6 解釈の余地のある法律から導かれる法命題
私「ところでさ、処分根拠法に『解釈の余地』がある場合があるだろ。
例えば、公務員の争議行為をあおる行為の処罰規定には、
①悪質なあおりだけが処罰できる、っていう解釈と
②あおり一般を処罰できるっていう解釈があり得ることが知られている。」
ツ「確か、昔の判例は、①だったけど、②に変更されたんだ。」
私「その通り。それでさ、そういう『あおり行為は罰する』っていう法文を
法命題に書き直すとどうなるか分かる?」
ツ「ええと、まずその法文には解釈①と解釈②の二つがある。
単純化のために、その二つの解釈しかないとしよう。
その場合、まず、<悪質なあおり>は、①でも②でも処罰しなくちゃいけない。
だから、まず、この法律からは、
A:悪質なあおり行為は罰しなければならない
という法命題が導かれるね。」
私「その通りだよ。正確だな。じゃ、悪質じゃないあおりの部分はどうなる?
ツ「ええと、<悪質じゃないあおり>は、
解釈①をとれば処罰できないけど、解釈②なら処罰できる。
ということは、その部分の法命題はこうだ。
B:悪質でないあおり行為は、罰してもいいし、罰しなくてもいい。」
私「そういうこと。『あおり行為は罰する』という法文からは、
A:悪質なあおり行為は罰しなければならない
B:悪質でないあおり行為は、罰してもいいし、罰しなくてもいい、
という二つの法命題が導かれる。」
ツ「ああ、なるほど。『解釈の余地がある』っていうことを
法命題の側から言い直すと、
Bみたいな『処分してもいいし、しなくてもいい』という法命題がある、
ってことになるのか。」
このようにツツミ先生は、おやじギャグをほざくものの、
理解力のある法学者である。
私「そういうことだね。あり得る解釈の中から、一つを選ぶって作業は、
結局、そういうBみたいな法命題を前提にしたとき、
処分をするかどうかを、行政機関や裁判所が選択するっていう作業なんだな。」
ツ「Bみたいな、法命題って、何か名前ついてないのか?」
私「そうだな。裁量命題とか許容命題とか、いろいろ呼び方はあるだろうが、
みんながそうよぶっていう通説的名称はしらない。
というか、そんな細かいこと、裁判官や学者でも、あまり意識しないよ。」
ツ「じゃ、Bみたいな法命題を処分許容命題と呼んでおこう。
で、Aみたいなのを処分義務命題って呼ぶのはどうだろう。」
7 処分許容命題の違憲
私「いいんじゃないかな。用語が分かり易ければなんだっていいよ。
ところで、今のケースで、<悪質でないあおり行為>を処罰することが
憲法28条違反だったら、どうなる?」
ツ「・・・。そうだな、Bみたいな命題が違憲無効になるはず。」
私「その通り。じゃあ、命題Bが違憲無効になった場合って、
その法文について、解釈①と解釈②両方可能ってことになるかな?」
ツ「ならんな。悪質なあおりだけを処罰する解釈①しかできないことになる。」
私「それがいわゆる合憲限定解釈だよ。」
ツ「ああ、なるほどね。
その法律に含まれる法命題の合憲性についての判断がまずあって、
処分許容命題が違憲無効になる場合に、
残された解釈のことを、合憲限定解釈っていうのか。」
ツツミ先生は、納得したようであった。
しかし、何かを考えている。
・・・ちょっと怖い。ツツミ先生は、勉強と競馬の話になると、
顔はにこやかだが、目は笑わないという怖い顔になる。
ツ「じゃあ、『この処分をしなければならない』っていう
処分義務命題が無効な場合は、どうなるんだ?」
私「ああ、そりゃ普通の一部無効だよ。
例えば、第三者所有物没収事件の事案の条文見ると、
あの事案で没収を根拠づけない解釈は不可能だった。」
ツ「法命題論的に言うと、法律に
『犯罪の要に供した第三者の所有物は、第三者に手続保障なしに没収しろ』って
いう命題が含まれてるってことだな。」
私「そういうこと。その命題が違憲な場合、
合憲限定解釈じゃなくて、その法命題だけ無効っていう
一部違憲って呼ばれる処理になる。」
ツ「あ、そりゃそうか。
一部違憲は、処分義務命題が違憲
合憲限定解釈は、処分許容命題が違憲っていうことで、
