木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

居酒屋にて(5・完)

2012-01-30 06:56:54 | Q&A 採点実感
「キウイサワーを頼んだつもりだったが、
 何かこう、アルコールが足りない感じがするの。」

 神様は、全部のみほしてからサワーがジュースだったことに気付いたらしい。
 そして、神様は、さらにキウイパフェを注文した。

「さーてと、この問題で原告側から主張を立てる場合、
 まず、X社の行為が『表現』(憲法21条1項)に該当するかが、
 問題になるのぅ。」

  表現の自由の権利内容の新たな構築が必要となる。
  つまり,自由な情報の流れを保障する権利としての表現の自由である。

  本問における判断枠組みに関する最大のポイントは,
  判例や学説を参考にしつつ,相応の説得力を有する論拠を示して,
  自由な情報の流れを保障する表現の自由論を論述することである。

「佐渡先生は、こういう風に書いてあるので、
 まあ、ここが一つの争点じゃ。」

 この問題では、
 主体が法人という固有の自己価値を持たない存在であるため、
 Z画像の公開は「自己実現の価値に資する」と単純に書くと、説得力が弱い。
 また、直接民主制プロセスに役立つかどうかわからないため、
 Z画像の公開は「自己統治に資する」と単純に書くのも悪い。

 「Z画像の公開は、自己実現・自己統治の価値を有するので、
  憲法21条1項により保護される」とこの論点を1行で済ませるのは
 いわゆるステレオタイプ答案コースである。

「ここは、まず、
 『民主制プロセスの実現のためにどのような情報が
  役立つかは、容易には判断できず、
  流通すべき情報を、国家が判断することは、危険が大きい。
  Z画像も、公共団体の策定した都市計画や開発計画を評価するために
  重要な資料になる可能性があり、
  Z画像の差し止めは、民主制プロセスをゆがめる可能性がある。
  (自己統治の価値を損なう恐れがある)』
 とかとって、表現の自由を、情報を伝達する自由として提示することが
 求められとるんじゃろうのう。」

「国民の知る権利はどうなんです?」

「うん。それはあり得る。ただ、それを第三者の権利の主張だといって
 議論するようでは、ダメだろうな。
 博多駅事件なんかでは、マスコミの報道の自由を知る権利への奉仕
 を理由に基礎づけているが、アレは、
 第三者の権利主張ではなく、
 保障の根拠として、国民の知る権利への奉仕を挙げているにすぎない。」

「え!そうすると、ここではサービスを受ける国民は無視ですか?
 X者、ロンリーですか!」

 タケオカ先生の無駄に大きく通る声が響いたところで
 キウイパフェが届いた。

「うーん、そうでもないだろう。
 『多様な情報を受領することは、
  個人の精神生活・経済生活を豊かにすることにつながり、
  国民は、自由に流通する情報を受領する権利(知る権利)
  を保障されるべきである。

  Z画像についても、、、、(問題文指摘のZ画像の利便性を指摘)
  であり、そうした情報を流通させることは、
  国民の知る権利に奉仕する。  

  判例は、マスメディアの報道を、
  国民の知る権利に奉仕する重要な行為であることを根拠に
  憲法21条1項により保護する姿勢を示しており、
  Z画像の公開も、これに準ずるものとして、
  同項による保護を受けると解すべきである』

 こんな感じで書くべきかの。」

 佐渡先生の出題趣旨は、知る権利と書くとアウトかのような言いぶりだが、
 よく読むと、ユーザーの知る自由の侵害をX社が主張することを
 切り捨てているだけであり、
 保障の根拠論として知る権利への奉仕を挙げる博多駅事件の構成を
 『有害』認定しているわけではない。

