さて、食事をし終えたところで、我々は<その4><その5>にはいっていく。
<その4>
規制されてもやむを得ない行為をした奴Aが、
規制の根拠法が、第三者Bとの関係で違憲になることの確認を
裁判所に求めた場合、裁判所はそれに応答する義務があるか?
ツ「ほいほいほい。これはノーだよ。簡単簡単。
ザッキーさん、平民Aさんによれば、抽象的審査じゃん。
よしのさんも好ましくないっていっているし、
訴訟を提起しても、しがないさんの言うとおりで『訴えの利益』がない。」
私「その通り。自分の権利じゃない以上、それについて裁判を受ける権利は
憲法上保障されない。
それゆえ、法律が、応答義務を否定しても違憲ではないし、
実際、現行訴訟システムは、そんな主張に対する応答義務を認めていない。」
ツ「あ、でもさ、じゃあ、訴状にそういうことを書くと、
訴訟法違反でペナルティ受けるのか?」
私「わはは。確かに、その事案の争点と関係ない議論をブーブー書き連ねる
書面書いてきた弁護士を懲戒したいっていう裁判官の気持ちはよくわかるけどね。
我々の期末試験で、講義と関係のない鉄道模型の運行ダイヤを延々書き連ねる
答案をみたときと一緒だよ。」
ツ「まったくだ。アンタの業績自己評価書の内容みたいだ。」
大学の教員は、年度末に年度内の教育・研究・社会貢献活動の業績について
自己評価を求められる。
私のように業績の少ない人間は、数少ない業績の価値をアピールするため
美辞麗句を連ね続けるのだ。
私「うるさいな。とにかくだな、気持ちは分かるが、訴訟法上禁止はされてない。
だから、訴状に、この法文は、あいつの権利侵害で違憲だ!って書いたって、
違法ってことにはならないよ。
第三者の権利主張適格ってのを、訴状に書く資格って理解するなら、
そりゃ、そんなもんいくらでもある。もってけどろぼー、というのが回答になるね。」
ツ「はっはは。確かにそうだな。でも、そんなもん議論する意味ないだろ。
書面に落書きしてもいいか、って論点だからな。
やっても違法じゃないけど、やめてくれって議論にしかならん。」
・・・。いや落書きは言いすぎだ。
<その5>
じゃあ、規制されてもやむを得ない行為をした奴Aの訴訟で、
裁判所が、規制の根拠法について
Aの権利侵害ではないが、
第三者Bとの関係で違憲になると判断した場合、
この部分は違憲です、と判決理由中で述べていいか?
私「ここは平民Aさんの回答が参考になるね。
この部分は違憲ってのは、いわゆるレイシオレシデンダイにならない。
けど、他の方々が指摘してるように、
判決理由中で裁判所がどんなふうに書くかは、
現行法では、裁判官の裁量に委ねられていて、
それを述べること自体は違憲・違法ではない、ということだね。」
ツ「よしのさんが言っている憲法判断回避の原則てのはどうなの?」
私「うーん、それは、憲法判断回避は憲法上の法的な要請ってわけじゃなくて、
政治部門との関係を考えた時に、そうした方がいいだろう、っていう
非法的な方針にすぎないんだよね。
だから、判決理由中で当事者と関係のない憲法判断をすることが
例えば憲法や民事訴訟法に違反し、違憲・違法でできない、ということにはならんなー。」
ツ「そういう例はあるの?」
私「当事者と関係のない部分の合憲判断をした例は、結構あるね。
例えば、猿払上告審は、現業公務員の事案で
非現業の規制も合憲っていってるだろ。
違憲判断だと、例えば徳島市公安条例事件では
事案は悪質なだ行進だったけど、
通常のデモ行進に適用したら違憲だろうって判断して限定解釈してる。
あとは、権利侵害の確認っていう例はあまりないけど、
政教分離違反を判決理由で確認した例ならちょくちょくあるよ。」
ツ「ああ。小泉首相の靖国参拝の事例だろ。
あれは、損害がないとか、主観的権利侵害がないとかいって請求棄却っていっといて、
ただ、参拝は政教分離原則違反ねっていった下級審判決がいくつかあった。」
私「その通り。あとは、自衛官合祀事件の最高裁判決もその例かな。
合憲判断だけど。あそこでは、合祀協力が国家の不法行為だっていう理由で、
原告が国に対する賠償請求もしている。
平民Aさんがなおがきって言っているけど、朝日訴訟の念のためのカッコ書きもその例だね。」
ツ「国賠請求か。だったら、原告の主観的な権利の侵害を主張しなきゃいけないはずで、
仮に国の合祀協力が政教分離原則違反でも、客観違法なだけで、
原告との関係では違法にならないってことになるよね。」
私「そう。だから、判断しなくてもいいはずなのに、
合祀協力は、自衛官の士気向上のために必要だからOKって言ってるね。
裁判所が、その事案と関係のない憲法判断する例は、実はそんなに珍しくないんだ。」
ツ「ふーむ。そうだったのか。」
私「まあねえ、できれば合憲判断にしろ違憲判断にしろ、憲法判断は控えた方がいいんだろうけど。
憲法判断回避の原則ってのは、日本の裁判官の身体感覚になじみきってないんだろうな。」
ツ「そうか。あ、そういえばさっき、
当事者が、当事者と関係のない憲法違反の主張(落書き)を
訴状や準備書面に書くことは自由だっていったよね。
で、裁判所は応答義務はないものの、それに応答するような
文章を判決理由中に書いてもいいってことだよね。」
私「そうだよ。」
ツ「そうすると、第三者の権利を原告が主張し、裁判所がそれに判断を示す、
っていうケースはありうるってことだよね。」
私「ははは。そうなるね。多分、アメリカでもそうだろう。
でも、そういう例をみて、『第三者の主張適格が認められた』とかっていうのは、
おかしいだろうな。
その場合、原告も裁判所も自由裁量に委ねられた落書きをしてるだけで、
原告に、『主張適格』が認められたわけじゃないし、
裁判所が『応答義務』を自認したわけでもない。」
いつの間にか、私も落書き扱いをしていた。
ツ「ふーむ。じゃあ、裁判所が、当事者の第三者の権利主張や
客観法違反の主張に応えているような論証を見つけても、
それを『第三者の主張適格を認めた判決だ』なんて
軽々しく認めない方がいいんだな。」
私「そうだね。明示にそういうことをいっているならともかく、
答えてるだけなら、単なるサービスの可能性が高い。
というか日本の訴訟法システムを前提にすると、そう読むべきだね。」
ツ「ふーむ。適格・義務と、ただの落書きでは、おんなじように見えて
法的ステータスは全然違うな。興味深い。
で、結局、『第三者の主張適格』ってのはどうなるんだ。」
私「基本的には、第三者の権利主張適格って概念を観念する必要はなくて、
その場で問題となっている実体法(その1・2)の内容をちゃんと分析すれば足りる
っていう、昔、安念先生が指摘した方向で議論を解消すればいいんだな。
訴訟の場での扱いは、第三者の権利侵害は客観法違反になるにすぎず(その3)、
それを原告や裁判所が書いても落書きにすぎない。
そういう落書きは、その事案の処理に影響はない(その4・5)ということさね。」
ふーむ。このシリーズは、論文にして公表したらウケるかもしれない・・・。
というわけで完です。