両方とも、法律に含まれる法命題のうち一部を無効にするっていう点では
共通だ、っていうことになる。」
ツツミ先生は、手帳を出すと、次のような図を描きだした。
8 まとめ
法律 「あおり行為は罰する」
→可能な解釈
解釈①:悪質なあおり行為だけは罰する
解釈②:あおり行為一般は罰する
→この法律から導かれる法命題は二つ
命題A:悪質なあおり行為は罰しろ =処分義務命題
命題B:悪質でないあおり行為は
(解釈①を前提に)罰しなくてもいいし
(解釈②を前提に)罰してもいい =処分許容命題
→憲法判断の対象は、法命題。
AもBも違憲 → 法律全体が無効
Bが違憲 → 合憲限定解釈
因みに、命題Aはさらに細分化できる。
命題A-1:政治ストの悪質なあおり行為は罰する。=処分義務命題
A-2:労働ストの悪質なあおり行為は罰する。=処分義務命題
A-2のみが違憲なら、一部違憲の処理。
要するに、
処分許容命題が違憲となる結果、特定の解釈しかできなくなる場合、
その解釈を合憲限定解釈という。
処分義務命題が違憲となる結果、その処分の根拠法がなくなる場合、
一部違憲の処理という。
ツ「うむ。よくまとまった気がする。こういうことだろ。」
私「そだよ。」
ツ「なるほどねぇ。確かに、司法試験なんかでは、あんまり意識されないだろうな。」
私「そうだね。法律から法命題が導かれるっていうことは、
ケルゼンなんかを勉強すると、よくわかるんだ。
たぶん、芦部先生の世代の学者は、当然意識して憲法訴訟論を組み立ててると思うよ。」
ツ「ああ、あれか。その後の世代は、芦部先生は読んでも、ケルゼンは読まないから、
芦部学説の理解のニュアンスが、ずれてくのか。」
こうしてわれわれは横浜駅に着いた。
これで、同僚ともお別れである。
そう思っていると、しかし、ツツミ先生は、さらなるツッコミを入れてきた。
面倒なことじゃのう。
私「ところでさ、処分根拠法に『解釈の余地』がある場合があるだろ。
例えば、公務員の争議行為をあおる行為の処罰規定には、
①悪質なあおりだけが処罰できる、っていう解釈と
②あおり一般を処罰できるっていう解釈があり得ることが知られている。」
ツ「確か、昔の判例は、①だったけど、②に変更されたんだ。」
私「その通り。それでさ、そういう『あおり行為は罰する』っていう法文を
法命題に書き直すとどうなるか分かる?」
ツ「ええと、まずその法文には解釈①と解釈②の二つがある。
単純化のために、その二つの解釈しかないとしよう。
その場合、まず、<悪質なあおり>は、①でも②でも処罰しなくちゃいけない。
だから、まず、この法律からは、
A:悪質なあおり行為は罰しなければならない
という法命題が導かれるね。」
私「その通りだよ。正確だな。じゃ、悪質じゃないあおりの部分はどうなる?
ツ「ええと、<悪質じゃないあおり>は、
解釈①をとれば処罰できないけど、解釈②なら処罰できる。
ということは、その部分の法命題はこうだ。
B:悪質でないあおり行為は、罰してもいいし、罰しなくてもいい。」
私「そういうこと。『あおり行為は罰する』という法文からは、
A:悪質なあおり行為は罰しなければならない
B:悪質でないあおり行為は、罰してもいいし、罰しなくてもいい、
という二つの法命題が導かれる。」
ツ「ああ、なるほど。『解釈の余地がある』っていうことを
法命題の側から言い直すと、
Bみたいな『処分してもいいし、しなくてもいい』という法命題がある、
ってことになるのか。」
このようにツツミ先生は、おやじギャグをほざくものの、
理解力のある法学者である。
私「そういうことだね。あり得る解釈の中から、一つを選ぶって作業は、
結局、そういうBみたいな法命題を前提にしたとき、
処分をするかどうかを、行政機関や裁判所が選択するっていう作業なんだな。」
ツ「Bみたいな、法命題って、何か名前ついてないのか?」
私「そうだな。裁量命題とか許容命題とか、いろいろ呼び方はあるだろうが、
みんながそうよぶっていう通説的名称はしらない。
というか、そんな細かいこと、裁判官や学者でも、あまり意識しないよ。」
ツ「じゃ、Bみたいな法命題を処分許容命題と呼んでおこう。
で、Aみたいなのを処分義務命題って呼ぶのはどうだろう。」
