社などが米ボーイングの小型機「737」や大型機「777」を持ち込んでいる。
世界の航空会社は新型コロナで大幅な減便を余儀なくされ、
抱える機体を使い切れずに空港やボーンヤードで保管する。
シリウムの集計ではこうした
「飛べない飛行機」は8月中旬でも世界に8600機あまりと、全機体の約32%を占める。
2001年の米同時テロや08年のリーマン・ショックの後も、これほど大規模で長期の駐機はなかった。
飛べない飛行機の資産価値は、総額で20兆円規模との見方もある。需要の回復は鈍い。
英航空情報会社のOAGによると、域内移動が緩和された欧州でも8月第3週の国際便は前年比で6割減。
夏の需要期でこの水準だ。
独ルフトハンザのカールステン・シュポア社長は自社の約760機のうち
「22年になっても200機が駐機したままになる」と警戒する。
余剰機材は駐機代や償却、リース料などで業績を圧迫する。
航空会社は人員とともに、機材の削減を急ぐ。
英航空コンサルタントのIBAによると2020年になって破綻した航空会社は34社と、
既に19年の27社を上回り最終的に70社に達するとみる。
影響が避けられないのが航空機リースだ。
航空会社は飛行機が飛べなくても支払う固定費である、リース料の減免を求めている。
飛行機は小型機でも正式価格は1機で100億円を超える。
リース会社は信用力や交渉力に限界がある格安航空会社(LCC)の初期投資を肩代わりして、成長を支えてきた。
今や機体の半分はリース機だ。ある国内リース会社幹部は
「要請してこない航空会社なんて世界中を見回して皆無だ」と嘆き、個別に減免に応じる例もある。
米ゼネラル・エレクトリック(GE)は傘下の航空機リース事業で、
20年4~6月期に約3億ドルの減損を計上した。
航空機リースは一部は金融商品として投資対象になっている。
日本では持ち分を小口化して節税対策として主に企業に販売されており、その額は年間4000億円を超える。
特定の1機ごとに組成され、リース料や転売時の収入となる中古機価格の動向に影響を受けやすい。
ロンドン証券取引所に上場されている欧州エアバスの超大型機「A380」が対象のファンドは、
株価が1年前と比べ半値だ。
既存の機体が飛べない状態なら、新造機の需要は長期で停滞する。
ボーイングとエアバス、航空界などの資料を集計すると、
3月以後の発注取り消しは500機を超え、
正式価格での総額は660億ドル(約6兆9000億円)になる。
大口でキャンセルしているのは、航空市場の成長をけん引してきたリース大手やLCCだ。
中国企業傘下でオリックスも3割出資するアボロン・ホールディングス(アイルランド)は需要停滞を見越し、
2度の墜落事故でコロナ禍前から運航が止められている「737MAX」を中心にキャンセルした。
ボーイングのデビッド・カルホーン最高経営責任者(CEO)は
「旅客需要の回復に3年程度、航空機が成長軌道に戻るにはさらに数年かかる」と予測する。
航空旅客は19年に約45億人と過去20年で3倍に膨らんだ。
拡大を後押ししたのは、世界的な規制緩和や国有企業の民営化による競争促進だった。
だが米シティグループは「世界の長距離航空会社の多くは、
今後数年で段階的な国有化プロセスに入る可能性がある」と分析する。
未曽有の危機は自由経済が積み上げた成果を脅かす。(橋本慎一)
以上