「というわけで、こんな感じで、
 本件法律8条3項の停止命令一般が、表現の自由の制約となる、
 と認定してやれば、厳しい審査基準を設定できるだろうの。」

「あのう、法令審査終了後に、処分審査に移るとき、
 本件命令が、表現の自由の制約となる、ということも論じるのですか?」

 ツツミ先生は、もっともな疑問を提示した。

「確かに佐渡先生は、ブリ画像の提供の価値についても一言してほしそうじゃからの、
 『本件で問題となっているブリ画像の提供も、
  公共団体の策定した住宅政策の評価の一資料となる可能性があり、
  また、個人の生活においても、不動産売買の資料となる可能性があり、
  憲法21条1項で保護される』くらいのことは書いてもいいかもしれんの。」

 今、神様が述べたようなことは、
 法令審査のところで、Z画像提供一般は保護され、ブリ画像についても同様と
 まとめて論じておいてもいいだろう。

「さて、、、次は①高レベルブリ画像と②低レベルブリ画像の書き分けじゃの。
 法令審査・処分審査の二段階じゃから、
 後者の規制は前者の規制よりもよろしくない、と主張しておく必要がある。」

 そして、神様はパフェ頂上付近のキウイシャーベットを
 バクバクバクバク食べると、先ほど、本日のお勧めメニューを抹消した黒板に
 次のような図を書いた。

  論証一号:権利侵害の度合いは同じだが、表現価値が違う
   ①高レベルブリ画像の提供の表現としての価値は低いが、
   ②低レベルブリ画像の提供の表現としての価値は高い。
   よって、処分審査では、審査基準がますます厳格になる。 

  論証二号:①と②では、保護される利益が違う。
   ①高レベルを規制して実現される目的は「目的1(犯罪防止等)」であり、
   ②低レベルを規制して実現される目的は「目的2(気持ちの問題)」であり、
   ①は重要な目的だが、②は重要な目的とは言えない。
   よって、基準は同じでも、処分審査の方がパスしにくい。

  論証三号:①と②では、関連性の評価が違う。
   ①高レベルも②低レベルも、規制の目的は共通(犯罪防止、生活平穏等)だが、
   ①は、目的実現のために役立つ(関連性があり)と言いやすく
   ②は、目的実現のために役立つ(関連性がない)と言いにくい。
   よって、基準は同じでも、処分審査の方がパスしにくい。

  論証四号:②については同意がある。
   ①も②も、規制目的は共通だが、
   ②については、公道から見られる程度のことなので、
   そもそも、それが人に見られることに同意がある。
   よって、②は、権利制約を構成しない、同意により制約される。

「ほほほ。タケオカよ。この中には、1つだけ、どうしようもない
 解答パターンがあるの。どれじゃ?」

「それは、一号機でしょう!どっちも、大した違いのない画像で、
 これが違う価値を持つなんてことは、問題文に材料がないです。
 でも大丈夫。失敗をしたっていいんだよ。
 失敗は、お前の肥料だ。
 キリマンジャロだって、肥料でできてるから、大きいんだよ!」

 タケオカ先生は、こういうと、神様のパフェから
 ウエハウスを奪い、バリバリバリバリ食べつくした。

「ええと、この2号から4号のどれで行くかで、
 処分審査どこからやるか、変わってきますね。
 ええと、
 二号機だと、処分審査では、目的審査からやりなおし。
 三号機だと、目的審査共通だから、処分審査では手段審査のみ。
 四号機だと、次元が違う話になりますので、
       処分審査では目的手段審査やらないですね。」

 こうして、連中はすっきりした面持ちで、法の女神を出て行った。

 構成としては、こんなもんだろう。
 確かに、神様指摘の論証なら、審査基準でも十分解答できる。

 逆に比較考量でも、論証二号機から四号機のどれかを想定して、
 書いていかないと、議論がぐちゃぐちゃになろう。
 (審査基準には、議論を整理し道筋を明確にする機能もあるのだ)