7 処分許容命題の違憲
私「いいんじゃないかな。用語が分かり易ければなんだっていいよ。
ところで、今のケースで、<悪質でないあおり行為>を処罰することが
憲法28条違反だったら、どうなる?」
ツ「・・・。そうだな、Bみたいな命題が違憲無効になるはず。」
私「その通り。じゃあ、命題Bが違憲無効になった場合って、
その法文について、解釈①と解釈②両方可能ってことになるかな?」
ツ「ならんな。悪質なあおりだけを処罰する解釈①しかできないことになる。」
私「それがいわゆる合憲限定解釈だよ。」
ツ「ああ、なるほどね。
その法律に含まれる法命題の合憲性についての判断がまずあって、
処分許容命題が違憲無効になる場合に、
残された解釈のことを、合憲限定解釈っていうのか。」
ツツミ先生は、納得したようであった。
しかし、何かを考えている。
・・・ちょっと怖い。ツツミ先生は、勉強と競馬の話になると、
顔はにこやかだが、目は笑わないという怖い顔になる。
ツ「じゃあ、『この処分をしなければならない』っていう
処分義務命題が無効な場合は、どうなるんだ?」
私「ああ、そりゃ普通の一部無効だよ。
例えば、第三者所有物没収事件の事案の条文見ると、
あの事案で没収を根拠づけない解釈は不可能だった。」
ツ「法命題論的に言うと、法律に
『犯罪の要に供した第三者の所有物は、第三者に手続保障なしに没収しろ』って
いう命題が含まれてるってことだな。」
私「そういうこと。その命題が違憲な場合、
合憲限定解釈じゃなくて、その法命題だけ無効っていう
一部違憲って呼ばれる処理になる。」
ツ「あ、そりゃそうか。
一部違憲は、処分義務命題が違憲
合憲限定解釈は、処分許容命題が違憲っていうことで、
両方とも、法律に含まれる法命題のうち一部を無効にするっていう点では
共通だ、っていうことになる。」
ツツミ先生は、手帳を出すと、次のような図を描きだした。
8 まとめ
法律 「あおり行為は罰する」
→可能な解釈
解釈①:悪質なあおり行為だけは罰する
解釈②:あおり行為一般は罰する
→この法律から導かれる法命題は二つ
命題A:悪質なあおり行為は罰しろ =処分義務命題
命題B:悪質でないあおり行為は
(解釈①を前提に)罰しなくてもいいし
(解釈②を前提に)罰してもいい =処分許容命題
→憲法判断の対象は、法命題。
AもBも違憲 → 法律全体が無効
Bが違憲 → 合憲限定解釈
因みに、命題Aはさらに細分化できる。
命題A-1:政治ストの悪質なあおり行為は罰する。=処分義務命題
A-2:労働ストの悪質なあおり行為は罰する。=処分義務命題
A-2のみが違憲なら、一部違憲の処理。
要するに、
処分許容命題が違憲となる結果、特定の解釈しかできなくなる場合、
その解釈を合憲限定解釈という。
処分義務命題が違憲となる結果、その処分の根拠法がなくなる場合、
一部違憲の処理という。
ツ「うむ。よくまとまった気がする。こういうことだろ。」
私「そだよ。」
ツ「なるほどねぇ。確かに、司法試験なんかでは、あんまり意識されないだろうな。」
私「そうだね。法律から法命題が導かれるっていうことは、
ケルゼンなんかを勉強すると、よくわかるんだ。
たぶん、芦部先生の世代の学者は、当然意識して憲法訴訟論を組み立ててると思うよ。」
ツ「ああ、あれか。その後の世代は、芦部先生は読んでも、ケルゼンは読まないから、
芦部学説の理解のニュアンスが、ずれてくのか。」
こうしてわれわれは横浜駅に着いた。
これで、同僚ともお別れである。
そう思っていると、しかし、ツツミ先生は、さらなるツッコミを入れてきた。
面倒なことじゃのう。
……こんなの見たこともないです。
こんな無意味な法文をあえて残しておく必要ってないですよね。。
いつか、法令の審査が終わったあとにやる、「違憲範囲の画定」について気をつけることとかルール(作法みたいな??)とかがあれば記事にしていただけると嬉しいです。
ありがとうございました☆
ここではなしているのは、自由権が問題になるシチュエーションなので、
「規制してもいいし、しなくてもいい」のうち
「してもいい」が無効になると、
