木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

合憲限定解釈の二要件(1)

2011-09-09 15:47:14 | Q&A 憲法判断の方法
1 合憲限定解釈と明確性

 ツツミ先生は、横浜駅を降りるところで口を開いた。
 今度のダービーのことだろうと思っていると、ほざいた内容は意外にも勉強のことだった。

ツ「あのさ、そういえば、合憲限定解釈って不明確になるからやっちゃいけない、
  っていう人いるでしょ。
  こういう質問がきてる。

   防御権行使の結果、違憲部分が認められるため、裁判所はそれを除去しなければならず、
   しかしだからといって他の合憲部分まで違憲無効にはできない、
   従って、その違憲部分は、一部違憲として除去し、
   合憲部分については税関検査の二要件を充足するならば、
   合憲限定解釈を施すべきである(この場合は敢えて一部違憲と宣言する必要はない)、
   二要件を充足しないのであれば合憲限定解釈はしてはならない、という思考の流れでいいのでしょうか。


  これって、どうなの?」


私「うーん、まず、この質問者の方がいっていることは、概ね正しい理解だと思うよ。
  ただ、さっき話してきたように、一部違憲と合憲限定解釈の関係は、
  どちらでも選べるけど、あえて後者を選択するっていう性質のものじゃなくて、
  違憲と断じた法命題が、許容的命題か、義務的命題かによるっていうのが
  ごくごく厳密な物言いになるかなと。」

ツ「ふーん。じゃさ、合憲限定解釈の二要件って何?」

私「ああ、
  ①解釈した定式(処分要件の定式)の明確性と、
  ②その解釈の容易性(一般人の理解可能性)のことね。
  これは、別に、合憲限定解釈の要件でもなければ、
  表現の自由規制立法の解釈に対する要請でもない、
  一般的な法解釈の限界のことだよ。」

ツ「うーんと、どういうこと?」

私「まずさぁ、ドグマだけどさ、
  国会がもってる立法権っていうのは、明確な法規を作る権利だろ。」

ツ「そうだね。実質的な意味の立法の定義だ。」

私「だから、法律の内容は明確じゃないといけない。
  それに、その解釈の内容も、当然明確じゃなきゃいけないはずだよね。」

ツ「そりゃそうだよ。法律が明確ってのは、結局、
  それを解釈して得られる内容が明確だってことだからね。」

私「だから、法律を不明確な内容に解釈することは、
  そもそも法律の解釈とは言えないんだ。
  だから、法解釈をするときは、①内容が明確な解釈をせにゃならん
  という鉄則が導かれる。」

ツ「ふーん。でもさぁ、法内容の明確性って、
  表現の自由とか刑罰法規とかの場合じゃないと要求されないんじゃないの?」

私「うーんと、ここはねぇ、違うと思うよ。
  国会には、不明確な文章を法律にする権限はないから、
  どんな分野であれ、不明確な法律はつくっちゃいけないし、
  不明確な解釈もしちゃいけないはず。」

ツ「じゃあ、表現の自由、刑罰法規云々っていう議論はなんなの?」

私「うーんとね、法律の明確性の要請っていうのは、基本的に客観法原則なの。
  客観法原則だと、どういうことになるか分かる?」

ツ「主観的利益を守るものではないから、その違反の是正を
  個人としては主張できないってことになるね。」

私「そう。だから、不明確な法文で、表現行為や営業を規制した場合、
  規制された方は、
  『おれの行為には価値があるから、
  それを上回る利益がない限り規制できない』って、防御権の主張はできても、
  不明確だから、それを根拠に規制するな、とは主張できない。」

ツ「え、マジ。でも、不明確な法文で刑罰なんか課しちゃだめだろ。」

私「だから、表現規制と刑罰については、憲法は、国民に対し
  不明確な法文で表現規制・処罰されない権利っていう特定行為排除権を
  保障しているんだろ。」

ツ「ああそうか。じゃ、不明確な法文で営業を規制する行政処分をやると?」

私「うーん、通説の立場からは、
  その処分が不明確な法文に基づいているっていう理由だけで、
  処分取り消しを主張することはできない。
  但し、客観法原則違反は認められるので、
  国会はそういう立法をしちゃいけないし、裁判所が不明確な解釈をしてもいけない。
  ってことになるんだろうね。」