 残るは、明確性の論証をしてやればおしまいである。
 と、いうわけで、どうやら、
 この長きにわたる連載も終わりの時が近付いているようである。

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52 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お礼 (四千番)
2012-01-30 07:21:32
いよいよ明確性の議論で1ヶ月連載も終わりですね。文面審査が最初にくるのかなと考えてましたが。あの問題の定義規定は、仮定としても実際の法律の規定と同じようなものだから(段階的だし諮問委員会判断)、不明確だ!適用は違憲だ!て書くと「有害」なんてわかりにくい実感という実感であります
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Unknown (みにとまと)
2012-01-30 08:10:31
連載ありがとうございます。木村先生にお伺いしたいことがあります。
論証2号と論証3号を見てよくわからなくなったのですが、以前に記事にしていただいた「地域社会圏住宅での戸別訪問 有段者の解答例」のココセの議論は今回はあてはまらないのでしょうか。高レベルブリと低レベルブリは、平穏侵害の危険の大小と同じように考えることができると思っていたのですが、でもそうすると2号なら処分審査の目的は高レベルブリになるはずだし、3号なら目的に高レベルブリと低レベルブリが入っているのはおかしいことになってしまうんですよね。ココセの議論はなぜあてはまらないのかを教えていただけないでしょうか。
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Unknown (YS)
2012-01-30 09:28:31
 キウイジュースとキウイパフェを飲み食いしながら,男だけの憲法談義……画を想像すると,なかなかシュールです(笑)傍にいる居酒屋の店員さんに同情します。
 神様がウエハースを奪われたのは,木村先生の唐揚げを盗った報いでしょうか?

 ここまでの連載でだいぶ思考の筋道が見えてきた気がします。とくに「高レベルブリ画像」・「低レベルブリ画像」の件は,先生の補助がないと辛いですね。
 「知る権利」についても,佐渡先生は博多駅事件についてどう考えているのだろうと少し迷っていましたが,今回の記事で安心しました。
 連載の最初でおっしゃっていましたが,出題趣旨・採点実感ともに「誤読」の危険性は大きいですねぇ^^;佐渡先生は読者として8段以上を想定しているのかなぁ。
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急いで返信! (kimkimlr)
2012-01-30 11:31:29
>みにとまとさま

同じような疑問を持たれる方も多いかと思い
急ぎですが、お返事させて頂きます。

お気づきの通り、2号機・3号機は、1号機に比べればましですが、
ココセの欠陥品です。

恐らく3号機の出力を2号機ないし4号機に接続させて処理する必要があるでしょう。

詳細は、明日をお待ちください。
返信する
Unknown (みにとまと)
2012-01-30 11:55:01
よかったぁ。なぜか急にわからなくなったので、今まで理解してきたと思ってたことがぜんぶ勘違いだったのかなって大分不安になってしまってました。とんちんかんな質問でなくてよかったです。どうかよろしくお願いします。
返信する
Unknown (ゆんゆん)
2012-01-30 20:01:55
非常に詳細な解説を頂いて感謝しております。
おそらく他の読者の方も思っておられるであろう疑問を申し上げます。
それは、「佐渡先生が~と言っているので」というところです。
これは現実の話に引きなおすと、採点実感にこう書いてあるので、ということですよね。
ですが、受験生は採点実感を読んで受験できないです。
先生のご趣旨は、理論的には色々な書き方があるけど、
採点実感がああ言っているから、こう書くしかないね、ということなのか、
それとも、あの問題文をみれば論理必然に採点実感と同趣旨の解答以外
およそ想定し難いということなのか、ということが気になります。
勉強したら自然に採点実感の求める内容が書けるようになるのでしょうか。
仮に採点実感を読んで初めて書き方がわかるような問題だとしたら
受験生はどうしようもないですよね。
あくまで設定ですが、ツツミ先生ほどの方でも、
「うーん、こう考えてくると、
 法令審査として、明確性の審査をして、
 処分審査でブリ画像停止命令の審査をする、
 という流れが自然な気がしますが・・・。」
とおっしゃっているので、ツツミ先生が受験したら
そういう答案にされるのかもしれません。
それだと、評価されないのですかね。
だとしたら、ちょっと変な試験だなって思うんですけど。
それとも、憲法の神様と同じレベルが要求される試験なんですか?
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Unknown (Jiro)
2012-01-30 21:25:18
キウイジュースに気づいたにもかかわらず怒らないとは、
神様は、お心が広いです。

同意のロジックについて、質問させてください。
今回のケースでは、「同意がある以上、権利制約がない」と処理するのでしょうか?
それとも、「権利制約はあるが、同意があるので、保護すべき法益にあたらない」とするのでしょうか?