根拠法なきかぎり、規制してはならないのが
憲法の自由主義原則なので、
結局、その法命題は全く意味のないものになります。
もう少しいうと、憲法自体が
「自由の規制は法律なきかぎりしてはいけない」
と定めているので、
「・・・の自由の規制をしなくてもよい」と定める法律は
屋上屋というか、無意味な内容だということですね。
たぶん、先生が連載して下さった「法令の審査方法」の後の処理ってどうやるんだろうって考えてて、気になってしまったんだと思います。急所の36ページに「注意すべきは、処分審査をしたからといって、画定される違憲範囲が審査対象の処分だけに限定されるわけではない」ってあります。それなら、「法令の審査方法」に従って処分の根拠になった命題を審査した後にやる「違憲範囲の画定」はどうすればいいのかなぁ、と…
で、今回「あおり」の問題があったので、その許容命題について審査した後の「違憲範囲の画定」はどうしたらいいかなと考えてて、こだわってしまったような感じになっちゃいました。。
ただこれは非常に専門的な問題なので
momoさんのように理解しても、別に問題ないと思います。
なぜこの問題が気になっているのかよくわからないのですが、
許容命題が無効になると困るのですか?
許容命題って、例えば、「悪質でないあおりを処罰するか、しないか」というような、立法府が選択権を行政や裁判所に与えている命題のことをいうものと理解しました。
それで、もし、悪質でないあおりを処罰することを根拠づけている部分が違憲、という場合、「悪質でないあおりを処罰するか、しないか」という命題が、まさにその処罰を根拠づけている部分になるので、この許容命題全部が違憲無効になる、ということなのだろうと思います。
ただ、ちょっと引っかかっていたのは、「悪質でないあおりを処罰するか、しないか」という命題のなかでも、一番問題があるのは、その命題中、悪質でないあおりも処罰できるという選択権を与えている部分なので、上の命題中の「処罰するか、」の部分だけを違憲無効にするべきなのかな?と思ってしまったんだと思います。許容命題全部が悪いというわけではなく、選択権を与えている箇所だけ取り除くべきなのかしら?と思ってしまったんです。
でも先生の反応みると、1つの命題をバラバラにして、問題がある箇所だけ無効にするというような発想は普通はしないのかな、と思いました。
違憲な処分を基礎づけうる命題も
許容命題なら無効にならないという趣旨ですか?
ここの記事で少しつまずき気味です。
許容命題についての、「<悪質でないあおり行為>を処罰することが憲法28条違反だったら、どうなる?」ツ「・・・。そうだな、Bみたいな命題が違憲無効になるはず。」」の記事の部分なんですが、B(許容命題)全部が違憲無効になる理由は、Bが、「悪質でないあおり行為をすることも処罰する」という、「違憲部分の選択もなしうるということを認めているから」、なのでしょうか?許容命題というのがなんだかフワフワしてて今ひとつ掴みづらいのです…許容命題で、選択肢の一つに違憲部分が含まれているとその許容命題がすべて無効になる、というのが消化不良な感じになっています。どのように理解すればいいのでしょうか?
やはり解釈の幅のある立法というのは、
裁判所に解釈の幅を認める趣旨の立法だと思いますが・・・。
>それほどLorem ipsum様と私の考えに違いがあるようにも
>思わないのではありますが。
そうかもしれません。実際,頭の整理の仕方の問題というか,観念的な話ではあるので,どっちでもいいといえばどっちでもいいですね。
実際,私の理解も,命題B-2に対する違憲的な判断を背景にしているわけですし。
要するに,私個人としてはこっちの説明の方がストンと来た,という程度の話だったので,
>その理解でも問題ないと思いますし、
>そういう側面はあると思います。
とのお言葉を頂けただけで満足です。
というわけで,あまり実益のない議論なのですが,もう少し私見をば。
>ただ、立法権が解釈の余地のある法文を立法するということは、
>裁判所にその解釈の幅の範囲で行動してよい
>という権限を付与する趣旨の立法なのではないでしょうか?