ツ「うーんそうか。なんか釈然としないな。」

私「そうねぇ、だから、不明確な法文で防御権を規制されない権利みたいな
  拡張された権利を観念する学説もあり得ると思うよ。」

 というわけで、①解釈内容の明確性は、どんな法解釈でも要求される
 解釈の限界の一つである。



ツ「じゃあさ、②解釈が一般人に理解可能って何?」

 と、話せば長くなる疑問をぶつけられたので、我々は、駅の定食屋「ピンクのクラゲ亭」に入った。

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8 コメント

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>京都プリンさま (kimkimlr)
2013-12-03 13:08:58
合憲限定解釈とは
そこまでに判明している違憲部分を除去する解釈なので、
最初にやった合憲限定解釈のあと
別の権利や適用例を審査して
さらなる合憲限定解釈をすることもよくあります。
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Unknown (京都プリン)
2013-12-02 12:39:01
先生こんにちは。お忙しいなかすみません。教科書で調べても載っていなかったので先生から直接に教えていただけたら嬉しいです。

適用審査のうち、当該適用例審査を行い、それが違憲であり、かつ当該適用例は典型的適用例ではなかったとします。
この場合、合憲限定解釈できればそうする、ということになると思います。

しかしこの場合、全適用例審査を行ったわけではありません。仮に、全適用例審査を行った場合には、当該適用例審査では見つからなかった違憲部分が判明していたとします。

そうすると、先の、当該適用例審査→当該適用例は典型的適用例ではない→合憲限定解釈できるか、という流れを考えたとき、仮に全適用例審査をすれば他に違憲部分が判明する以上、それ(全適用例審査)をしないまま、当該適用例審査の判断だけで合憲限定解釈をすることは不可能なのではないでしょうか。

似たような問題として、ある法律が原告なり被告人の異なる二種類の権利を同時に制約しているとします。この場合も、合憲限定解釈をするためには、一方の権利との憲法適合性を審査しただけでは足らず、もう一方の権利との憲法適合性を審査し、すべての違憲部分を画定した上でないと合憲限定解釈はできないと思うのですが、どうなのでしょうか。

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>しがない大学生さま (kimkimlr)
2011-10-05 23:22:01
こんにちは。
そうでしたか。まあ、本郷には、他にもいろいろ素晴らしいゼミがあるので、
なんでもよいからとにかく参加されることを
お勧めします。

ではでは、GHQと日本将棋連盟の対局については
また後日
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Unknown (しがない大学生)
2011-10-05 20:28:08
今学期もせっかく長谷部ゼミが開講されるのに、履修の関係で参加できませんでした。泣

客観法違反についてすっきりしました。ありがとうございます!

包括的自由権の問題についてのご回答もありがとうございます。
この問題もそうですが、憲法には学習が進んで再度出会うと、考え込んでしまう問題が多いですね。

えっ、殴りこみに行って、しかも完勝ですか!?笑
僕が想像してたよりも、当時は将棋禁止が起こりうる状況だったようですね。
記事が楽しみです。
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>しがない大学生さま (kimkimlr)
2011-10-05 16:41:22
どもです。
そうですか。宍戸ゼミ、残念でしたね。

①と②③はまさに、そういう違いが
あるといってよいでしょう。

宍戸先生の比例原則の理解については、
もう少し分析してみます。

そうそうトロール漁船方式でしたね。
小山先生と発想は共通していると思います。
簡単な答えで恐縮ですが、
要は「つまらない自由をもっとつまらない公益
で制約する場面」で憲法はどう働くか、
という問題群への回答ですね。


GHQの将棋禁止の件は、
当時としてはしゃれにならない事件ですが、
大変おもしろいお話だと思います。

ちなみに、GHQのアクションを受けた
将棋連盟では大騒ぎになり、
ある棋士がGHQに殴りこみに行って、
完勝するという事件がおきます。

いずれ記事にしましょう
返信する
Unknown (しがない大学生)
2011-10-05 15:11:51
いえいえ、ご回答いただきまして、ありがとうございます!講義お疲れ様です。

なるほど、わかってきました。
①と②、③の間で違いが生じる(=②、③に客観法違反も含まれる)のは

①は個人の利益を問題としている場面
であるのに対し、

②は公務執行妨害罪の保護法益である公務の円滑な執行という客観的法益を問題としている場面
③も司法の廉潔性や将来の違法捜査抑止という客観的法益を問題にしている場面

という違いがあるから、という理解で正しいでしょうか?

