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木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

典型的適用例の概念

2012-01-17 06:43:59 | Q&A 憲法判断の方法
典型的適用事例という概念を分析している途中です。

採点実感をはなれ、かなり抽象的で難しい話になってきました。
ただ、こういう根本的なところから解きほぐさないと、
採点実感を含め憲法解釈論に関する言説は理解しきれないと思います。

こうなったら、しっかり理解してやるぞ!と思ってくださる方は、
ついてきていただければうれしいです。

さて、ここで、大事な質問がありましたので、記事にさせて頂きます。

木村先生。。

Bの法令審査①について質問があります。

先生がおっしゃられた、最も合憲ぽい適用例を審査するということは
多分理解できたとは思うのですけど

私の大分明後日の方へ行ってしまった審査方法は
法令審査①とはいえないのでしょうか???

私はその法文からでてくる全的用例に共通する点をくくりだした
適用例について審査することも、法令審査といえるのではないかなぁ、と考えたのですけど…

例えば戸別訪問禁止の例だと、その法律からは、
戸別訪問した時、場所方法、同意の有無…などなど、いろんな訪問形態が想定できますよね?

それらに共通していてくくりだせるのは、戸別訪問する行為ということになります。
なので法令審査では、戸別訪問すること、を禁止すること自体が許されるのかが、
審査されることになります。

他にも、暴走族条例なら、公衆に不安恐怖を覚えさせるような行為が、
想定できる全適用例の共通点といえるので、
そのような行為を禁止することが許されるのか、を審査するということになります。

ただ、先生の言っている合憲ぽい適用例だと、
もっと具体的に暴力的な集会という適用例を審査できることになるので、
そちらの方が合理的な方法とは思うのですけど…
(私の言ったやり方だと、公衆を不安にさせるような行為は
 暴力的な集会に限られないので、
 どうしても抽象的な行為を審査することになってしまいます)

長文でごめんなさい。大事なところだと思うのでなんとか理解しておきたいんです。。


>k.sさま (kimkimlr)
2012-01-16 06:25:43
こんにちは。k.sさんのご指摘の審査方法は
おそらく法令審査Bだと思います。

あらゆる事例に共通する要素を持つ事例
というのは、結局典型的適用事例です。

そして、注意をしてほしいのですが、
典型的適用事例・もっとも違憲の疑いの弱い事例の定義は
「その法令の保護法益を害していることが明らか」
です。


なので、その法令の「保護法益」をどう考えるかで、
想定される典型的適用例は大きく異なります。


(注意:当たり前ですけど「保護法益」は、
    その法律が「保護」しようとしている法益です。
    制約法益(その法令が制約してしまう法益)と混同しないようにしてください。
    そんなの間違えないよ、と思われるかもしれませんが、
    早指し秒読みの中だと、結構ごちゃごちゃになってしまいます。)



暴走族条例の保護法益は、恐らく
「暴力にさらされない利益」ではなく
(それを保護法益としているのは刑法の暴行罪規定)
「不安にさらされない利益」と解釈されるはずです。

なので、暴力を伴うものであれ、伴わないものであれ、
保護法益の侵害の程度は同じになります。
(どちらも典型的適用事例)

ということで暴力を伴う集会を典型的適用事例だと主張したいのであれば、
保護法益は「暴力にさらされない利益だ」と認定する必要があるでしょう。

そう認定する場合、暴力を伴わないが
公衆に不安をあたえる暴走族の集会は、
「典型的適用例」に見えて、実は、
「被告人に有利な特殊事情(暴力ない)がある
 特殊事例」になり、処分審査Bの対象になります。

このあたりを注意してみてください。


Unknown (k.s)
2012-01-16 08:38:20

木村先生。

おはようございます。

詳しく教えていただきありがとうございます!大分理解できました。

一つお聞きしたいのですが、「暴力的な集会」を、
典型的な合憲的適用例としたのは、
急所の172ページの二段階審査の箇所にそのような記述があったからなのですが…

このページに記述されてる「(例.暴力的な集会など)」というのは、
先生がここまで解説されてきた、法文審査の対象となる、
典型的な合憲的適用例とは異なる意味で用いられているのでしょうか?