対抗利益(保護法益)の判断ではなく、正面からその権利の制約について違憲審査をする場合、
『急所』によれば、同意のロジックは「正当化」の段階に位置づけられています。
プライバシーを例にあげれば、プライバシーに対する制約はあるが、
「同意がある以上、正当化される」という判断になると思います。
しかし、対抗利益(保護法益)の判断において、「同意がある以上、プライバシーの制約はない」という処理をすると、
この場合は、同意が「制約」の段階で問題にされることになります。
これでは、同意の位置づけが、文脈によって変わってしまうのではないでしょうか?
返信する
Unknown (シュナサン)
2012-01-30 22:56:19
連載ご苦労様です。非常に分かりやすい解説ありがたいです。

先生のブログと急所のおかげで、今年の試験では少しは、ましな答案が書けそうです。

ゆんゆん様の疑問について
 確かに、完璧な答案は憲法の神様クラスの能力が必要かもしれませんが、そこまでの答案を書かなくても、評価はされると思います。
 個人的には、「自己実現」「自己統治」「知る権利」「プライバシーの権利」等の用語を通説判例の見解を踏まえて、きちんと答案の上で説明できているかどうか、とか、対立利益をざっくりとした議論ではなくて、問題文にそくして検討できているかどうか、という点で差が付いていると思います。採点実感で、答案の分量が少ないという記述があったと思いますが、それは、そういう基本事項の説明が不十分な答案が多かったからだと思います(ただ「急所」の出現によりこの種の説明不足は解消されている答案が増えるとは思いますが・・)

 司法試験は相対評価の試験ですから、上記のような目的意識を持って勉強していれば、少なくとも中位ぐらいの答案に行くのではないかと思います。

 私も受験生ですから、採点実感を読んだときは、「憲法無理」とか思いましたが、先生のブログにより、どういう点を気をつけて勉強すればよいかがわかり、やる気を取り戻しました。

 個人的には、人権の側から、審査基準を振り分ける、「審査基準論」が正しいやり方だと思っているので、なんとか本番までには少しは使いこなせるようになりたいと思います(だいたい、本番で比較衡量したら、人権論を逆立ちさせるような議論をしそうで怖い・・)
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Unknown (振り飛車穴熊)
2012-01-30 23:05:56
はじめまして。
採点実感について、わからないことだらけだったのが先生のおかげでだいぶすっきりしたように思います。本当にありがとうございます。
ただ、採点実感の「原告の主張を展開すべき場面で,違憲審査基準に言及する答案が多数あった。違憲審査基準の実際の機能を理解していないことがうかがえるとともに」という箇所が未だによくわかりません。
というのも、原告の主張を展開すべき場面(設問1)においては、違憲審査基準を出すこと自体禁止しているように見えるからです。
今回、木村先生が、「審査基準には、議論を整理し道筋を明確にする機能もあるのだ」とおっしゃていることはこのことに対する反論の意味もあるのでしょうか。
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Unknown (ttr)
2012-01-31 01:39:00
上のコメントの方とかぶりうる質問なのですが、採点雑感には「『原告の』主張を展開すべき場面で違憲審査基準に言及するものがあり~」とあります。等価的比較衡量が本問で求められているのだとすれば、原告に限らず自己の見解を展開する場合であっても違憲審査基準に言及するのはよろしくないということになると思います。すると、採点雑感は、「違憲審査基準の機能」からすれば、あくまで「原告の」主張において違憲審査基準について言及することが望ましくないと述べており、等価的比較衡量をすべきだったとまでは述べていないように読めると思います。この読み方の当否について御回答いただけたらありがたいです。
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