宍戸先生の著作の記述についてはまだ理解しきれていないところがいくつかあるので、直接質問できたらと思うのですが、あいにく宍戸先生とは面識がないんですよね。去年、ゼミを開講していたので、なぜ受講しなかったのかと後悔してます。笑
でも、せっかくなので教務係に相談してみようと思います。

宍戸先生の挙げた設問は訴訟の場面ではなく、立法の場面のように思われるので、比例原則が立法権を拘束しますよ、という趣旨なのかもしれません。宍戸先生にお会いしたら、教えてください!

あっ、あと、
「質疑応答(4・完) 自由権の考え方」において自由権の範囲を広くとらえるトロール漁船方式とは、憲法上の権利の範囲について、一般的自由説または小山先生のような違憲の強制からの自由の考え方と類するものでしょうか?

GHQの話は初耳でした!面白いですね。
チェスは相手の駒を使えないので、敵に寝返るようにも見える将棋のルールが衝撃的だったのでしょうか。笑
返信する
>しがない大学生さま (kimkimlr)
2011-10-05 10:25:34
こんにちは。晴海に講義にいっていて
お返事がおそくなりました。
もうしわけございません。

さて、おっしゃるように、
客観法原則とは、個人の利益に還元できない
客観的法益を守る原則なので、
いわゆる人格的利益説をとり、
髪型の自由や将棋をする自由を
人格的生存に不可欠ではない、と認定した場合、
坊主頭の強制や将棋の禁止(滑稽に見えますが、
昔GHQは「持ち駒のルールは捕虜虐待だ」という
理由で、将棋を禁止しようとした)
は、主観的権利の制約がない、
よって、強制された個人との関係では
禁止に正当な理由がないとしても、
違憲の評価を受けず、国賠も取り消しも請求できない
ということになるはずです。

というわけで①はその通りなのです。

これに対し、公務執行妨害罪の構成要件は、
「主観法違反ないし客観法違反ではない」
公務の妨害なので、比例原則違反の公務を妨害しても、
公務執行妨害罪にはならないはずです。
ということで、②はちょっと違うはずです。

また、③も、恐らく同じ原理です。
第三者の住居に令状なしの捜査をかけてとってきた証拠の場合、
被告人との関係で違法な捜査ではないのですが、
(被告人の権利を侵害する捜査ではない=被告人との関係では客観違法があるだけなのですが、)
排除されるべきだとされているので、
違法収集証拠の「違法」とは客観法違反も含む
ということになるのでしょう。


宍戸先生の記述については、近々お会いできると思うので、ちょっと確認してみます。
しがない様も、ご本人に確認してみてはいかがでしょう?
何か分かったら教えてください
返信する
主観的権利と客観法原則 (しがない大学生)
2011-10-04 01:34:25
この記事で触れられている客観法原則について質問させてください。

客観法原則違反について、個人は主張できないと記述されていますが、訴訟においていかなる形でも主張できないのか疑問に思いました。

(具体例をあげたいのですがその前提として)

憲法13条の解釈における憲法上の権利の範囲について人格的利益説を採った場合でも、13条後段は客観法としての比例原則を定めていると解されると考えることができます。(宍戸先生の憲法解釈のp23はこのような趣旨と読みました。)
この場合、人格的利益説から外れた自由に対する制限に妥当する客観法としての比例原則について、立法権を拘束するとしても、個人は一切主張できないのでしょうか?

例えば、
①取消訴訟において、当該処分は比例原則違反という違憲・違法の瑕疵があるから取り消されるべきであるという主張

②公務執行妨害罪についての刑事裁判において、当該捜査は比例原則に違反するから適法な職務執行といえず、被告人は構成要件に該当しないという主張

③刑事裁判において、証拠収集過程に比例原則違反があるため違法証拠として証拠能力を欠くという主張

これらは、客観法原則違反と捉えてしまうと、訴訟において主張できなくなるのでしょうか?

本来、このようなことは文献を探して調べるべきだと思うのですが、どうしても明示してある文献が見つけ出せず困ってしまったため、質問させていただきました。

付け加える形になってしまいますが、「質疑応答(4・完) 自由権の考え方」において自由権の範囲を広くとらえるトロール漁船方式は、憲法上の権利の範囲について、一般的自由説または小山先生のような違憲の強制からの自由の考え方と類するものでしょうか?

このように考えると、上記①~③の問題は回避できるのですが、宍戸先生がどのような趣旨で客観法原則と記述したのか理解するためには、やはり客観法原則違反の訴訟上の扱われ方を理解しなけらばならないなと思いました。

非常に長くなってしまいましたが、ご回答いただけたら幸いです。よろしくお願いします。
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