解釈の余地のある法文の立法が,裁判所に解釈させることを念頭においたものであるのは事実でしょうが,それが「解釈の幅で行動してよいという権限を付与する趣旨」であるという訳ではないというのが,私の意見です。
あくまで「解釈の幅で行動してよいという権限」は命題X(及び命題Y)という憲法規範に基礎付けられるものであり,個別立法に解釈の幅が持たされることはその事実的な反映に過ぎないということです。
「この説明の方がしっくり来る」という以上の理由づけを求めるなら,裁判所の「解釈の選択」権を司法権の一部と捉えることを前提に,その根拠をどこに求めるかの問題かなと思います。
先生のご説明ですと,何らかの根拠(おそらく憲法)から立法府には「解釈の幅を持つ立法」をする権限があり,さらにその「解釈の幅をもつ立法」が裁判所の「解釈の選択」権限を基礎づけるという,段階的な構造になると思います。憲法が立法の権限を基礎づけ,立法が司法の権限を基礎づける。
そうではなくて,立法府が「解釈の幅をもつ立法」をなし得るのも,司法部が「解釈の選択」をなし得るのも,共に憲法に根拠づけられる権限であり,ただ司法部は立法府の立法を素材に仕事をするという性質上,あくまで事実的な限界として,「解釈の選択」ができるかどうかは立法府が「解釈の幅をもつ立法」をしているかどうかにかかっているということです。このことは,立法府が司法部の権限を基礎付けているという規範的な問題ではなく,単に制度上・構造上の問題です。
なお,直上のブロックの説明と,上述の「個別立法に解釈の幅が持たされることはその事実的な反映に過ぎない」という文章が矛盾しているように見える(立法府の権限も憲法に由来するんじゃなかったんかい!?)かもしれませんので,少し補足を。あくまで立法府の権限も司法部の権限も憲法に基礎付けられますが,事実レベル・構造レベルで,立法府に解釈幅をもった立法の権限があっても,裁判所に解釈権限がないと解釈幅をもった立法はできない(司法部で運用しようがないから)という意味で,そのことを「事実的な反映」と表現しました。
規範根拠づけレベルでは立法も司法も憲法に根拠を求めますが,構造上の理由から,立法に権限がないと司法は権限を発揮する機会がない(発揮しようがない)し,司法に権限がないと立法も権限を発揮する機会がない(発揮すると後々困る),ということです。
要するに、
合憲限定解釈とは、
違憲的な解釈をしてはいけないという憲法規範に従って
裁判所が解釈をする現象であって、
法命題の一部を無効にするものではないのではないか?
ということですね。
その理解でも問題ないと思いますし、
そういう側面はあると思います。
ただ、立法権が解釈の余地のある法文を立法するということは、
裁判所にその解釈の幅の範囲で行動してよい
という権限を付与する趣旨の立法なのではないでしょうか?
そこが無効にならないというのは、
どうもおかしい気がするということです。
どんなもんでしょう?
それほどLorem ipsum様と私の考えに違いがあるようにも
思わないのではありますが。
来年度の司法試験合格を目指して先生の著書(『憲法の急所』)で勉強させて頂いております。このブログの存在はつい最近になって知り,今,「憲法学 憲法判断の方法」のカテゴリーを古いものから順を追って閲覧している最中なのですが,その中で,「合憲限定解釈も,法律に含まれる法命題のうち一部を無効にするものであるということが,いまいちしっくりきていません。
例えば,「あおり行為は罰する」という法律があり,それについて次の複数の文言解釈のヴァリエーションが存在しているとします。
解釈1:悪質なあおり行為だけを罰する
解釈2:あおり行為一般を罰する
木村先生は,この場合,「あおり行為は罰する」という法律の法解釈によって導出される法命題は,次の2つである,とおっしゃいますよね。すなわち,
法命題A:「悪質なあおり行為は罰しなければならない」=処分義務命題
法命題B:「悪質でないあおり行為は,
(解釈2を前提に)罰するか
(解釈1を前提に)罰しないか
選択することができる」 =処分許容命題
ということです(ここまでは殆どが記事の引用)。
しかし,ここで,解釈1を採用するか解釈2を採用するか,裁判所が「選択できる」というのは,裁判所の裁量ないしは義務の問題であって,その「選択できる」という効果は当該処分を根拠づける個別法(ここで言えば「あおり行為は罰する」という法律)の内容ではないように思います。