異なるとしたら、

おそらく、典型的適用例を超えた(その意味では固有の事情です)、
誰がどう見ても、こんなことをやったらダメだろうという
極端な適用例(むしろどう考えても合憲にしないとおかしい例)を想定して、

この法律はこういう極端な適用例にも適用するものだから、
少なくともその一部については合憲部分を含んでいる
=少なくとも法文ぜんぶが違憲になるわけではない、
というような抗弁!?的な用いられかたをしているということなのでしょうか??

でもそれだったら、はじめからこの極端な適用例を審査するだけでいいですよね(どうせ合憲!てわかってますけど)。あ、だから意味ないから法文審査しなくていいってことなのかな。。

伝わりにくかったらごめんなさい。表現する力ってなかなか身につかなくて…




はい。大切なご指摘ありがとうございます。

ご指摘の例で、暴力的集会としたのは、
仮に、問題の法令の保護法益を「暴力にさらされない利益」「暴力的集会の防止」と
かなり狭く解釈した場合の典型的適用例になるかと思います。


保護法益を普通に解釈した場合(例:公衆が不安にならないこと)の
典型的適用例が違憲の疑いがあり、
かつ、
保護法益を、より限定して解釈すること(例:暴力の防止)が可能なケースでは、
そちらの保護法益との関係での典型的適用例を、
二段階審査の一段階目の審査対象にすべきだということになるでしょう。


ただ、保護法益をより限定して解釈することが許されるかどうかの判断は
なかなか難しいものです。

例えば、戸別訪問禁止の目的(保護法益)を
「選挙運動を装う強盗の抑止」と設定すると、
典型的適用例は、選挙運動を装った強盗ということになります。
そして、
強盗の規制は、どのような憲法論を採っても違憲になりようがないでしょう。

しかし、そういう議論を普通しないのは、
そうした保護法益の解釈が、ぶっとびすぎてて無理があると
(意識的にか、無意識的にか)考えられているからでしょう。


さて、そういう意味で、目的手段審査の枠組みをとるかどうかはともかく、
その法令の目的・保護法益を画定する作業は、
憲法判断の前提になる極めて重要な作業です。

ここに意識を配ってください。

k.sさま、重要な質問をありがとうございました。

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16 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (k.s)
2012-01-17 07:57:28
木村先生。
おはようございます!

先生が指摘された
『保護法益を、より限定して解釈すること(例:暴力の防止)が可能なケースでは、』
『ただ、保護法益をより限定して解釈することが許されるかどうか』

という点が完全に頭から抜け落ちていました。。

これを意識してれば、ブットンダ適用例を想定して、どうだ!といって、採点官をびっくりさせずにすみそうですね。

ありがとうございました!!
返信する
Unknown (昼夜逆転)
2012-01-17 10:08:11
>その法令の「保護法益」をどう考えるかで、
>想定される典型的適用例は大きく異なります。

これに関連すると思いますが。

目的手段審査は客観的な規範を立てることを志しているはずです。
しかし、薬局の距離制限の最高裁判例が、立法目的(保護法益)について、
積極目的の規制と判断することができたにも関わらず、消極目的と判断しています。
立法目的について、学者の先生が客観的な判断基準を示して、判例批判していないことに疑問があったのです・・・。

立法目的の判断は、目的手段審査に立つ以上、結論を左右するにもかかわらず、あまり議論されていないことに違和感が・・・。

けど、この疑問はあきらめています。
返信する
Unknown (平八)
2012-01-17 11:10:29
もしかしたら本記事とは少し離れるかもしれませんが質問させてください。

今年の採点実感の二段落目には、
判例の言及・引用をすべきである旨指摘されています。
具体的に今年の試験問題はどの判例を言及・引用すべきであったのでしょうか。
また、言及・引用といっても、具体的に判例のどの部分の記述をどの程度すればよいのか、検討がつきません。
問題を解決するのに必要な程度で、というのが抽象的な答えになるのかもしれませんが、もう少し具体的な指針がほしいところです。
何かコツみたいなものがあったら教えてください。
返信する
Unknown (Jiro)
2012-01-17 11:52:29
典型的適用例、事案によってはその認定が難しいと感じております。

平成23年司法試験憲法における「個人権利利益侵害情報」侵害の典型的適用例は何か?

当初、私は、
個人特定につながるプライバシー情報の侵害を典型的適用例として想定し、
この場合の規制は合憲、ゆえに法文違憲ではない。
その上で、「個人権利利益侵害情報」を個人特定につながるプライバシー情報に合憲限定解釈し、
生活ぶりがうかがえるような画像は、これにあたらないと構成していました。
しかし、よく考えてみると、
個人特定につながるプライバシー情報は、
「個人識別情報」で捕捉されています。
そうすると、「個人権利利益侵害情報」侵害の典型的適用例として、
個人特定につながるプライバシー情報の侵害を想定するのは筋違いのように思います。
そこで、「個人権利利益侵害情報」侵害の典型的適用例は、
たとえば、一般人の感受性を基準に公開を欲しない情報の侵害などを想定すべきだったのかと思います。

私の読み筋は、ピントがずれているのでしょうか?


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>みなさま (kimkimlr)
2012-01-17 12:51:27
>k.sさま
それはよかったです。
ありがとうございます。

>昼夜逆転さま
ご指摘の点は、『憲法の急所』(羽鳥書店・2011年)という
書籍の第六問でかなり詳しく説明されています。

私のよく知っている人が書いている本なのですが、
おすすめですよ。ご参照ください^-^>

>平八さま
>Jrioさま
はい。平成23年の採点実感・事案の分析については
今しばらくお待ちください。

まず、二段階審査の概念をやっつけちゃいましょう。
返信する
Unknown (akt)
2012-01-18 00:42:38
木村先生

こんばんは。

今回の連載、非常に興味深く拝見させていただいてます。

1点(?)程質問をさせてください。

ここでいう、2段階審査(典型的用例審査→司法事実から抽出される具体的適用審査)という審査手法は

・法令は、違憲な具体的適用例が一部含まれているというだけで全体として違憲となるわけではない

・他方、典型的適用例が違憲である場合には、他に合憲的に適用し得る部分が残存し得るとしても法令は全体として違憲となる


という理解を前提にしているということでよろしいのでしょうか?

もしそうだとすると、

具体的行為としては合憲的に規制し得るような悪質な行為を行った者が、典型的適用例は違憲な法令により帰省を受けた場合の処理はどのようになるのでしょうか。

(あまり良い具体例が思いつきませんが、
・典型的な戸別訪問の規制は違憲である
・ただ、利益供与を強く働きかけ、選挙の公正を著しく害するような戸別訪問の規制は合憲である
との判断が仮にされたとして、後者の行為を行った者はどのような憲法上の主張ができるか、といった場面を想定しています)

このような者も法令違憲の主張をして処罰を免れることができるとした場合、

・それは、第三者の権利の主張適格の論点とどのような関係に立つのでしょうか。

・この結論は問題となっている権利が表現の自由など過度の広汎性の法理が問題となる権利なのか、経済的自由なのかで異なるのでしょうか。



考えているうちに大分混乱してきてしまいました。。。大変お忙しいとは思いますが、お時間あるときに回答して頂けると大変ありがたいです。


よろしくお願いいたします。


返信する
>aktさま (kimkimlr)
2012-01-18 07:42:15
「・典型的な戸別訪問の規制は違憲である
 ・ただ、利益供与を強く働きかけ、選挙の公正を著しく害するような
  戸別訪問の規制は合憲である」
これは、いわゆる普通の戸別訪問が「典型的事例」ではないというだけです。

典型的適用例の定義は、最も違憲の疑いの弱い適用例なので、
法令審査Bで、
「利益供与を強く働きかけ、選挙の公正を著しく害する」戸別訪問を
検討した方がよいと考えるのであれば、そうして下さってよいわけです。