「複数の解釈があり得る場合に,裁判所がいずれかの解釈を選択できる」であるとか,「複数の解釈があり得る場合には,合憲的な解釈だけが可能である」とかといった内容は,まさに,そのような裁判所の権限を定めた法文に表現された法命題の内容であって,個々の処分根拠法から導出される法命題の内容ではないのではないでしょうか。
つまり,「あおり行為は罰する」という法律からは,
・解釈1を前提に,
命題A「悪質なあおり行為は罰しなければならない」
命題B-1「悪質でないあおり行為は罰してはならない」
という2つの命題が導かれるか,
・解釈2を前提に,
命題A「悪質なあおり行為は罰しなければならない」
命題B-2「悪質でないあおり行為は罰しなければならない」
という2つの命題が導かれるか,
といういずれかなのであって,その「いずれなのか」という問題は裁判所の裁量を定めた別の法命題が規定しているということです。
議論をもう少し事例に引きつけますと,まず,裁判所の法解釈権を定めた法令(憲法76条1項なのか81条なのか98条1項なのか何なのか私ごとき若輩者には解りませんが)が存在し,そこから導出される法命題として,
命題X「裁判所は,適用しようとする法律について憲法適合的な複数の解釈が成り立つ場合,いずれの解釈を採用するかについての選択できる」
命題Y「裁判所は,適用しようとする法律について,憲法に適合しない解釈が存在する場合には,そのような違憲的解釈を採用してはならない」
といったものがあるでしょう。
この法命題を前提に,裁判所が「あおり行為は罰する」という法律とその解釈1・2と
対峙した時に,裁判所は,解釈2を採用した場合にそれが違憲的な命題B-2を含むという理由から,命題Yに従い,解釈1を採用する(すなわち命題Aと命題B-1の存在を認定する)ということではないでしょうか。
このような処理は,命題B-2を違憲無効とする(すなわち一部無効)とするということではないでしょう。命題B-2(を導く解釈)は,命題Yの存在故に採用し得ないわけですから,命題B-2は元々存在していなかったわけです。合憲限定解釈は,確かに命題B-2に対する違憲の判断を前提とするものですが,存在する命題について違憲無効という効果を導くというのではなく,違憲的だからそもそも存在しなかったことにするというものであるように思います。
何だか意味があるのかないのかよく解らない疑問なのですが,是非,木村先生のご意見を賜れたらと思います。
了解です。こんどキムラ先生にきいてみます。
一言ヒントいっておくと、
法命題というのは、要件と効果からなる命題、
法解釈とは、法律から法命題を導出する作業
をいいますよ。
「あおり」とは悪質なあおりをいう、などの
法律の文言の解釈は、
法命題を導くための途中作業の一つで、
法解釈の途中作業なのですよ。
ではでは、ちゃんと聞いときます。
例えば、あおり行為の処罰規定だと、その規定が適用されるかは「あおり」の意味を確定しなければ判断できません。
そこで、その意味を①悪質なあおりとするならば、それによって、適用範囲が明らかになります。このように法律の適用される範囲を確定させる作業(物をいれるための器の大きさを決めるみたいなイメージでしょうか)を「法律の解釈」といい、この解釈によって確定された適用範囲に、ある想定される行為が含まれるかどうかを検討した結果が、法文から導出された「法命題」である、ということでしょうか。
こう理解すると、ツツミ先生のおっしゃった内容が理解できたのですが。ちょっと自信がないです。
たくさん質問して頂きありがとうございます。
とてもわかりやすくて勉強になります。
ただ、概念の整理が若干追いついていません。少し質問させて下さい。
「法律を解釈する」ということと「法律から法命題を導く」ということは、どのように区別するのでしょうか。
基礎的なことだと思うのですが、なんとなくわかるようなわからないような、多分私が聞かれたら説明できないです。すみません。
そうなのです。
違憲審査の対象は、法令といいますが
正確には、法令を解釈して得られる法命題なのです。
こういう細かいところを知らなくても、
論証はできるのですが、やはり厳密な
基礎理論の理解は重要かと思います^-^>
ありがとうございました。
芦部三類型の記事で先生が、
「この法令のこの処分を基礎づけ得る部分は違憲」・「この法令のこの処分を基礎づけている部分は違憲」と厳密に区別されていた意味が鮮明になりました。
処分許容命題が違憲であるから「得る」になり、処分義務命題が違憲であるから「ている」になるのですね。
すごくすっきりしました。