ただ、厳密には次のような考慮が働きます。

 実際に利益供与をしてしまうと、贈収賄になってしまう。
 そうすると、ご指摘のような戸別訪問規制部分は、
 贈収賄のうち、戸別訪問型の部分を加重している部分である。
 普通の贈収賄と戸別訪問型を区別する理由は、なさそうだ。
 そうすると、その部分は、いわゆる普通の戸別訪問より
 違憲の疑いが弱いとは言いにくい。

このような贈収賄との関係の考慮があって、戸別訪問の典型事例として
そのような強烈な利益供与のある事例を想定しないのだと思います。


あと、ちょっと考えてほしいのですが、
規制されてもやむを得ない行為を、
それを規制することと関連性のない目的で規制することは、違憲です。

例えば、
Aに対する強盗を、Aのパブリシティ権の保護のために規制することは
強盗規制とパブリシティ権保護の関連性が欠けるので違憲です。

最も違憲の疑いが弱い適用例、と言えるためには、
①規制された行為が、非常に悪質な行為である、と言うだけでは足りず、
②立法目的との関連性をよく説明できる事例であること、も必要です。

贈収賄の防止と、利益供与が生じやすい環境の防止は、
似ているようでいて、違う保護法益なので、
戸別訪問の典型的適用例は、ご指摘のようなものにならないのではないでしょうか?
返信する
Unknown (satoimomoko)
2012-01-19 16:54:35
木村先生こんばんは。
お忙しい中大変申し訳ないのですが、本記事に関連して質問が2つあります。

質問1
典型的適用例を想定する際に用いる「保護法益」は、処分の根拠法たる法令の目的を解釈した結果得られるもの、という理解でよいのでしょうか。
そうすると、答案上は、目的手段審査の目的審査部分で、「保護法益」を検討することになり、別途、根拠法の保護法益について検討する必要はないということになるのでしょうか。

質問2
仮に質問1の「保護法益」が法令の目的の解釈の結果得られるものである場合、急所第6問のような、原告・被告・裁判所で法令の目的についての解釈が異なる場合には、保護法益についての解釈も異なることになるので、三者それぞれが想定する典型的適用例が異なることになるという理解でよいのでしょうか。

急所第6問を初めて検討したときは、論証例は、k.s.さんが質問中で述べられているような、「全適用例に共通する点をくくりだした適用例」について法文違憲審査をしていると勝手に思っていたのですが、再度論証例を読み返したところ、原告被告それぞれが想定している典型的適用例は異なっているように読めたので、気になって質問させていただきました。

お時間がありましたら、ご回答よろしくおねがいします。
返信する
>satoimomokoさま (kimkimlr)
2012-01-19 20:05:03
質問1については、おおむねその通りです。

質問2については、そうも言えると思いますが、
「全適用例に共通する点をくくりだした適用例」とは一体何でしょう?
結局、保護法益を侵害していることが明らかで
原告の憲法上の主張のために有利な点がない適用例になる気がします。

その法令の適用例のうちでもっとも違憲の疑いの弱い適用例は、
理論的には一つになるはずです。

急所第六問では
原告のそういう普通の違憲審査に対して、
被告が積極目的の法理という特殊な法理で対抗している
とご理解ください。

ではでは
返信する
ご回答ありがとうございました (satoimomoko)
2012-01-19 20:58:07
木村先生
早速のご回答ありがとうございます

「全適用例に共通する点をくくりだした適用例」というのは、第6問で言えば、Y市での学習塾の開設を距離制限・生徒数制限を許可条件とした許可制にすること、となると思うのですが、結局は典型的適用例を抽象化したものになってしまいますので、先生がおっしゃるように典型的適用例を審査するべきだと思いました。

典型的適用例の定義は、原告が憲法上の主張をする上で、有利な事情が全くない適用例なので、理論上1つに決まるのですね。いつの間にか「原告が」という部分が頭からすっかり抜け落ちていました!つまらない質問をしてしまい、申し訳ありません。

積極目的については、特殊な法理と考えればいいのですね…確かに、積極目的は審査基準の定立に影響を与える事由であり、審査基準定立後の考慮事情に関わる典型的適用例とは機能が異なるのですね。腑に落ちました!

どうもありがとうございました。
また質問させていただくこともあるかと思いますが、よろしくお願いいたします。
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